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助けてもらえるのは、正直物凄く助かる。
でも、公爵って私が知っている爵位と同じだとしたら、王族の次に高い位じゃなかったっけ?
調度品や使用人の数やら見ても、財政難とは無縁そう(寧ろめちゃくちゃ裕福そう)だし、きっと私利私欲のために近付こうとする人間なんて吐いて捨てるほどいるだろう。
(私が言うのも何だけど、もっと警戒心を持とうよ)
「……セレンティーヌさん? そんな簡単に他人を信用したらダメ! もしかしたら異世界から来たなんて、私が嘘言ってるかもしれないでしょ? あなたたちを利用しようとしているかもしれないでしょ? 悪い人間かもしれないでしょ?」
人が一生懸命に注意してるというのに、この兄妹は麻里のことを、とても微笑ましいものでも見るような目で見ている。
「騙そうとしている方は、そんな風に注意されたりしませんわ。それに、わたくしは本来とても警戒心が強いのですよ?」
なんて言うセレンティーヌを失礼は承知でジト~ッとした目で見れば、彼女はワタワタし始めた。
「ほ、本当ですのよ? そうですわね、お兄様」
今度は兄であるサイラスに必死にすがるような視線を向ける。
何だろう? サイラスと違って決して綺麗な顔をしているわけではないのだけれど、雰囲気というか、セレンティーヌはとても可愛いのだ。
あざといとか、計算とか、そういうのとは全く無縁な天然ものと言えばいいのか。
思わず頭を撫でたくなるような可愛さがある。
ということで、ギュウッと抱きしめて頭を撫で撫でさせてもらっている。
「はぁ、何か癒される」
麻里の腕の中で顔を真っ赤にして照れて固まっているセレンティーヌと、彼女を抱きしめて撫で撫でしながらニヤニヤしている怪しい麻里。
それを見ていたサイラスが、
「どちらにしても、マリ殿はこちらの世界に知り合いなどおられないでしょうし、今日はこちらに泊まって下さい。保護の件については、今はまだ私に決定権はありませんので、当主である父が帰ってきたら私から話をします」
と言って家令を呼び、すぐさま麻里の部屋を用意してくれた。
「あの、正直泊めてもらえて助かります。ありがとう。それで、私の車だけど、あのまま庭に置いておいていいの?」
わざとじゃないとはいえ、芝生の上を走ったのだから、多少なりとも芝生を傷めてしまっただろう。
これ以上芝生を傷めないように、コンクリートはないにしても、芝生でない平らなところに置かせてもらえればと思ったのだが。
サイラスは車に乗せてもらっていないことを思い出したようで、
「では今からっ、今からクルマに乗せて下さい!」
物凄くグイグイと近付いてくる。
(だから、近いんだってば!)
「分かった! 分かったから、少し離れて!」
車に乗れると分かり、サイラスはようやく離れてくれた。
この人の相手は疲れると、麻里は小さく溜息を一つついた。
セレンティーヌもついて来たので、二人とも一緒に乗せることに。
荷物がたくさん乗ってるが、その辺は少し我慢してもらう。
車は玄関前に広がる車寄せの、邪魔にならない端の方に停めることにしたので、二人を乗せながらそのままゆっくり移動することにした。
「これは何だ?」
「それはカーナビっていって、目的地を設定するとそこまで道案内してくれるの。こっちの地図は入ってないから今は画面真っ黒で使えないけど」
「これは何だ?」
「それはハザードっていって、前後左右にある小さいライトが点滅するの」
「これは何だ?」
「それは……って、さっきから煩いってば! とにかく今は大人しく座って見てて!」
助手席に座ったサイラスは、見るもの見るもの指を差して聞いてくるから、最初は丁寧に答えていたが、少しイラッとして黙らせた。
運転席の後ろにセレンティーヌが大人しく乗っている。
けれど、瞳はサイラスと同じようにキラッキラしている。
やっぱり似ていないようで似ている。
出来るだけ芝生の負担を少なくするように、徐行で車寄せのところまで進んでいく。
まあ、そんなに距離があるわけではないから、あっという間に着いてしまったわけだが。
「もう少し動かせないかい?」
なんて兄妹揃ってジッと見てくるから、仕方なく妥協した。
「じゃあ、この車寄せをくるくる回るのでもいい?」
「もっと、もっと早く動かせるのか?」
「え~、じゃあこのくらいで」
「これが一番早いのか?」
「いや、直線なら馬の倍の速さで走るかな。距離で言えば馬は交換しながら行けば一日百キロ程移動出来るけど、車なら道にもよるけどガソリンさえ入ってれば数百キロは移動出来るよ」
「何と、そんなにか?!」
「ねえ、もういいでしょ?」
「いや、もう少しだけ、頼む!」
そんなことを繰り返しているうちに、門の前に立派な馬車が停まっていた。
「ねえ、馬車停まってるけど、私たち邪魔になってない?」
「父が帰って来たようです。すみません、クルマを端に寄せてもらえますか?」
「了解」