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異世界でトータルビューティーアドバイザー始めました  作者: 翡翠
第二章 スキル『所持品リセット・セーブ』
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「ならば早速、場所を移してから確認してみるとしよう」

 サイラスはそう言って立ち上がると、食堂の扉の方へ足を向けた。

 セレンティーヌと麻里も立ち上がり、サイラスの後について行く。

 途中使用人にサイラスが何かを小声で指示していたようだけれど、何を言っていたのかは聞き取れなかった。

 麻里の感覚からすると無駄に広い屋敷内を少し歩くと、ついた先はあの座り心地の良いソファーのある応接室だった。

 こちらの世界ではこのような応接室のことを『サロン』と呼ぶらしい。

 何だか慣れない。

 ソファーに腰掛けると、使用人が早速紅茶を淹れてくれる。

 さすがは公爵家で出されるものだけあってとても良い香りであるし、紅茶が特別好きというわけでもない麻里でも美味しいと思う。

 ……思いはするけれど、それにしても『紅茶飲みすぎじゃない?』とも思ってしまうわけで。

 だって、カフェインの摂りすぎは体に良くないはずだ。

 寝室には、ベッドのサイドテーブルに果実水がピッチャーに入って置かれており、昨日今日で口にした飲み物は紅茶と果実水と夕食時のワインのみである。

 麦茶のようなノンカフェインな飲み物が飲みたい!

 果実水もノンカフェインだけれど、果糖だって、摂りすぎれば肥るのだ!

 そんなことを考えていれば、先ほどサイラスに何か指示を出されていた使用人が、紙とインク壺と羽根ペンを持ってやってきた。

 どうやらサイラスは、これらを持ってくるよう指示を出していたらしい。

 テーブルの上に置かれたそれらに何やらキラキラした瞳を向けて、何とも楽しそうな表情のサイラスとセレンティーヌの二人。

 ……これは、さっさと書けということだろう。

 麻里は苦笑を浮かべつつ、初めて使用する羽根ペンを手にとった。

 インク壺に羽根ペンの先を浸し、早速紙に書こうとして……何を書くか考えていなかったために手が止まる。

 二人の瞳から発せられる圧に耐えられず、半ばヤケクソ気味に名前と住所を書いてみた。

 羽根ペンは紙に引っかかりやすく、ボールペンなどに慣れている麻里には何とも書きにくい。

 都度インク壺に浸してインクを補充しなければならないのも面倒くさいと感じた。

 コツが掴めれば、また違うのだろうけれど。

 

 水田 麻里

 千葉県○○市△△


 番地は省いて書いたのだが、さて、サイラス達はこれを読めるのだろうか?

 読めるのならば、文字の読み書き練習は必要ないものとなるが、もし読めなかった場合。

 一から習わなければならなくなるのだ。

 それはそれで面倒くさい。

 心の中で『読めますように』と必死に神頼みである。

「マリ・ミズタ。チバケ、ン○○、シ△、△?」

 サイラスが少しだけ首を傾げながら読んでいった。

 区切る部分が何だかおかしくはあるが、ちゃんと読めているようである。

「良かった、ちゃんと読めてるみたい」

 ホットして笑顔で麻里がそう言えば、サイラスが不思議そうに質問してくる。

「このチバケから始まる文字は何を表しているんだい?」

「千葉県ね。これは私が向こうにいた時の住所を書いてみたの」

「なるほど。どうりで聞いたことのない言葉だと思った。ところでマリ殿、この後何かする予定はあるのかな?」

「予定? 特にはないけど。……とりあえず、車の中に積んである荷物を部屋に運ぼうとは思ってるわ」

「では、その後にマリ殿のいた世界の話を聞きたいのだが?」

「ええ、大丈夫よ。……あ、誰か手の空いている方にお手伝いをお願いしたいのだけど」

 昨日はとりあえず旅行バッグとコスメシリーズの入った段ボールの中でも一番小さなものだけを部屋に運んでもらったので、車の中には段ボール二箱と撮影用機材などが残っている。

 どうせならば一度に全部部屋に運んでしまいたい。

 この広い屋敷を何回も往復するのは勘弁である。

「分かった。では使用人を二人と、私もついて行くとしよう」

「はい?」

「ん? 何だ?」

「いや、サイラス様まで何で来るんですか?」

 いや、だって荷物を運ぶのは私とお手伝いしてくれる使用人二人で、サイラスさんは運んだりしないよね? いる意味なくない? なんて思ったのだけれど。

「私のことは気にしないでくれ。大人しく車を見ているからな」

 満面の笑みで彼はそう答えた。

 ……車が目当てですか。ああ、そうですか。

 サイラスさんらしいといえばそうなのかな?

 この人はこういう人なんだと思って放っておこう、うん。

 諦めたように一つ大きく息を吐き出してから、車を停めてある馬車停めに向かうべく、お手伝いしてくれるという使用人に案内を頼む。

 とりあえず、使用頻度の高そうな自室と食堂と応接室と玄関ホールくらいは覚えておきたい。

 どこに行くにも常に案内をお願いするとか、使用人達の仕事の邪魔をしている自覚があるだけに、何とも居た堪れない。

 使用人の後をついて行きつつ、道順をしっかりと頭に叩き込んでいくのだった。

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