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ロウとルウ  作者: キホ☆
第一章 輝きは太陽と共に -姉弟-
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第1話

 亜麻色のウェーブがかった髪を胸の上まで無造作に垂らしたまま、一人の女がテントから出てきた。

 今回テントが建てられているのは、整備が進んだ石造りの道が途切れた先。近代化を目指して形成されつつある街の端だった。道が途切れた先は、一面が草原となっている。


「レック、おいで」


 彼女は傍らに、灰色とも白ともとれる体毛の生き物を連れ立っていた。四本足に、やや長めの胴体、太く長い尻尾と太いが短い脚、丸っこい耳に、鋭い牙を時折覗かせる肉食獣のようだ。身体には鼻から後頭部にかけて、歪な円の模様がある。

 その雪豹のような体躯を持つ動物を、人類は発見して数年後から「アエラブ」と呼ぶようになった。約20年前に山奥で発見されてから、まだ数頭しか正式な記録がない肉食の哺乳類だ。まだ少ない研究によって、現在のところはネコ科ヒョウ属に分類されている。


 女―――ロウは、その稀少なアエラブに近づけた数少ない人間の一人である。発見されている哺乳類の中では、かつてないほどの頭脳を持つと言われるアエラブは警戒心がとても強い。そのため、山奥で身を隠すように生きてきたと言われている。

 一般的な動物―――愛玩動物でも、サーカスで遣われるような猛獣でも、本能的なトレーニングによって飼いならされる。しかしアエラブは他の動物と違って、信頼関係と、一定のアクションによる言語にも似たパターン化されたコミュニケーションが可能という研究結果が出るほど賢いらしい。


 ロウの相棒であるアエラブはレックという名であり、ロウとは一定の意思疎通ができると自他共に認めている。アエラブ研究者からサンプルとして声を掛けらたこともあるが、閉じ篭ることが苦手なロウは、あっさりとその申し出を断っていた。


「あ、ロウ。おはよ」

「おはようございます」


 テントから出てたったの数歩、ロウは団員のミーナに声を掛けられた。モネリアの団員は、皆優しい人ばかりだ。ロウはそう思っていた。


「これから練習?」

「はい。練習というか、最終確認というか」

「あたしたちもなの。お互い頑張りましょ。ね、レック」


 腰までの暗い茶色のストレートヘアを垂らした丸い目のミーナは、そう声を掛けてレックの頭をなでようと手を伸ばした。が。


「グルゥ……ッ」


 レックはミーナから距離を取るように素早く一歩後ろに下がった。ミーナはそれを見て大人しく手を引っ込めた。特に気にした様子もなく、ふと息をひとつ吐くと肩を竦めてロウを見た。


「まだ駄目かぁ。自然な流れだといけるかと思ったんだけど。ごめんね」

「いえ、別に……」

「ま、そのうち慣れるといいわ。じゃ、そろそろ時間だから」


 そう言って「またね」と手を振り、ミーナはロウとレックに背を向けた。ミーナは空中ジャンパーだ。空中ジャンプは複数人で行っており、彼女はそこの花形だった。無地のワンピースをざっくり着ただけの普段着ではわからないが、彼女の小柄な身体はかなり引き締まっており、身体自体が観客を魅了する道具なのだ。


 気持ちの良い晴れた日の朝、ロウとレックがテントから出てきた理由は今夜のショーに向けて準備をする為だった。ミーナもおそらく同じ……だが、彼女の練習とは、他のジャンパーも交えて行うのだろう。

 チームでの練習。それは、ロウには無い感覚だった。

 ミーナが立ち去ると、レックは警戒を解き、ロウの足に頭を擦りつけた。


「ん。行こっか」


 ロウがこのアエラブサーカスの一員となってまだ三ヶ月。団員が基本優しいとはいえ、完全に馴染んだわけではない。というかそもそも、ロウは人間と距離を保つほうが自然なことだった。いきなり善い人集団に入れられたからと言って、急に距離を詰めろというのも無理な話だ。

 やっぱり、まだレックと二人のほうが気が休まるのが事実。初夏とは言え、この寒い地では太陽がまだとてもありがたく感じる時期。暖かな日差しの下、一人と一匹の時間は至極穏やかに過ぎるのだ。



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