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異世界でトータルビューティーアドバイザー始めました  作者: 翡翠
第一章 異世界に来てしまった
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「クルマ? これはクルマと言うのかい? これは乗り物で合ってる? 馬もいないのに、どうやってここまで動かしたんだい?」


 ドレス姿の残念な女の子と一緒にいた美形王子様男子が、瞳をキラキラさせて車に近寄って来る。

 強面さんたちが「危険です」とか「お下がりください」なんて口々に言っているのを無視して、ペタペタ車に触りまくって窓から中を覗き込んでいる。

 車を知らない? 一瞬どっきりか何かかと思ったけれど、高速道路から一瞬にしてこんなお城みたいなところに移動するなんてありえないし。

 混乱する頭を必死で落ち着かせようと深呼吸を繰り返し、とりあえず美形王子様男子の質問に答えることにした。


「この車は自力で動くから、馬はいらないわ」

「自力で動く!? どうやって? 今すぐ動かして見せてくれないかい?」


 いつの間にか目の前に来ていた美形王子様男子の勢いに圧され、思わず後退りしてしまった。


「い、いいけど……」


 ドアを開け、ヨロヨロと車に乗り込む。

 視線を前に向けて、車の周りを強面さんたちに囲まれていることを思い出す。

 窓を開け、危険だからと離れてもらうよう伝えようと口を開けた瞬間。


「今のは何だ! この窓はどうやって開けたんだ!?」


 全開になった窓に手をかけ、顔をこれでもかと近付けて美形王子様男子が凄い勢いで聞いてくる。


「いや、このスイッチ押しただけだけど……。とりあえず動くのに邪魔だし危ないから、強面さんたちを下がらせてくれない? でないと動かせないわよ?」


 そう言えば、美形王子様男子は直ぐに強面さんたちを下がらせてくれた。

 彼らは色々と言っていたようだけと、美形王子様男子には逆らえないのか渋々といった体で車から距離をとる。

 それを確認してから、ゆっくりと円を描くように車を動かしてからもとの位置に戻って停車した。

 フゥ、と一息ついて一度エンジンを切ってから車を降り、美形王子様男子の元に向かう。


「こんな感じだけど、ここじゃスピード出せないから……」


 話途中でガシッと両肩に手を置かれ、前後に勢いよく揺すられた。


「君、このクルマとやらに私も乗せてもらえないか? お願いだ!」


 そんなに強く揺らされたら、気持ち悪っ、うぷ。

 顔を段々と青くしていく麻里を助けてくれたのは、ドレス姿の残念な女の子だった。


「お兄様、お止めくださいませ。そんなに揺すられてはお話出来ませんし、何よりその方、顔色がよろしくありませんわ」


 その声に落ち着きを取り戻したのか、ようやく美形王子様男子は麻里の肩から手を離してくれたのだ。


「すまない。つい興奮してしまった。大丈夫かい?」


 心配そうに顔を覗き込んでくる。

 ……近い。この美形王子様男子のパーソナルスペースはどうなっているのだろう?

 そんなことよりも、ドレス姿の残念な女の子のお陰で助かった。

 これだけの人の前でマーライオンの如くリバースするのは本当に勘弁だし。

 けれども気になったのは、この女の子。

 さっき、この美形王子様男子に向かって『お兄様』って言わなかったか?

 え? 全然似てないっていうか、似ているところを探す方が大変なレベルで似ていない。


「兄妹?」


 思わず声に出していたらしい。

 女の子は悲しそうな傷付いたような顔を見られたくなかったのだろう。

 隠すようにうつ向いてしまったのだが、一瞬だったけれどその表情が見えてしまって。

 しまったと思っても、一度口に出してしまった言葉はなかったことには出来ない。

 チラリと美形王子様男子に視線を向けると、彼も悲しそうな顔をしている。

 傷付けてしまったことに謝罪をしたいけれど、ここで謝罪するのは逆に失礼な気もする。

 どうしようと思っていると、女の子が顔を上げて何ごともなかったかのように、


「はい、私のお兄様のサイラス・セイロンですわ。わたくしはセレンティーヌ・セイロンと申します。もう一人姉がおりますが、彼女は半年前に隣国へ嫁がれました。……似ていなくて、驚かれましたでしょう? わたくしだけ、こんな感じなのですわ」


 笑顔でそう言った彼女の瞳の奥には、悲しみが見えた気がした。

 これだけ容姿の差があれば、きっと彼女はこれまでに心ない言葉に散々傷付けられてきただろうことは、容易に想像がついた。

 形は違うけれど、彼女は昔の私と一緒だ。


「私はマリ・ミズタよ。あなたたちは兄妹仲が良いのね、私は一人っ子だから羨ましいわ」


 容姿のことには触れず、仲の良いことについて素直に羨ましいと伝えた。

 美形王子様男子改めサイラスは嬉しそうに、


「セレンは気持ちの優しい、とても頑張り屋さんな自慢の妹なんだよ!」


 そう言ってセレンティーヌの頭を撫でる。

 セレンティーヌは恥ずかしそうに、けれども嬉しさが隠しきれない笑顔で言い切った。


「お兄様こそお優しくて、我慢強くて、努力することの大切さをわたくしに教えて下さった、大切な自慢のお兄様ですわ」

「セレン、なんて君は可愛い妹なんだ!」


 可愛い可愛いと言いながら彼女の丸い体をギュウッと抱きしめながら頭を撫で続けるサイラス。

 美しい兄妹愛を前に、私は大切なことを思い出した。


「ていうか、ここどこ?」

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