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一瞬で読み終わるラブストーリー1

作者: みかん。

ーーーずっと前から好きでした。



















幼なじみのたっくんのことがずっと好きだった。



たっくんとは物心着いた時から、気づけばいつも一緒にいて、たっくんと一緒に私は成長してきたようなものだ。


昔から不器用な私の面倒をよく見てくれて、本当に優しい。




幼稚園の頃、折り紙を折れずに泣いていた私に、つきっきりでできるまで教えてくれた。


たっくんはもう完成していたのにも関わらず、他の友達とは遊ばずに、泣きじゃくる私を慰めながらそばにいてくれた。




中学生になったいまもその優しさは変わらない。赤点ギリギリの馬鹿な私にいつも丁寧に勉強を教えてくれる。


今でも仲の良さは変わらない。

帰り道で合えば私とたっくんの家の分かれ道まで2人で一緒に帰ることもある。

周りからはあそこの2人は"親友!"ってレッテルを貼られている。

まあ、別に間違ってさないんだけどさ。



そんなたっくんは私とは違って、勉強も運動もなんでも出来る。

おまけに顔も整ってて性格もよくって、いわば完成されたイケメンだ。




だからたっくんはもちろんモテる。

あのものすごく美女な結城先輩も、アイドル活動をやってる後輩の夏実ちゃんもたっくんに恋をしている。

もちろん同学年にもたっくんのことを好きな子はたくさんいるし、噂によると私たちの学年のマドンナの松川さんもたっくんのことが好きらしい。

いやーモテる男は大変そうだなぁ。



よく周りの友達からは、私とたっくんの関係性を羨ましがられる。

そんな時私は「腐れ縁だよ〜。」なんて言ってしまうのだけれど、実際はたっくんと幼なじみでいられていることが、とっても嬉しい。



なぜこんな嘘をついてしまうのかというと、こんな平々凡々ななんの取り柄もない私なんかが、たっくんのことが好き!!だなんて言えないから。

言ってしまえば、私とたっくんの"親友!"というレッテルは無くなり、その代名詞に守られることはなくなる。



その状態でたっくんと仲良くすれば私は彼女達の敵にもなる。

たっくん本人にまで知れ渡ってしまえば、たっくんだってきっと私と接しづらくなる。

そうなれば、私はもうたっくんとあまり一緒にいられなくなっちゃうだろう。








それにたっくんに私は似合いっこない。










結局"親友!"っという関係に甘えて、ろくに想いも伝えないまま、中学3年生の夏を迎えた。


ある夏の暑い日、その日は蝉の鳴き声がいやに五月蝿く鳴り響いていた。


ジリジリと照らす太陽は、眩しくて痛い。




学校の帰り道、私は汗ばむ額をぬぐいながら、できるだけ日陰を探して歩いていた。










「よっ、佳奈。今日も暑っついなー。」










たっくんが私には後ろから声をかけてくれた。


そこから私とたっくんの家への分かれ道までたわいもない話をしながら、いつものようにたっくんと2人で帰った。



そんな時間が私にはただただ幸せで、このうざったい暑さも忘れられるくらいだ。





たっくんの横顔が夏の光に照らされて、キラキラと輝く。

それを私は横目で見ながら笑う。




とても素敵な時間。












しばらくして話の流れが途切れ、少し沈黙が流れる。

その時、たっくんがぽつりと呟いた。





















「俺、松川さんのことが好きなんだ。」



























一瞬、何と言われたのか、意味がわからなかった。


スッとなにかが落ちる音がして、心拍数が急激に上がる。





焦りと衝撃。








顔が強ばって、気が遠のく。


言葉の意味を理解しようと頭を回転させるが、心がそれを拒否しようともしているのがわかる。












「そうなんだー。」












必死になって出てきた言葉はそれだけだった。


五月蝿い蝉の鳴き声だけがただ響いていた。


そこからどうやってたっくんと別れたのか、よく覚えていない。


気がついたら自分の部屋で泣きじゃくっていた。









本当は分かっていたはずだ。


たっくんの好きな人は私じゃないって。


優しいのだって私だけじゃない。


たっくんはみんなに優しいんだって。








でも多分、心のどこかで、もしかしたらたっくんは私のことすきなんじゃないか、って、期待もしていたんだと思う。


だから、その期待が打ちのめされて、現実を目のあたりにして、私は傷ついている。







やっぱ、私ってばかだなぁ。











こんな時、色々な思い出が頭をよぎる。




何でもできるたっくんが、珍しく失敗して悔しそうな顔をしていた時、私もすごく悔しかった。


でもたっくんが諦めずに努力している所を私はずっと見ていた。

私なりにできることでずっと応援していた。


だからたっくんがなにかに成功して、喜び興奮する姿を見ると、私も一緒に跳ね上がるほど心の底から嬉しかった。









ずっと昔から好きだったのになぁ。






きっとたっくんと松川さんは結ばれるのだろう。


それはたっくんにとって1番幸せな事だろう。


そんなことは分かってる。





でも私の方がたっくん最初に好きになった。


誰よりも長い間好きでいた。


誰よりもずっとそばにいた。


誰よりもたっくんのことをよく知ってる。










絶対に私は、誰よりもたっくんを愛してる。












そんなこと思ったって無駄なのに、溢れる悔しさが抑えきれない。












「…っ…うっ、うっ…うぅっ…」












嗚咽混じりに泣き潰れた。


時は流れ、卒業の時が来た。


桜が咲き乱れ、暖かな陽気が包み込んでいる。


私たちの卒業を祝福してくれているかのような良い天気だ。















その後しばらくしてたっくんは告白し、松川さんと付き合うことになった。



私は結局、何も言えず、何も変われないままだった。



たっくんから、松川さんと付き合うことになった、と聞いた時、笑顔で「おめでとう。」と言った。

言えたはずだ。







たっくんのためにはきっとこれで良かったんだよ。

優しいたっくんは、幼なじみの私から告白されたらきっと困ってしまう。






だから、この想いは隠し通そう。












あの夏の日、私はそう心に誓った。











でも、本当は、この想いを伝えて、たっくんとの"親友!"という関係が終わってしまうかもしれないことが嫌だったのもあると思う。











この想いを、受け止めてもらえないことが怖かったのもあると思う。













私は逃げただけだ。


弱虫だから、臆病だから、そのままたっくんとの関係に甘えてしまった。
















卒業式が終わって、友達と涙の別れを交わした。


みんなそれぞれ違う高校に行ってしまう。今までずっと一緒にいた人達と別れを告げて、新しい道へ進まなければならない。








たっくんは頭がいいから、もちろん私とは違う高校に進学した。


しかも、東京にいる親戚の家へ引っ越して、こんな田舎にある進学校とは比べ物にならないくらい頭のいい高校へ行ってしまうことになった。













最後にたっくんにも何か一言言いたかったが、どこを探しても姿は見当たらない。












結局、なにも言えずに終わっちゃうのか。














ちょっとがっかりしながら、私は家へ帰った。

[newpage]

夕方になり、日もだいぶ落ちてきた。

風も少し強くなり出して、桜の花びらが散っている。




私は、自分の想いを伝えることはできなかったけど、たっくんとたくさんの時間を一緒に過ごすことはできた。

こんな中学生活も楽しかったかな、と振り返る。









いつもの分かれ道に着いた。

この分かれ道の真ん中には大きな桜の木が立っている。



行きに学校へ行く時には気づかなかったが、上の方を見ると桜はとても立派に咲き誇っていた。

満開に咲く桜の木に思わず見とれる。

それはもう息を呑むほど美しく咲いていた。











ふと、下を見ると見覚えのある後ろ姿が桜の木の下に見える。










たっくんだ。















その桜の木の下に立っているたっくんを見て、私は、あぁ、と思った。




その木を見て、そのたっくんのうしろ姿を見て、懐かしいような消えてしまいそうなものを見たようなきがした。









もうこの時はきっと二度と来ない、と悟った。




















きっと今、想いを伝えるべきなんだ。














神様が私が想いを伝えられるよう、たっくんをここに用意してくれたんだ、って

そう思えた。
















「たっくん。」














振り向くたっくんに少しずつ近づく。


不思議と心拍数も落ち着いていて、緊張はしていない。















最後の日に想いを伝えよう。


















「ずっと前から好きでした。」
















少し驚いた顔をしている。


優しい春風が私とたっくんの間を通り過ぎていく。














「ありがとう。」
















そう言って少しはにかんだ。


私の大好きなたっくんのはにかんだ顔。




優しい風に吹かれて桜の花が舞っている。

その横ではにかむたっくんがどうしようもなく愛おしかった。





















私の初恋は桜の花と共に儚く散っていった

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