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みんな同じ夢をみていた  作者: 海那 白
第2夢 橘 真菜の章
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第2夢 橘 真菜の1章 昔話part1

 これは、あたしがこの桜高校に来る前の、中学生の時の話だ。

 あの時もあたしは、吹奏楽部でトランペットを吹いていた。

 

 

 

 あたしが吹奏楽部に入ったのは、音楽が好きだから、という不純な動機だった。

 だから、そもそもの全校生徒の人数が一〇〇〇人以上を越えるマンモス校だったっというのもあるが、部員数が八〇人以上だということも、全国大会出場を五年連続で決めている名門校だということも、正直どうでも良かった。

 

 一番最初の楽器決めの試験の時、トランペットが上手く吹けた。

 だから、トランペットパートになった。

 正直、楽器なんて、どれでも良かった。

 

 あたしの部は人数が多いため、二つのチームに分けられていた。

 大会出場主体のスパルタエリートチームAチームと、イベント参加主体のまったり楽しくやろうチームBチームだ。

 あたしはBチームでも良かったのに、なぜかAチームに入れさせられた。

 顧問の先生に理由を聞くと「才能があるから」と言われた。

 トランペットを吹くのは楽しいから、部活の時間が大好きだった。Aチームの方がBチームより練習時間が長いと知ったから、Aチームで良かったと思えた。

 

 二年の時、初めて大会に出た。

 大会メンバーは、公開オーディションと先生からの指名制で決め、その参加資格は二、三年生であることなのだが、その結果、三年生の先輩を差し置いて1stに選ばれてしまった。

 トランペット1stというパートは、吹奏楽の中で一番目立つパートだと自負している。

 正直、嬉しかった。

 みんなに自分の音が聞いてもらえることが、あたしの生きがいだと思っていた頃だった。

 先輩なんて、どうでも良かった。


 大会メンバーが発表された日の夜、トランペットパートの先輩たちに呼び出された。

 なぜ呼び出されたのか、心当たりが全くなかった。

 親には部活のミーティングだ、と嘘をついた。

 

 先輩たちは、正門前にいた。


「……ねぇ、これはどういうこと?」


 先輩が、険しい顔で、苛立ちを込めた声でそう言ってきた。

 なぜ先輩は、そんな事を言うのだろうか。


「え……美月先輩、なんのことですか?」


 怒られるようなことをした覚えは、ない。


「下手なアンタがアタシたちの1stを奪い取ったことだよっ」


 どんどん顔が険しくなっていく。

 どこに怒る要素があるのだろう。

 奪い取る……?

 1stは誰のものでもないはずだと思う。


「ち、千秋先輩。奪ったわけじゃ……」


 何が、悪いのだろう。

 何が、いけないのだろう。

 なぜあたしは、怒られているのだろう。


「いいや、アンタが奪い取っていった。アンタのせいでアタシたちが責められてるんだ、よっ」


 肩を勢いよく押され、門にあたってガシャンという壮大な音を立てる。

 でも、工場に囲まれた場所のため、そんなに目立ってはくれなかった。

 想像以上の痛さに、思わずあたしは肩を抱いた。


「じ……じゃあ、ゆずりましょうか?夏夜先輩」


 もし本当にそうなってしまうと、少し残念だけど……。

 でも何故、そんなにも1stに執着するのだろう。


「そういう偉そうな態度が余計ムカつくんだ、よっ」

「カハッ」


 腹を思いっきり蹴飛ばされ、今度こそ門に背中を強打する。

 不意に開いてしまった口から、溜まっていた唾が飛び出てしまう。

 さらに痛みが増した。

 もうその場からしばらく動けずに、あたしはその場にへたりこんだ。

 先輩たちは、そのまま舌打ちだけを残して去っていった。

 あたしはしばらくして痛みが引いた頃に、帰宅した。

 

 また、トランペットパートには男の先輩もいた。

 部活がなかった時に、彼の家へと強引に連れて行かされた。

 彼もあたしも両親が共働きだというのを知っての行動だったんだと思う。

 彼の部屋で、おそらく親のものだろう、お茶と言われて飲まされたものは、ウォッカだった。

 そこからは、あまり覚えていない。

 気が付けば、彼の部屋のベッドの上で、全裸で寝かされていた。

 彼は、あたしが起きたことに気づいた。


「チッ。起きるの遅い」


 なぜ彼は、起こっているのだろうか。

 怒りたいのはこちらの方なのだが……。


「す、すみません一也先輩」

「おい真菜。今日ここでのことは誰にも言うな。それと、今日みたいに部活が休みの日は、毎日ここに来い。学校が休みの日も、学校を休んだ日もだ。もしどちらか片方でも守れなければ、この動画を俺の友達や吹奏楽部の男子にばらまくのと、インターネットにあげるから」


 彼がそう言ってあたしに見せたスマートフォンの画面には、全裸で顔を真っ赤にしてあんあん喘いでいるあたしがいた。

 よく見ると、あたしの全身には、たくさんのキスマークがついていた。

 まさか、彼は、あたしを……!

 そう思うと、背筋が震えた。


「お前に拒否権はないからな。この動画を見られたくなかったら、おとなしく俺の言う通りにしろ。わかったな」

「……はい」


 あたしは、そう頷くしかなかった。


 そんなことが何回も続いた。

 

 結局、その年の大会は、今までどおり全国大会で銀賞を受賞した。

 その後あたしは、先輩たちのことを堂々と告発した。

 そして、そのことを理由に不登校になった。

 でも、一也先輩とのことだけは、告発することができなかった。

 告発したことによる見返りが来てしまうのが、怖かったからだ。

 

 不登校になってから気づいた。

 トランペットは家でも吹ける、ということに。

 だから、わざわざ部活に行ってまで吹く必要もない。

 それにもう、吹奏楽はやりたくない。

 また、同じ目にあいたくないからたくないから。

 

 でも、不登校の間でも、一也先輩の家に行かされていた。

 そしてそれが、その時のあたしの唯一の苦しみだった。

 あの日も、そうだった。

 でも、少し違った。

 いつもどおりの時間に、いつもどおり和也先輩の家に行かされていた。

 気が向かなかったが、先輩のあの時の顔が、あたしの足を動かしていた。

 まだ恐怖は、続いていた。

 どうやったらこの恐怖から逃れられるのだろうか。

 そんな事をずっと考えていた。

 だが、いくら考え続けても、その方法は思い浮かばなかった。

 

 そんな時、ある男性があたしに話しかけてきた。

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[気になる点] 『あたしが吹奏楽部に入ったのは、音楽が好きだから、という不純な動機だった』→え? コレで不純だったら純粋とは一体? 「いいや、アンタが奪い取っていった。〜だ、よっ」 「そういう偉そう…
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