第1夢 序曲9
「だあぁー、もー、やってらんねぇー!」
四階に上がったとき、そんな叫び声が聞こえた。この声は二年三組の方からだ。
「だいたいよぉー、おかしいだろこの課題。もう華菜のやつ、一小説吹くごとにこの問題集の問題一問やれとか、本当頭おかしいっつの、あの、天然腹黒女っ」
グチグチグチグチうるさいなぁ。もうちょっとは静かにしてくれ。
ていうかなんでこいつ、部活の時間に勉強してんだ?
……いや、させられてるのか。
とりあえず注意喚起しよう。
そう思いつつ、俺が二年三組のドアを開けると、金髪サイドテールの少女が左手にアルトサックス、右手にシャープペンシルを持って、問題集が開かれた机に向かってた。
彼女がこちらに気づいた。
「あ、先生。大丈夫っすかー」
「ああ。もう大丈夫だ」
「ところで先生、19×28って何ー?」
「532-。って、なんで俺に聞いてんだよっ」
我ながらこの暗算能力、チートか。
「えだって、そこにいたから」
そんな理由で……。
「ああ、そうそう。アタシは三年の楠 柚希だから。覚えとけよ、先生」
「あ、あぁ。覚えとくよ」
偉そうだなー、こいつ。
「じゃあ先生、計算機になりたくなかったら出てって。集中できない。勉強の邪魔。……それと、さっきは教えてくれてありが……」
「?」
「なっ、なんでもないっ。さっさと出てって」
「はいはい」
とんでもない性格の子だな。
まあいいや。
次は五階に行こう。
もう少しマシな人と出会いたいなぁ。
そう心の中で呟きつつ、俺は二年三組をあとにしてそそくさと五階へと向かった。
でもあいつも、ちゃんとした吹奏楽部員なんだな……。
それにしても、二年三組には、机というのセットが二五個あった。これだけしか生徒がいないのに、こんなにもの机と椅子、しかもご丁寧にその一つずつに誰かの名前が書いてあった。