愉快なクラスメイト達
時間の流れってかなり不平等だ。
家でゲームしてる時とかスポーツしてる時とかは時間の流れがものすごく早く感じるが、授業や腹が痛い時の時間の流れはありえないほど長い。
今もそうだ。
2人の喧嘩を止めたはいいものの俺の言葉を区切りに誰も一切しゃべらなくなり、たった数秒の長い長い沈黙が続いていた。時計の時刻を刻む音と少しの呼吸音だけが教室内に広がる。
「いい加減にしてっ!!」
この凍りついた空間を一声で砕くように一番前の席から一声が飛び込んだ。
「どうして初日から仲良くできないの!?私たちはこれからこのクラスで一年間過ごすのよ!!!」
よく通るハキハキとした女性の声でワンテンポ遅れた説教が頭の中に力強く響く。
「急になんだ・・・って、え!?」
急の声に戸惑いながら周りを見渡すとあることに気がつき驚きの声を上げてしまった。
俺がつかんでいる2人の生徒を含め着席している全ての生徒がこの声の主を見ているのである。それ自体はあまり不自然ではないのだが、この一連の説教が終わるまでずっと首の位置まで固定して声の主を凝視していた。その光景はさすがに薄気味悪いものを感じてしまう。
「まず第一に、」
声の主が読み途中の本を机に置き席を立つ。声の主は女性で肩甲骨まで伸びた髪が綺麗な艶を放っている。
勢いよく振り返ると俺の目の奥を見るかのような目力で俺をまっすぐに見つめ、コツコツと規則の正しい足音を奏でクラス全員の視線と共に俺に向かって歩いて来る。
「なんで初対面の人と喧嘩になるような失礼な事が出来るの!?」
彼女は俺の目の前まで来て、腕を組み仁王立ちをして強烈な質問を投げつけられた。
彼女の大きな目は可愛らしさのかけらもなく、強すぎる目力に情けなく圧倒される。
「お、俺のせいかよ!?」
「他に何が?」
こいつマジか。
どうやらこの騒動の発端は俺だと勘違いしているらしい。
あまりの衝撃に返す言葉が見つからず、またもや長い沈黙が始まった。
しかし今回の沈黙はそう長くは続かず、すぐに教室を勢いよく開ける音によって破られた。
「よう!クソガキども!!初めましてだな!!」
これまた大きな女性の声が教室に響く。このクラスには声がでかい人間しかいないのか。
さっきまで俺に説教をしていた彼女に集まっていた視線が一気に教室に入って来た担任らしき女性に集まった。
彼女も担任らしき女性を見ていたため、さっきの視線を集めていた現象は解かれているらしい。
「なんでつっ立てんだお前ら?・・・あぁ、いきなり喧嘩ねぇ。」
2・3歩教室の中に入り状況を確認すると、教卓に向かいまた歩き出した。
「まずは自己紹介から始める!私が今日から1ー2のクソガキどもの担任を務める椎名 空花だ。自己紹介は以上!」
この強烈な自己紹介の影響で教室が少しずつざわめき始めた。
椎名先生の見た目は長めの髪を後ろでポニーテールを作り前髪をセンター分けにしている。活発そうな言動に対してメガネをかけており、目は悪そうだ。
「とりあえず立ってる奴は着席しろー。あと男子3人は放課後下の学習室に集合な。」
椎名先生がそういうと目の前にいた彼女はフンッと言い残し、喧嘩していた手が爆発する男は舌打ちをして、体が青白く光っていた男はゴメンねっと軽い謝罪をして席に戻ってゆき、俺も着席した。
「た、大変だったね・・・」
「なかなかね」
着席をすると琴ヶ浜が後ろから労りの声をかけてくれた。
琴ヶ浜は眉毛を八の字にして困り顔をしており、その顔が少し可愛らしく照れてしまったため俺はすぐに前を向いてしまった。
それにしても、なんで男だけなんだ。あの状況だけ見れば4人で喧嘩しているように見えるはずなのに。
「これからお前らには自己紹介を兼ねて係り決めをやってもらう。」
椎名先生がそういう係り決めが始まり、順序良く進んでいった。
しかし、係りとかにはあまり興味がなく俺は五分もしないうちに眠ってしまった。
「上方くん?・・・上方くん!!!」
「うおっ!?」
授業中によく寝ていたため先生にはよく起こされていたが、普通の女の子の声で起こされたことは初めてで飛び起きてしまう。
「あ、ああ琴ヶ浜。おはよう。」
「おはようってもう放課後だよ〜」
「マジかよ。」
「マジだよ!上方くんって先生に放課後呼び出されてたよね?他の人たちは先行っちゃったよ。」
あー。確かにそんなことがあったような。
「やっべ、ありがとう琴ヶ浜。また明日!」
「じゃあね上方くん!」
小さく手を振ってくれる琴ヶ浜を尻目に俺が急いで2階の学習室に向かうと、椎名先生が教卓の前に立っていて、その前に席に2人の生徒が座らされていた。
「お、遅れてすみませ〜ん。」
「遅い!!!男が女を待たせるな!!!!!」
いきなり喝をもらった俺は面を食らいながらも2人の隣の席に座った。
「まず、おまえらはなぁ!・・・」
かなり長い話だったので内容はあまり覚えてないのだが、女の子をいじめるなや、女の子はデリケートやらよくわからない話ばかりをしていた。
最後に「初日だから反省文1枚で許してやる!明日朝1でもってこい!」と俺たちの机に原稿用紙をバァン!と力強く置き教室をさって行った。
「なんかあの先生ってめちゃくちゃフェミニストじゃね?」
急に喋り出したのは俺の隣にいる体が青白く光っていた男だった。
「顔もいいのにあれじゃ彼氏いないな!」
「おめぇってほんとデリカシーねぇな。」
「そんなこといわないでよーかっさん!」
「かっさんはやめろ!」
「・・・2人ってマジで仲いいの?」
ついさっき喧嘩してたとは思えないほど仲のいい2人につい質問をしてしまう。
「仲めっちゃいいもんねー!」
「やめろ気持ち悪りぃなぁ!」
「じゃあなんでさっきあんな喧嘩してたんだ?」
「あーそれはねぇ」
「こいつが俺の髪の毛を雑に弄りすぎるんだよなぁ!こごもの頃に自分の能力で頭爆発させちゃったから髪の毛がボロボロなんだよ」
「自分の頭爆発させちゃうとか面白すぎだよね〜」
「てめぇこの野郎!」
「ひぃ!ごめんなさい!!」
どうやら髪の毛は触れちゃいけないポイントで、そこを弄りすぎてしまったため、ああいう風になってしまったらしい。
「ほんと仲いいんだな。俺は上方。2人の名前聞いていい?」
「全然オッケーだよ!俺は宇治 要!!それでこのゴツい方が・・・」
「印西 勝斗な。能力は手のひらに何かくっついたら爆発させることができんだけど、要するに”爆破”って感じだな。」
「あー!能力ね!!上ちゃんの能力って無力化とかでしょ!?」
「上ちゃんって初めて呼ばれたわ。能力はまぁそんなとこ。」
「じゃあさ!帰りに俺の能力見してあげるから一緒に帰ろうよ!」
「おめぇ今日バイトじゃなかったか?」
「あやっべ!ちょごめん先帰るわ!じゃーね!」
「おう」
「また明日」
時計を見たあと急いで荷物を持ち要は急いで教室を出て行った。
「じゃあ俺も帰るわ。チャリ通?」
「いや、電車だよ。」
「そっか。それじゃあな」
「うん。また明日」
要に続いて印西も帰ってしまったため、俺は教室に1人取り残された。
なんとなくスマホを見ようとしてポケットに手を突っ込むとポケットに携帯がないことに気づく。
「あれ?教室かな。」
俺は荷物を取り、三階の1−2の教室に戻ると放課後から1時間ほどの時間が経ち誰もいないはずの教室に黒髪ロングの少女が窓側で一番前の席に座って窓の外を眺めていた。
「あっやっと来たわね。真実ちゃん。」
「げっ」
ドアを開ける音で俺に気づき、子供がいたずらをする時のような笑みを浮かべ俺に話しかけ来たのは、喧嘩を止めたはずの俺に説教をして来た女の子だった。
ちょっと長くなってしまった。