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異世界でトータルビューティーアドバイザー始めました  作者: 翡翠
第二章 スキル『所持品リセット・セーブ』
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 麻里が導き出した答えに概ね間違いがないのであれば、スキル『所持品リセット・セーブ』は多分だがこの辺りと密接な関係がありそうな気がする。

 とはいえ、スキルの使用方法や制限など何も分かっていない状態で発動させ、もしこれまでのように所持品を増やすことが出来なくなってしまったらと考えると、恐ろしくてスキルを試すことは出来ない。

 今のところ所持品が増えることで困ることは起きていないし、置き場所には余裕がかなりあるので、このまま増やせるだけ増やしてみようと思っている。

 とりあえず、サイラスには途中報告をしておこう。

 先日私から話すのを気長に待つと言ってくれたのは、正直嬉しかったのだ。

 使用人にサイラスの部屋へ案内してもらおうとしたら「確認します」と言われてしまった。

 どうやらいきなり部屋に行くのはダメだったらしい。

 この世界の常識は全く分からないから、やはりマナーはきちんと学びたいと思う。


◇◇◇


 麻里がこの世界に来てから早ひと月。

 気付けばマナーや歴史だけでなく、なぜかダンスの講師までつけられていた。

「マリ様? いかがなさいましたか?」

 昼食後の紅茶を飲みながら首を傾げていると、セレンティーヌが心配そうにこちらを見ていた。

「あ、いえ。マナーとこの国のことを学ぶための講師をつけて頂けたのは、とてもありがたいんだけど……。ダンスまで習う必要あるのかな〜、って」

 この世界のマナーというか、貴族としてのマナーを学べることは、正直言ってとても助かっている。

 あちらの常識がこちら(異世界)の非常識……なんてことがチョイチョイあったりするのだから。

 郷に入っては郷に従え。

 いつまでも『あちらではこうだった』などと言って、自分に周りを合わせようとするのは愚の骨頂。

 私が(こちら)の常識に従うのが一番スムーズにことが運ぶだろう。

 出来れば『異世界(こちら)に来たばかりだから』と言ってもらえているうちに、常識やマナーを習得してしまいたい。

 せめてお世話になっているセイロン公爵家の皆に、迷惑を掛けないくらいには。

 でもね? 居候的立場であって貴族じゃない私は、セレンティーヌと違って夜会に出ることもないだろうし。ダンスの練習いらなくない? って思ったのだけど。

 ダンス講師ではなく、なぜかマナー講師をしてくれているダンデリーニ伯爵夫人が、目の奥が笑っていないそれはそれは恐ろしい笑顔で絶対に必要だと言い切るものだから、仕方なく練習している。

「今後マリ様が夜会に出席された時に、最低でも一曲はダンスを踊ることになると思います。いきなり踊ることは難しいですから、今のうちから練習をなさった方がよろしいかと」

 はい? ちょっと待って。夜会に出席された時って、何?

「いやいやいや、そもそも私貴族じゃないから、夜会に出席する機会なんてないでしょ?」

 真顔でそう言い返せば、セレンティーヌはふわりと優しい笑みを見せて言った。

「確かに今のマリ様には身分がありませんが、『迷い人』様は望まれれば王族に嫁ぐことも可能なんですよ?」

 はい? 王族に嫁ぐことも、可能?

 何それ、面倒くさい。

「迷い人様の知識はこちらの世界の者にとって、それほどまでに価値があると思われているのですわ。もしマリ様が王家に保護されていたら。……間違いなく王族のどなたかと婚約させられていたと思いますわ」

「ゲッ。絶・対・に、嫌! 私の知識なんて対してあてになんかならないわよ。それで自由を奪われるなんて、冗談じゃないわ。……本当に保護してくれたのがセイロン公爵家で良かったって、心からそう思うわ」

「王族との結婚をそこまで露骨に嫌がるのは、マリ様くらいですわね」

 苦笑しつつそう言ったセレンティーヌだったが、急に真剣な顔をして。

「……ですが、いずれは王家より、マリ様宛に夜会の招待状が届くことになるでしょう。王家が迷い人様に関心を持たぬはずがありませんから」

 と、恐ろしいことを告げた。

「うへぇ、マジでやめてほしいんだけど。お断りは……」

「……」

「ダメだよね。うん、分かった」

 セレンティーヌの無言の圧力に諦めたようにそう言えば、彼女の表情が柔らかいものに戻る。

「マリ様が夜会に出席されたら、ダンスの申し込みをなさろうとする令息達の列が出来そうですわね」

「うげっ、面倒くさっ」

 苦虫を噛み潰したような顔で言う麻里を見て、セレンティーヌが可笑しそうにクスリと笑った。

「ていうか、王家の夜会に出るのは仕方がないとして、それ以外は出る必要なくない?」

 王家主催の夜会なんて、そうしょっちゅうあるものではないだろう。

 合コンや飲み会みたいに気楽に参加出来るものと違って、始終気を使っていないといけない夜会なんて面倒なものには、出来る限り参加しない方向でいきたい、なんて思ったのだが。

「残念ながら王家主催の夜会以外にも、お断りの難しい夜会もあったりしますので……」

 セレンティーヌはそう言って、困ったような顔をして少し俯く。

 夜会やお茶会などの社交界の話になると、セレンティーヌは急にこうした態度を見せる時がある。

 彼女がこれまでに経験した様々なことを思い出しているのかもしれない。

 ああいった華やかな世界は、一歩裏に回るとドロドロの世界だったりするんだよね。

 こういうのはどの世界も共通しているんだなぁ、なんて。

 あ〜、やっぱり面倒くさい。

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