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異世界でトータルビューティーアドバイザー始めました  作者: 翡翠
第二章 スキル『所持品リセット・セーブ』
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「……何か、落ち着かない」


 どこのスイートルームですか? と聞きたくなるような広い部屋に、一目で高価であると分かる品の良い調度品の数々。

 大きなベッドはシーツがピシッとシワ一つなく整えられており、気楽にゴロンとしてシワをつけるのも何だか申しわけない気がして、仕方なくソファーに腰掛けているところである。

 あの後(・・・)、セイロン公爵とサイラスとセレンティーヌ兄妹と晩御飯を一緒にいただいて、それから座り心地の良いソファーのある応接間に皆で場所を移し、麻里の今後についての話をしていたのだ。

 結果を言えば、無事セイロン公爵邸に居候させてもらうことになった。

 それについて条件と言えるほどではない条件を言われたのだが、また車に乗せて欲しいということと、異世界(麻里のいた世界)の話を聞かせて欲しいということだった。

 ……まぁ、言葉通りには受け取っていない。

 少し話しただけでも分かる。

 セイロン公爵はとんでもないタヌキ爺だ。

 異世界人である麻里の利用価値を、頭の中で算盤弾いているだろうことは容易に想像出来る。

 とはいえ、衣食住の心配がなくなったのは本当にありがたいことだし、もともとタダ飯食らいになるつもりはなかったし、できる限りセイロン公爵家のために働くつもりではある。

 だが、麻里に出来ることといえば家事全般と美容に関するものくらいだ。

 あとはよく分からない『所持品リセット・セーブ』のスキル。


「ま、後で考えればいいか。とりあえずお風呂入ろ」


 スイートルームばりのこの部屋には、お風呂とトイレも付いている。

 中世ヨーロッパ調な世界ではあるけれど、元いた世界の中世ヨーロッパとは違って下水道は完備されてるようで一安心。

 麻里付きの使用人をつけてくれると言われたが、丁重にお断りして掃除と洗濯だけお願いすることにした。

 本当は掃除も自分でやろうと思ったのだけれど、高価な調度品の数々を思い出し、もし掃除中に傷なんてつけてしまったら大変だと諦めた。


 先ほどチラッと覗いたときに石鹸らしきものはあったのだが、シャンプー・トリートメント・ボディーソープの類は見当たらなかったので、この部屋に連れてきてくれた使用人に聞いてみたら、やはりこの世界には石鹸しかないようで。

 正直、香りもあまりよろしくなかったので、先ほど車から部屋に運んでもらった荷物の中から、お泊まりセットと寝巻き代わりのデカTを持って、浴室へ。

 猫足のバスタブが可愛い。

 普通にお湯も水も使えるのは嬉しいが、シャワーは海外のように固定されているので、そこは少しだけ不便であるが文句は言えない。

 ボディーソープには特にこだわりはないけれど、薔薇の香りが気に入って、ここ一年ほど同じものを使用している。

 麻里がこだわっているのは、シャンプーとトリートメントだ。

 天然由来の素材しか使っていないもので、正直かなりお高い。

 メーカー側が個人販売していないので、契約している美容院でしか手に入れることが出来ないのである。

 麻里が通っていた美容院は三十代後半の男性が一人で経営している美容院で、シャンプー、カット、カラー、パーマ、ヘッドスパと全て彼がやってくれて、他の美容院のように途中で担当が変わることがない。

 完全予約制で、店内で他のお客さんと鉢合わせるといったこともない。

 使用しているものは全て天然素材のものにこだわっていて、お店の内装はバリ風なのもいい。

 こんな風にこだわりのあるお店を持ってみたいなぁ、なんて行くたびに影響を受けて帰ってきていたのだ。

 このシャンプーとトリートメントを使うようになって、枝毛・切れ毛が減って髪質が柔らかくなった。

 もう絶対に手放せない! なんて思っていたのに……。

 髪と体を洗い、バスタブに浸かってホウッと息を吐く。

 意図せず異世界に来てしまい、セイロン公爵家の後ろ盾を得ることが出来たのは、本当に運が良かったと思う。

 中世ヨーロッパ風な世界のようだけれど、衛生面はちゃんとしてるようで助かった。

 そのまんま中世ヨーロッパだったとしたら、トイレは壺のようなものを使っていたそうだし、淑女のドレスのスカートが広がっているのはそのまま壺をまたいでトイレ出来るようになっているのだと聞いたことがある。

 綺麗好きとされる日本人として育った麻里が、そんな環境で生活していけるとは思えない。


(でもなぁ、私が持っているシャンプーなんかも、そのうち底をついちゃうわけで。そしたらこの世界の石鹸で洗わなければならないのよね? う〜ん、考えたくない)


 よくある小説なんかだと主人公が自分で作り出したりしているのだが、麻里にはどんな素材が良いなどの知識はあっても、作り方の知識はないからムリである。

 石鹸の作り方すら知らないのだから。

 無意識に溜め息が次々と出てくる。


(……帰りたいなぁ)


 気を抜くと、そんな思いが脳内を占めてしまうため、麻里はキュッと唇を引き結んだ。


(取り急ぎ私がやらなければいけないことは、この世界の常識を知ることね)


 知らないということは、とても怖いことだ。

 今の無知のままでは、簡単に騙されたり利用されてしまうだろう。

 常識を知らないということは、ものの善悪の判断ができない状態にあるといえる。

 元の世界に帰れるのが一番いいけれど、それは期待できなさそうであるし……。

 ここで生きていくのならば、出来るだけ早く自立したいと思う。

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