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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
三章 アルジャーノン計画
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98 覚悟完了

 テロが非難される最大の理由は、非戦闘員である一般人が巻き込まれるからだ。


 過去の歴史で、民間人が略奪や暴行の被害にあうのは珍しい事ではなかったが、さすがに近代の国際ルールでは許されない。


 戦争の規模が大きくなり詳しい情報が大衆にも知れ渡るようになると、戦争にも一定のルールが設けられるようになった。



 え? そんなんアンタらが勝手に決めた事やんけ。


 わしゃ知らんがな。こっちはテロリストでっせ。



 僕の考えるテロリズムとは、一般人をターゲットにするというものだが、色々なとらえ方があるらしく正確な定義は難しい。テロリズムと戦争やゲリラを区別できるのかという問題もある。


 極端な例を挙げれば、国対国の戦いを戦争と呼び、敵対者が国以外の組織(民兵やレジスタンス、宗教組織など)のケースは全てテロと言えなくもない。非暴力を身上としたガンジーですら、テロリストと呼ばれた事があると聞く。


 正義は何方どちらだ?


 それに、テロで無くとも民間人がターゲットにされた例は近代でも珍しくない。太平洋戦争での原爆や空襲は、明らかに民間人を殺しにきとったからね。


 そんな悲劇があったにもかかわらず、日米が戦後に良好な関係を築けているのは見習うべき事だろう。勿論もちろん、問題は未だ多く残り、全てを肯定するつもりも無い。


 国の都合でテロの定義はあやふやだが、超えてはならぬラインを引き、国際的なルールを設けようとする試みは評価すべきものだと思う。


 誰しも譲れぬ一線はある。今回は相手がそれを越えてきやがった。許さん。


 当方に迎撃の用意あり。覚悟完了ってヤツよ。


 何時いつでも来い。


 ……… そして何事も無く数日が過ぎた。自分の都合だけで物事は進まんなあ。世界は自分中心に回っとらへんのだと、改めて思い知らされる。


 フラストレーションを抱えモヤモヤしてしまう。ネガティブなものを抱えていると陰鬱な気持ちになり、ストレスも溜まる。自分の性格が悪くなる気がするぜ。


 そんな日々の中、とある出来事が起こった。


 珍しく自習授業があり、筆記試験が皆に課された時の事だ。当日の日直担当者が皆に配る役割を負うのだが、その日の当番はタケであった。


 間違いなく何かやってくるな。


 そう思って待ち構えていたのだが、案の定、仕掛けてきやがった。


 前の席から後ろに向かって一人ずつ配っていくのだが、僕の横にくると意味ありげにニヤリと笑うと、僕に渡すべき用紙をクシャクシャと丸めたかと思うと、僕を目掛けてそれを投げる。丸まった紙が顔に当たり床に落ちる。


 ほーう、そう来たか。その行動、宣戦布告と判断する。


「お前さぁー、始めはもっとマシなヤツかと思っとったけど、キュウの使いっ走りになって何がしたいんや。」

「俺はな、将来は天下無双を目指すんだ。」

「ほー、ご立派やが、言っとる事とやっとる事がえらい違うな。」

「卒業したら武者修行に出るつもりなんだが、必要なのは金、まりは後援者だ。今から金持ちに恩を売って損は無いからな。」

「しょーもな。」

「お前には分からん世界よ。」

「強ぅなりたいんか。」

「おう、自分の流派を興すのが望みだ。」

「益々しょーもないな。」

「なんだと?」

「お前の器では無理や。半端野郎が。」

「ふざけるなよ。口に気を付けろっ!」


 怒ったかな? 効いてるみたいだから、この方向であおっていきますか。


「実際さあ、今も金に転んどる訳やん? 金に負けるようなヤツが天下無双ねえ。随分と安い強さやな。」

「ぐ……。」


 ダメージが通ったか。…って事は、わずかばかりのプライドは残されとる訳やな。そのプライドを折りにいくか。


「中途半端って言ったんはな、お前には覚悟が足らんのや。」

「覚悟など出来てる。だからこそ泥にまみれる事も出来るんだ。」

「今回みたいな事か。」

「そうだ。」

「ハッ それこそ中途半端や。」

「なにっ!」

「やると決めたのなら底まで堕ちるべきや。退路を断つ覚悟が力になる事もある。しかしな、お前は終始して言い訳ばっかや。本当のボクは違うんです~。今の姿は偽りなのを分かって~ってか。甘えを捨て切れとらんわ。見苦しいの一言や。」

「……そこまで言うかっ! もう取り消せんぞ。」

「取り消すも何も真実やないか。その動揺が物語っとるわ。金に転びながら誇りも捨て切れず、自分を見失っとる。ええトコ三流止まりや。悪党の美学も無いわ。」


 本当にそうなんかは知らん。知らんが、こういうやつは言ったもん勝ちである。人間の心理ってのは複雑だ。


 例えば、大雑把でガサツな人に対して、次の様にそっとささやいてみよう。


「キミ、誤解されやすいかもしれんけど、実は繊細なヒトなんやねぇ。」

「分かってくれるのはお前だけだ。心の友よ~!」


 ……となるかもしれん。


 人間なんて、誰しも相反する性質を持っている。後片付けが出来ない横着者が、友人などの人間関係にはきめ細かな対応を見せたりする場合がある。サイコパスならいざ知らず、例え冷酷非情な人間であっても、わずかばかりの優しささえ持たない人間っているんですかね。


 根拠となる事実が無いと説得力に欠けるが、今回はタケが先に隙を見せた。それを利用させてもらうぜ。僕の言った事が真実かどうかは関係ない。ありえそうだと思わせればそれで良しだ。平常心を失わせる事こそが狙いである。


 平常心を失えば本来の力は出せない。


「今は雌伏の時だ。例え泥水をすすっても最後に……。」

「お前には無理や。」

「な……。」

「金に負けた事を既に言い訳しとる。これから先も、何かに負ける度に言い訳するつもりか。体調が悪かったんです~。ウンコしたかったんです~とでも言うつもりでおるんか。自分の弱さを認めんヤツに成長は無いわ。忠告するが、野垂れ死にしてから言い訳は出来んぞ。」


 彼の言い分を一刀両断で切り捨てる。ここらで止めを刺しとくか。


「今は雌伏の時だなんて言うが、意に添わん現状を誤魔化しとるだけやないのか。口だけ達者で中身が空っぽやぞ。もっとも、それだけやったら誰にでもある事や。お前の最も駄目なトコはやな、己の未熟さを他人にぶつけて解消しとるトコやぞ。タチが悪いわ。それでようサムライなんて名乗れるな。恥を知れ。」


 内容はともかく、論理に矛盾が無いようにトコトン正論であおっていくスタイル。小学校入学前の児童にコレは論破できんやろ。


 やり過ぎると友達がおらんようになるやろな。ほどほどにしんといかん。

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