クラス委員
俺は自分の名前が好きじゃない。
真実と書いて”まなみ”と読むのはさすがに女の子らしすぎる。そのまま”しんじつ”と読んだ方がまだ良かったと思う。まぁでも嫌いでもないから親に文句は言ったことはないんだけど。
「なんで俺の名前を知ってるんだ。」
俺は基本的に人には苗字しか教えない。この名前を言うと驚かれることばっかだからだ。
というかそもそも彼女には苗字すら教えてない。
「先生が教えてくれたのよ!上方 真実君よね。あっまなみちゃんのほうがよかった?フフッ」
「どっちでもいいよ」
無邪気な笑顔で俺をおちょくってくる彼女を見るとよほど楽しいらしい。
このまま長居をしたら、面倒臭くなりそうなので俺はすぐに自分の机に行きスマホを取るとドアに踵を返した。
「ちょっと!私の名前は聞かないの!?」
「あー。そういえば聞いてなかったな。」
「そう。聞きたいのね!しょうがないから教えてあげるわ!私の名前は 足柄 愛乃よっ!」
愛乃は急にガラガラッと席を立ち、腕を組み、あのときの仁王立ちをしながら自信満々の顔で自己紹介をした。
窓の隙間から入ってくる風に愛乃の綺麗な長髪がなびかれる。
俺はあまりにも強引な自己紹介に、一瞬固まるもすぐに気を取り直してドアに向かう。
「愛乃ちゃんね。また明日。」
「何よ愛乃ちゃんって!ってちょっとちょっと!どこ行くのよ!」
「どこって帰るんだけど。」
「なんで帰っちゃうのよ!?これから一緒にクラス委員の仕事をするのよ!」
「ええ!?」
頭の中まで響く愛乃の声に負けないくらい、すっとんきょう声で反応してしまった。
困惑している俺に、愛乃が顎で黒板を差して来た。従うように俺は黒板を見ると、そこには図書委員などの各委員会と苗字が書いてあった。そして、一番左端に書いてあったのは・・・
「クラス委員 足柄 上方・・・マジかよ。」
「おおマジよ。」
「でもなんで・・」
「あなたが寝てるのがいけないんじゃない。他の男子が誰もやりたがらなかったから寝てたあなたに決まったのよ。」
「そんなバカな。」
「バカはあなたよ。」
まさか俺が寝ている間にそんな面倒くさそうな委員に放り込まれていたとは。
俺は肩を落として落胆する。
「そ、そんなに落ち込まなくたっていいじゃない!私がいるんだから!」
「どちらかというとそっちの方が落ち込んでる理由かなぁ。」
「ひどいこと言うわね!!もう!!!」
そう言うと愛乃は俺の肘を掴むないなや、愛乃が座っていた席の後ろに連れてかれ座らされた。
「まぁ俺がクラス委員ってことは受け入れたから。これから何をすればいいんだ?」
「ちょっと待ってね。」
愛乃は自分の座っていた席を俺の方に向けて20枚くらいあるプリントを俺の座っている机に置く。
「アンケート結果の収集だけだからそんなに時間はかからないわよ。でもあなたは寝てたから今書いてね。」
「はいっ」っと愛乃にプリントを一枚渡された。
俺が起きた時にプリントが机になかったところから考えると、本当に俺はいないものとされていたらしい。
まぁそんなことはあまに気にならなかったのだが、それより気になったのが。
「そんなに時間がかからないないなら、律儀に俺のこと待たなくてもよかったのに。」
「フフッ。甘いわねまなみちゃん!こういうクラス委員に任された仕事はね、一緒にやることに意味があるのよ!」
「どんな意味が?」
「色々よ!ほらさっさとやる!」
「わかったわかった。」
俺と愛乃は各自のやることに取り組んだ。俺のやっていたアンケートの内容は中学生時代の生活調査で、ほぼ選択するだけだっためすぐ終わったが、最後の”高校生でやりたいことは?”と言う質問の答えが思いつかず3分ほど考え込んでいた。
数分の沈黙が続いたが、意外にも先に話題をふって来たのは愛乃の方だった。
「そういえばあなたの能力ってどう言うものなの?」
「能力?俺はあれだよ。他人の能力が効かなかったり消したりする感じの、」
「無力化ね!だから私の能力が効かなかったんだわ!」
「愛乃の能力はどんな感じなの?」
「私の能力は”みんなの視線をわたしに集める”ことよ!」
愛乃は座りながら腕を組み、背筋を伸ばしてエッヘンと言いそうな風貌で自分の能力を言い放つ。
「へ、へぇー」
もう5時を回っていたため夕日が教室内を照らし、その光当てられた愛乃がかなり綺麗に見えてしまったため、俺は照れて窓の外に視線を逸らしてしまう。
「まっ。あなたにはなんの意味もなさそうだけどね・・・」
愛乃は力を抜くように仕事に取りかかろうとするが、なぜかずっと俺の方を見つめている。
「・・・俺の顔になんかついてるのか?」
「いや、あなたってカラコンしてないのね。」
「ああ。カラコンね。」
能力持ちは生まれた時から左目は日本人では黒のように人種にあった元々の色だが、右目は人それぞれ違う色を持っているのである。要するに能力持ちは皆オッドアイなのだ。
なので、外に出るときは基本的に能力持ちなことを隠すために右目にカラコンを入れて隠したいしているのだが、俺の場合右目の色が黒に近いグレーなため、いつもカラコンをしていないのだ。というより・・・
「まぁ隠したところで制服でバレるし、なにより俺は隠す気ないからな。」
「へぇー。どうして?」
「いろいろ」
「色々ね。さっ!さっさとやること終わらしましょ!」
それから俺と愛乃は多少の会話を挟みながらも10分程度で作業を終わらせた。
「よーーーし。やっと終わったー。」
「お疲れ様。じゃあ私はこれ先生に届けに行くから。」
愛乃はプリントを整えて、荷物をまとめていた。
「あー。俺も一緒に行こうか?」
「それくらい私1人でやるわ。大丈夫。ちゃんと2人でやりましたって言っとくわよ。」
「マジか。ありがとな。」
「いいのよこれくらい。」
先生のところに持って行くのは愛乃がやってくれるらしく、俺は荷物をまとめて帰ることにする。
「じゃあ、また明日。」
「またね、まなみちゃん。フフッ。」
最後に小悪魔のような微笑みをしてから愛乃は職員室に向かった。
「あいつ・・・」
こうして俺の長い高校1日目が終了した。