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急いで車寄せの端の方へと車を移動させ、エンジンを切って先に車を降りる。
まず運転席の後ろのドアを開け、セレンティーヌに降りてもらい、そして助手席側に周りドアを開け、サイラスに降りてもらう。
その間に馬車は門を潜り玄関前で停まると、サイラスたちの父親であるセイロン公爵らしき人物が、馬車からゆっくりと出て来た。
どうやらサイラスは父親似であるらしい。
髪色以外はほぼ一緒と言ってもいいほどに似ている。
因みにセイロン公爵は金髪で、サイラスは茶髪である。
セレンティーヌは金髪に菫色の瞳をしているので、髪は父親に、瞳の色はきっと母親に似ているのであろう。
サイラスとセレンティーヌがセイロン公爵の元へと近付き、挨拶を交わす。
「父さん、お帰り」
「お父様、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま」
そしてセイロン公爵が視線を麻里へと向けると、
「ところで、そこの女性はどなたかね?」
と尋ね、サイラスが麻里をセイロン公爵へ紹介する。
「彼女は迷い人のマリ・ミズタ殿です。先ほど屋敷の庭に、そちらにあるクルマなるものに乗って現れました」
「ほう、あれはクルマというのか。馬もいないのにどうして動くのか不思議に思って見ていたのだが、あれは迷い人であるマリ殿の世界の乗りものなのかな?」
「ええ、詳しい説明を求められても困りますが、ガソリンがあれば数百キロは走りますね。ただ、こちらの世界にガソリンはないと思いますので、今入っているガソリンがなくなり次第、ただの鉄の固まりになってしまいますが」
「フム。先ほどそのクルマからサイラスとセレンティーヌが出て来たように見えたのだが……。私が乗ることも可能かな?」
「え? ええ。運転するのは私以外の方は無理ですが、乗るだけであれば誰でも可能です。一度に乗れるのは、運転手の私を含め七名までですが」
「では、私も乗せてもらえるかな?」
……やはり親子というべきか。目をキラッキラさせて、期待に満ちた顔をしている。
「……どうぞ」
なぜか公爵だけでなくサイラスとセレンティーヌも再度一緒に乗ることになり、座るスペースを確保するためにメイクグッズの入った段ボールやその他の荷物を幾つか車から出して玄関前に置くと、今日麻里が泊まる部屋へと使用人の方たちが運んでくれるそうだ。ありがたい。とりあえずお礼を言っておいた。
「じゃあ、動きますよ~。あちこち勝手に触らないでくださいね? 特にサイラスさんとかサイラスさんとかサイラスさんとか」
「全て私の名前なのですが?」
不思議そうな顔をしていることにイラッとして、嫌味を込めて口にする。
「さっき散々触ろうとして注意されたの忘れちゃいましたぁ~?」
「そうでしたか?」
飄々と返されて言っても無駄だと悟り、もうどうでも良くなって車を動かすことに意識を集中する。
先ほどと同じように車寄せをぐるぐると何周かして、
「もういいですか?」
と公爵様に聞けば、頷かれたので端の方に寄せて車を停める。
ドアを開ければ、親子三人満足そうな顔をして車から出て来た。
「満足頂けたようで、何よりです」
「このクルマというものは、随分と快適に走るのだな。それにとても丈夫に出来ているようだね」
公爵はサイラスと同じように車をペタペタと触り、ドアをノックするようにトントンしてみたりと、車から視線を外さずに聞いてくる。
「ええ、窓以外は多分殆ど鉄で出来ていると思うので、武器を使用されたとしても一撃では貫通しないと思いますよ? とはいえ同じ場所を何度もしつこく攻撃すれば穴があくとは思いますけど」
「馬車よりも安全というわけだな」
「そうですね。ロックしておけば外からはドアが開きませんし、馬の倍速で走れますから振り切ることも可能かと」
そこまで話して、公爵の目がギラリと光った気がした。
「このクルマだが、馬車の走る道ならば走行可能かな? 走れない場所などはあるかい?」
「まあ、馬車が通れるほどの道幅があれば大丈夫だと思いますし、四駆なので多少の悪路ならば走れますが……」
何となくだけれど、とてつもなく嫌な予感がするのは何でだろう?
公爵様の和やかな笑顔が、胡散臭いものに見えてしまうのは何でだろう?