昼前の授業
「ここ日本なんだから英語なんて勉強する必要ねぇだろ!!」
俺はキンコンカンコンといやにうるさいチャイムと、斜め前の席にいる勝斗の声の大きい愚痴で目が覚めた。
「それ頭悪い人のセリフだよかっさん。」
「んだとぉ!?」
勝斗の後ろの席にいる要が笑いながら指摘する。
ハッハッハと外国人のような大げさな笑い方で座ってる椅子がガタガタと揺れれいた。
「まぁ確かに、今じゃスマホ1つでいつでも翻訳できるからな。」
机で寝たせいか痛めた首をさすりながら、俺は勝斗の擁護をする。
「お、誰だ上ちゃんにザオラルかけたのは」
「は?」
「死んだように寝てたもんな。新田がおこしてんのに全く起きる気配がねぇ」
「まぁニッティの授業はザラキだからね。あれは落ちますわ。」
「いやいやなんの話。」
2人がわけのわからない話をしているが、初日から数日が経ち俺はこの2人と仲良くしている。
勝斗と要は少し変わってはいるが、2人とも明るくて賑やかなので一緒にいて退屈しない。
「もしかしてかけたのは詩音ちゃんか!?詩音ちゃんなのか!?」
「ええ!私!?」
俺の後ろの席から詩音の急に話を振られて驚いた声が聞こえた。
振り返ると詩音は苦笑いをしながら肩をすくめている。
詩音とも仲良くしており、スマホの連絡先も交換した。彼女がこの学生生活唯一の癒しだ。
「だるい絡みはやめと・・・」
「アナタ達!!なんでまだ教室にいるの!!??」
甲高くてよく響く声が耳を通して頭の中を思いっきり叩く。
声の方を見ると、一番前の席にいた愛乃が腕を組みコツコツと力強く床を踏みしめてこちらに歩いてくる。
「でたっ!我らがクラス委員愛乃ちゃん!!!」
「ッッ!!」
「ひえっ」
茶化した要に向かって愛乃が鬼のような形相で睨みを効かした。こっちをみられてないとしても身構えてしまう。
「あの女の顔・・・俺のおかんみてぇだ。」
「ははははは・かっさんのお母さんか、想像できる。」
要への睨みを解いた後、俺の机の前まで来ていつものように仁王立ちで立ちはだかる。
その凜とした姿はまるで漫画のキャラクターだ。
「・・・別に教室に至って問題ないだろ。」
「アナタ次の教科を分かってないの?」
「あー。次の教科ね。」
「”異能訓練”よ!体操着を来てグラウンドに集合で女子の更衣室は教室なのよ!!」
「そういうね。」
そういうことよ!!と言い放った後に俺達三人は教室を追い出された。
「じゃあ!今から四限の異能訓練始めるぞガキども!!」
俺達は更衣室で体操着に着替えた後、グラウンドに向かい授業を受けている。外は晴れているがまだ四月なので肌寒くほとんどの生徒が上にジャージを来ている。
異能訓練の先生はというと、担任の椎名先生だった。
「空ねぇさんってこの授業担当してたんだぁ!」
「そうだよひまわり!女子には手厚く教えてあげるからね。男子はわかってるな!!」
「そ、空ねぇ。そっちの名前で呼ばないでよぉ。」
椎名先生を”空ねぇさん”と呼ぶのは、ほとんどの生徒が上にジャージを着てる中、半袖で授業を受けている詩音よりも短く髪を切っていて少し背が高く見るからにボーイッシュな女の子だった。
名前は 三ツ石 ひまわり(みついし)
詩音と仲が良かったため覚えている。彼女はどうやら下の名前をあまりよく思ってないようだが、よく理由がわからない。
「やーい!フェミニスト!」
「何か言ったか?」
「ひえっ」
野次を飛ばした要に対して椎名先生が持っていた出席簿を手でバンバン!と叩き、満面の笑みで圧をかける。
「あの女・・・姉貴みてぇだ。」
「ははは・・みてみたい。」
日光に照らされ逆光になり目に刺さるほどまぶしく光るメガネの位置を左手で直し、椎名先生は授業に入った。
「異能訓練と言っても何をするかというとだなぁ〜例えば〜。」
椎名先生がゆっくりとあたりを見渡し始める。
「印西!!お前の能力は爆発だったな?」
「そぉっすけど。」
「その能力は一般的な生活じゃ使い道は少なく、犯罪者などの制圧に使える完璧な”戦闘用”だ。」
「戦闘用?」
「もしお前が、異能犯罪警備会社とか能力を活かせる職に就職した時に、能力を職場で最大限使えるように訓練しておくのがこの授業だ。」
「そりゃあーつまり。」
「戦闘用の能力は訓練場で戦闘訓練!その他の能力はこのグラウンドで今からくる先生に指導を受けるように!」
生徒が一気にざわつき始めた。戦闘訓練どころか多分誰も自分の能力を訓練しようと思ったことはないはずなので全員驚きの声を隠せないでいる。
「おいおいまじかよ。戦闘訓練だってかっさん。」
「楽しみになってきたなぁ!?」
「能力だけならまだしも、頭も戦闘民族か勝斗は。」
ほとんどの生徒が動揺している中、この2人だけはいつもと同じで少し安心した。
「戦闘訓練は私が見るからはやく訓練場に行くぞガキども!私あの先生嫌いなんだよ。」
あの先生とはこれからくる先生のことだろうか。
「じゃあいってくらぁ。」
「怪我させないでねかっさん。」
「あんまあばれんなよ。」
戦闘用の能力を持つ生徒達が椎名先生とともに訓練場に向かって行った。
多分俺の能力は戦闘とかそういったものとは無縁のはずなのでグラウンドに残ることにした。
「戦闘訓練とか絶対痛いから俺無理だわ。」
「奇遇だね上ちゃん。俺もパスだね。」
「ほんとかよ。」
「おーい!!何してんだ上方!!!!お前もこっちだぞ!!!!」
「は?」
思いがけない言葉に思わず返してしまう。
遠くの方から椎名先生の大きな声で俺に赤紙を飛ばしてた。
「マジかよ。」
「残念だったね。上ちゃん。」
「早く来い!!!!!!」
要のニヤついた顔に少しイラっとしたが、ここでもたついていたらあっちについた時に椎名先生に怒鳴られるので苦虫を噛み潰したような顔になりながら、重い足を上げて走って行った。
訓練場とはた体育館のステージをなくし大きさを一回り小さくして、周りの装甲を頑丈にした場所である。
手前の方に生徒達を座らせて椎名先生が説明を始めた。
「まずはお前らのポテンシャルをみたい。だから最初は軽く組手みたいでいいから戦ってくれ。」
「組手ってなんだ?」
「スパーリングだろ。しらねぇのか」
「スパー?新手の炭酸水か。」
「んでそうなんだ。」
「そこ!うるさい!」
「「す、すみません。」」
なんだかこの先生に怒られるのに慣れて着てしまった。
「じゃあ一番手は上方と・・・」
「いや最初俺かっ」
「おっやる気あるじゃねぇか」
「あるどころじゃないって、やる気が見当たんない。」
運が悪くこの戦闘訓練の一番手に抜擢されてしまった。
「相手は誰だ・・・」
「詩音!」
「なっ!」
不幸中の幸いなのかわからないが、対戦相手が詩音になってしまった。
「マジかよ」