12/40
第1夢 序曲12
「あっ、先生。音楽室に来て欲しいというのは誰かから聞いたか?」
「あ、はい」
「僕は桜一族じゃないから別に敬語を使わなくてもいいんだぞ?」
確かに彼女は、さっきのふたりと違ってエンブレムが付いていない。
ということは、この黒髪ストレートの少女は桜家一族ではない。
「桜家一族とは何だ?」
「なんか、この学校の創設者の血統のことをそう言うらしい。エンブレムをつけている人がそうなんだと」
「なるほど」
だからって敬語まで使わせるか?普通。
「あ、自己紹介がまだだったな。僕は二年の荒木 楓。吹奏楽部の部長だ。よろしく」
「ああ。よろしく」
よかった。こいつとは意気投合できそうだ。
「先生、もう全員音楽室に揃ったから、よかったら、今から来てみないか?一曲くらいなら披露できる」
あの子達の演奏……どうなるんだろう。まあ、下手な演奏でもしたら、盛大に笑ってやろう。
「分かった。行く」
俺は、面白半分でそう返事をした。
「それなら良かった。聞いたらきっと、あの子達に対する価値観が変わるぞ」
「価値観……?」
「ああ。僕も驚くくらいに」