第1夢 序曲5
カフェテリアの前にある階段を上っていると、放送が流れた。
『華菜様、華菜様、至急音楽室まで来てください。繰り返し放送します。華菜様、華菜様、今すぐ音楽室まで来てください』
華菜様とは、誰のことだろうか。……まあ、いいや。
二階まで階段を上ったとき、白髪ツーサイドアップの小さな少女とばったり会ってしまった。
「先、生……おは……よ、う……」
「おう。おはよ」
「体調……良く、なった?」
「ああ。おかげさまで」
「それなら……良かっ、た。みんな……先生の、こと……心配、してた……から」
「そっか。それは悪かったな」
「ううん……大丈夫」
しゃべるのが苦手な子なのかな?
「自己紹介……する」
「お、おぉ」
「私、は……二年、の……柊 水樹。よろ、しく……先、生」
「ん、よろしくな」
二年でこの身長かー……。
不意に前方へと目をやると、職員室が見えたと思ったその瞬間、無意識にそこのドアを開けていた。
中には一、二……三〇もの机と椅子とパソコンがあった。
俺以外の先生はいないらしいのに……。
「あの、この学校には俺以外の教師なんていないんだよな?」
「うん……その、はず……」
「じゃあなんでこんなに机と椅子とパソコンがあるんだ?」
「……分から、ない、です……」
分からないのかぁ……。
「それ、では。放送が……終わった、ら……帰ってくる、ように……言わ、れて……た、から……私は、もう……行く」
あの放送、こいつだったのか……?
「あ、あと……先生も、あと、で……音楽室……来れ、たら……来て」
「ああ。分かった」
「じゃあ……」
そう言って彼女は目の前の階段を勢いよく駆け上がって行った。
俺も仕方なく目の前の階段を勢いよく駆け上がり……は、しなかったが、ゆっくりと上っていった。