表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でトータルビューティーアドバイザー始めました  作者: 翡翠
第五章 大変身と華麗なる土下座
26/26

4

「じゃあ、個室に移動しましょう」

 そう言って差し出した麻里の手を取り、セレンティーヌが立ち上がる。

 ついてこいの意味を込めてチラリとエドモント見た後、まずは公爵達の元へ向かう。

 令嬢達はそこでようやく公爵達に自分達の行いが見られていたことを知り恐ろしくなったのか、個室についた時には姿が見えなくなっていた。

 室内に入り公爵、サイラス、セレンティーヌ、麻里の四人が順にソファーへ腰を下ろし、そして俯きがちに立ち尽くすエドモントに視線を向ける。

 味方のいないアウェーの中、エドモントは緊張にゴクッと喉を鳴らし、落ち着かせるためか目を瞑り小さく息を吐くと、ゆっくりと床に膝をついた。

 そして「すまなかった」と謝罪の言葉を口にし、大変美しい所作で土下座を披露した。

 この時麻里が心の中で『正に華麗なる土下座! ブラボー!』とテンション高く盛大な拍手を送っていたことは、誰も知らない。

 セレンティーヌは初めて目にする土下座に一瞬狼狽えるも、スッキリした顔で謝罪を受け入れた。

 公爵とサイラスは、この時まで大切な娘(妹)の心を散々傷付けてきたエドモントを許す気など、つゆほどもなかったのだが……。

「『土下座』か……。よくもまあ、ここまで屈辱的な謝罪方法を思いつくものだ」

 公爵が感心したように言うと、サイラスも同意とばかりに頷く。

「いや、別に私が考案したわけじゃないんだけど」

 麻里は面白くなさそうに口を尖らせて呟いた。

 プライドの高い貴族は神前や高位の者の前で跪いて敬意を表すことはあっても、両膝と両手、ましてや頭まで床につけるなど本来ありえない。

 そのありえない姿を前にして、多少ではあるが公爵とサイラスの鬱憤は晴れたらしい。

 あくまでも『多少』だけれど。

 この後四半時ほど、土下座したままの姿で公爵とサイラスからチクチクネチネチとお叱りを受け続けたエドモント。 

 公爵から立ち上がるように言われた時、やっとこの場から開放されると期待したに違いない。

 だが――。

 長時間慣れない正座をしていたために起こるあの症状(・・・・)にエドモントの顔が歪んで固まった。

 皆がその様子を怪訝そうに見ていると、麻里が突然スクッと立ち上がり蹲るエドモントに近付く。

 何をする気なのかと見守る中、麻里はニヤリと悪い笑みを浮かべてエドモントの足を指先でツンと突いた。

 その途端にエドモントは苦悶の表情で悲鳴を上げるが、麻里は再度ツンと突く。

「マリ殿はいったい何をしているんだい? それに彼、凄く辛そうだけど大丈夫なのか?」

 正座をしたことのない彼らにはこの現象が何なのか理解出来ず、不思議そうな顔をしてサイラスが尋ねた。

「これはね、長時間あの姿勢でいると血流が悪くなって足が痺れるのよ。少し経てば治るんだけど、その間ちょっとした刺激が加わると」

 言いながらまたツンと突くと、エドモントが苦しげにプルプル震えながら「や、やめろ」と麻里を睨むが、涙目では迫力に欠ける。

「こんな風になるの」

 麻里がニヤリと笑って答えると、公爵とサイラスが「ほぅ」と感嘆の声を上げて立ち上がり、これまた悪い笑みを浮かべてエドモントの足をツンと突く。

 公爵相手に悪態をつくわけにもいかず、エドモントは「グゥ……」と低く呻いた。

「これはこれは」

 新しい玩具を見つけた子どもの如く、公爵とサイラスはツンツンとエドモントを楽しそうに突いている。

 見かねたセレンティーヌが三人に止めるよう声を掛けた。

「あ、あの、そろそろ許して差し上げませんか?」

 きっとエドモントにはセレンティーヌが天使のように見えたことだろう。

 少し後、足の痺れがなくなったエドモントがゲッソリとした顔でヨロヨロと立ち上がった。

 肉体的というよりも精神的疲労が大きかった、この四半時ほどの叱責と拷問のようなツンツン攻撃。

 エドモントにとっては悪夢のような時間だったのだろうが、これにより公爵とサイラスの溜飲が下がったお陰で侯爵(エドモントの)家へ抗議文は送られずに済んだのだから、耐えたかいがあったというものだろう。

 麻里は心の中で『お疲れさん』と思いつつ、満足そうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ