1
私、水田 麻里(二十歳)は整形級メイクや外人風メイクで話題のYouTuberである。
ちなみに、元エステティシャンだ。
基本お家大好きな引きこもりで、お出かけ先は専ら○ツモトキヨシのコスメコーナー。
アイプチに二重テープやファイバーなど、ありとあらゆる種類の二重グッズは試し済み。
自然に目を大きく見せるためのつけまつげや、安くて使い勝手の良いメイクグッズを見つけるべく、片っ端から購入しては自らの顔で日々試している。
メイクは独学ではあるけれど、安いメイクグッズでお手軽簡単に可愛くなれると、女子高生やOLさんまで人気は絶大である。
プチプラ万歳!
そして縁あって某化粧品メーカーからのお声掛けを頂き、若年層向けのお手頃価格コスメの開発に携わることに。
その化粧品メーカーは購入者の八割が高年層であり、新たに若年層のお客様を取り込みたいと、お手頃価格シリーズを開発することになったのだ。
当初はスキンケアとメイクグッズの開発予定だったのだけれど。
『若いうちは必要以上に肌を甘やかすな』という母の教えを忠実に守り、洗顔は時間を掛けて丁寧に、化粧水をとにかく時間を掛けて肌に浸透させ、ワセリンを塗って終わり(季節によっては日焼け止め使用)。
美容液の類いは特別な時(デートの前日)にしか使いませんと謳っている私がコラボするのはどうでしょう、ということで今回はメイクグッズのみのコラボとなりました。
お手頃価格のものとはいえ、発色や使用感などかなり拘らせてもらったので、良いものが出来たと思う。
……開発者とは、かなり激しいバトルを繰り広げたけれど。
そして出来上がった商品の宣伝も兼ねて、一般の十代から二十代の女の子に私が直接変身メイクをさせてもらって、その動画をアップすることになったのである。
応募者を募ったら予想以上に応募が殺到し、ありがたくも嬉しい限りだ。
その中から数名の女性に都内某ホテルのお部屋にご足労いただき、変身してもらうのだが……。
今回はメーカーさんからも経費が出るので、部屋は贅沢にジュニアスイート!
それだけでもう、テンションが上がるよね。
慣れている自分の顔と違っていつも以上に時間が掛かるだろうが、色々な方の顔をいじらせてもらえることにとてもワクワクしている。
出来るだけその人の長所を活かせるようなメイクをしたい!
今回は新しいコスメシリーズの宣伝なので、いつもの使いなれたコスメではなく、全て新しいコスメを使って仕上げなければならない。
自宅は千葉にあり、そちらで撮影しても良かったのだけど。
やはり自宅を知られることに抵抗があったので、都内のホテルで撮影することにしたのだ。
荷物が多いため、車でホテルに向かう。
最近購入したばかりの愛車、その名も『お局まなみ』。
某作家さんのエッセイに出てくるカーナビの『人妻ゆうこ』を盛大にパクって付けた名前だ。
その『お局まなみ』にコスメシリーズを詰め込む。
今回変身してもらう女性達に、気に入ったら即購入してもらうためだ。
若年層をターゲットにしている分、見た目にも拘った。
とにかくキラキラ可愛く、がテーマなのだ。
商品そのものも可愛く、使って可愛く。
発売前に特別に手に入れたそれを彼女達が自慢げにSNSにアップし、そしてポーチに入れて使うのを見たその周りの子達が興味を持ち話題にしてくれるだけで宣伝効果があるはずだ。
全色全種類、車に詰められるだけ持っていくつもりで準備した。
整形級メイクに必須の二重グッズや様々なつけまつ毛、化粧ノリを良くするためのパックや下地等も忘れずに。
その他にも、ホテルの部屋にはアメニティーグッズも揃っているけれど、私には長年気に入って使っているものがあるので、それも車に詰めこんだ。
あとで『あれも持ってくればよかった』と思うのが嫌なので、使うかは分からないものもとりあえず車に詰めこむ。
ちなみに友人からはとにかく何でも持ち歩くので、ドラ○もんと呼ばれていたりする。
結果、荷物だらけになってしまったが、仕方がない。
そして、都内のホテルに向かって車を走らせていたのだけれど。
どんよりと灰色の雲が空を覆い、今にも降りだしそうな空模様でも、麻里の気分は上場だった。
なんなら鼻歌でも歌いそうな気分で運転し、高速道路に乗って少し経った時のこと。
ニュースでは時折目にしてはいたけれど、まさか本当に逆走する車がいるなんて思わなかった。
咄嗟のことに慌ててブレーキを踏み、ハンドルを思い切り切ったことによって当然のごとくスピンする車。
恐怖に目を開けていられなかった。
◇◇◇
どれくらいの時間が過ぎたのか、気が付けば車は止まっているようで、でも自身の心臓がこれでもかというほどに激しく脈打ち、耳の横に心臓ついてるの? と思うほどに大きく鼓動が聞こえる気がした。
ヨロヨロと車を降りるが、腰が抜けてしまっていたようで、立てずにその場に蹲る形になってしまう。
「あ~~~、死んだかと思った……。ダメだ、腰抜けた」
生きてて良かったと思いながらも、余りのショックに少し気分が悪い。
「貴様は何者だ!」
突然大きな声がして顔を上げれば、なにやら物騒なものを持っている強面の方達に囲まれていた。
「え? 何者? って、あれ? ここどこ? 城? え? 何で? 高速道路は……?」
高速道路を走っていたはずが、何やら目の前には白い小さなお城のようなものが見えるんですけど。
地面は一面芝生でコンクリートが見当たらないんですけど。
ついでに私を囲む強面さん達の格好が鎧だったり、冒険映画に出てくるような格好だったりするんですけど。
少し視線をずらしてみればシンプルなドレスを身に纏う大人しそうというか地味めな女の子と、まるで王子様みたいなキラキラなイケメンが立っていた。
「コスプレ?」
いや、もう、何なの? これ。
本当、意味分からん。
まとまらない頭でぼんやりそう思っていると、車を乱暴に扱う強面さんに気付いて思わず叫んでしまった。
「ちょっと、車に傷つけないでよ! まだローン残ってるんだから!!」




