バラの高校生活
「あなたが1番楽しかった時は?」
この手の質問をされた大人は大体『高校生の時』とか答えるだろう。俺の親もそう言っていた。
成人して、酒やタバコや色々な娯楽が解禁されるのにそれを超えるほど高校って楽しい所なのか?
入学式では何時間も座らされて腰が痛いし、本当にこれから薔薇のような生活が待っているのか不安になって来た。
「お尻痛くなっちゃった?」
「えっ」
急に後ろから話しかけられる。声色からすると女の子だ。
腰の痛みをどうにか和らげようと座っているポジションをクネクネ変えてたらどうやらバレたらしい。
これはちょっと恥ずかしいな。
「確かに校長先生の話ながかったよねぇ。私10分ぐらいで寝ちゃったもん。」
振り返ると後ろの席にはショートカットの女の子が笑顔で俺に話しかけていた。
「俺なんか校長が最初に何行ったかも覚えてないよ。」
「あはは。不良じゃん」
「そっちこそ」
「それにしても先生来るの遅いね。入学式で寝ちゃったからもう寝れなくて困っちゃうよ。」
そう、今日から俺は誰もの黄金時代であった高校生活が始まり、長かった入学式を終え、今教室で担任の先生を待っているのである。
「まぁかれこれ20分ぐらい待ってるからね、これ以上座ってたら腰が石になっちまう。」
「あはは。そうだ!名前教えてよ!」
「あー名前か。上下の上に方向の方で上方だよ。」
「上方くんかぁ。私は 琴ヶ浜 詩音って言うんだ。よろしくね!」
「こちらこそどうぞよろしく」
琴ヶ浜はニコッと俺に笑顔を投げかけてくれる。この高校には知人が1人もいなかったため、知り合いができて少し安心した。しかし、高校一番最初にできた知り合いが女の子とはちょっとついてるかもしれないな。
この後琴ヶ浜と他愛のない会話をして暇を潰していると、急に怒鳴り声が教室の中に響き渡った。
「てめぇ!さっきからなめてんのかぁ!?ああ!!??」
さっきまで俺と琴ヶ浜との会話ぐらいしか雑音がなかったのに一気に教室がざわつき始めた。
斜め前の方の席でかなりきついパーマの男が立ちながら後ろの席の男に向かって怒鳴っている。
ブレザーの上からでもわかるほど怒鳴っている男の体は筋肉質で首が丸太のように太い。
怒鳴られている方の見た目は後ろからだからよく見えないが男にしては長めの髪の毛をワックスでガチガチにしている。
「おいおい高校初日から喧嘩かよ。」
「なんか、怖いね・・・」
今まで元気そうに会話してた琴ヶ浜の声が明らかに震えていた。
「てめぇ人の頭をネチネチ触りまくってよぉ!!髪が痛むだろうが!!」
「いやだって触っていいっていったじゃんか!」
いやそこかよ。そして仲良いなあいつら。
怒鳴られている方も立ち上がり必死に弁解をし始めた。見た感じ喧嘩というよりは一方的に怒られているようだ。
「触るにしても限度があるだろうがぁ!!!!!」
その声と同時に筋肉質のパーマが右手でワックスで決めた男を平手打ちした。
バァン!!という教室では聞き慣れない爆発音とともにワックスで決めた男がこっちに吹っ飛ばされて来た。
俺の机が激しくグラついた。
「いってぇえ!今あいつの手爆発したぞ!?」
「そういうのなんだろ。それよりお前ら大の仲良しなんだな。」
「でしょ。」
確かに今殴った手が確実に爆発していた。そんなことは人間やマジシャンだって普通そんなことできない。
それよりコイツ今さっき殴られてたのに随分呑気なやつだ。
「というか大丈夫かよ。」
「へっ。サイコーに大丈夫だぜ。」
「ほんとかよ。」
「まぁ見てなって。」
「何てめぇらこそこそ喋ってんだぁ!?」
ズカズカとこっちに筋肉質の男が大股で近づいて来る。眉間にしわを寄せて歌舞伎俳優顔負けの迫力だ。
「えっ!?」
急に後ろの琴ヶ浜が驚きの声を上げた。その理由は近づいて来る強面のせいではなく、目の前にいるワックスで決めている男体から微かに青白い光のようなものが湧き上がっているからであった。
さっきから普通の高校生活、いや普通の人生を送っていれば起きることのないような、まるで漫画やアニメに出て来るような現象が次々と起きている。
でもそれにはしっかりとした理由がある。 それは俺たちが普通じゃないからだ。
今日俺達が入学した高校は”神奈川第二異能専門高校”という学校である。それは数千人に1人ぐらいの確率で超能力や圧倒的身体能力を生まれ持った能力持ちのために作られた学校だ。能力持ちは中学生まではどこの学校にも入れるが高校生になるとこういった県に設置されている異能専門学校に入ることを決められている。
まぁだからこういった超常現象が起きているのだが・・・
「さすがに、能力の打ち合いはやめろよ。」
俺は立ち上がり能力を使おうとして青白く光っていた男の肩に手を置いた。
「なにすんの!?ってあれ?」
「何邪魔してんだてめぇ!!」
さっき殴った手が爆発した男がこっちに手を振りかざして来そうになったので、すかさず手を掴む。
「んだ!てめぇ!!・・ん!?」
さっきまで青白く光っていた男の体からは何も出でおらず、殴る時に爆発していた男の手からは何も起きていない。
「まぁさ、俺友達少ないしこれから俺とも仲良くしてくれよ。」
俺が能力持ちに触れている間だけは、漫画で見るような超常現象もスーパーマンのような圧倒的身体能力も発動せず、そこは普通の現実になる。
俺の持っている能力は”能力の無力化”だ。