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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
序章 自己の確立
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9 家族会議2 術の契約

「流行り病で大勢の病人が出た時、気功法で治療しようと頑張ったが、限界を感じていたんだ。」

「気功法では、怪我の治療や体調を整えたり、病気に対する抵抗力を高めたりは出来るけど、根本的な治癒は出来なかったのよ。若くて丈夫だと、病気に打ち勝つ事もできるけど、老人や子供たちのような、もともとの基礎体力が弱い人は、死が訪れるのが少し伸びる程度だったのよね。」


 不思議な力も万能では無いとの事かと思う。気功法とは、自然治癒力・身体能力の強化という印象だ。


「何と説明してええか……、元気になるにも元気が要るんや。何を言っとるか分からんと思うが、俺もどう上手く説明してええか分からん。」

「そんなコト言うと、余計ややこしくなるから。」

「すまんな。」


 春絵さんが会話の舵取りをしている。話の内容については、分からんようで分かるような気もする。


 気という力で身体を活性化させるらしいが、活性化とは詰まるところ、細胞分裂なのだろう。そして細胞分裂には栄養が必要だ。無から有は生まれず、どこからかエネルギーをもってこなくてはならない。


 気功法では、気の力により、細胞分裂を促進させる事はできるが、分裂に必要な栄養素までは作り出す事が出来ないのだろう。以前に気功法と思われる治療を受けた経験を振り返り、そのような推測をたてた。当たらずとも遠からずだろうか。


 詳細まで確認したかったが、それを聞くと、今日だけでは、とても話が終わらない気がするので、強引にまとめてみる。


「よく分からんけど、大変な事が起きて、何ともならんかったって事?」

「ま、今はそれだけ分かればいいか。」

「間違ってはおらんな。」


「そんな先が見通せない時、ケンとハナのご家族が亡くなった。」


 二人は何も言わず、ただ神妙に聞いている。他人事だと思っていたら自分達の話になり、戸惑っている事だろう。


「家が隣近所で、顔見知りだったから面倒をみる事にしたんだ。」

「仕方が無いと割り切れなかったんや。」

「良心が耐えきれなかったの。そのままほかっておいたら食べ物も無いし、死んでしまうと思ったから。」


 医師が多くの死を見届けるのは珍しくもないだろうが、顔見知りで情を捨て切れなかったのか。


「あの時はどうしたら良いか、何も分からなくて… 頼れる大人は格さん、助さんと春絵さんしかいなくてさ。」

「私も同じ。」


 自分の口で語ることが出来るのなら、ある程度は、乗り越えているのだろうと思う。しかし、ここの統治者は何か手を打ったのだろうか。社会福祉はどこまで整っているのか疑問がいた。もっとも、転生前の日本とは比較の対象にもならないだろう。


 そういえば、この世界の社会制度が良く分かっていない。文化レベルが江戸時代なら、封建制度かもしれない。


「そこで思いついたのが、これが術を習得する機会にならないか、と考えたんだよ。」

「術とは他力、神仏の力を借りて行うの。力を借りるには誓約、約束事が必要になるのね。」

「自分の子供を養うのは当然とされ、誓約のうちに入らん。しかし血の繋がらない子達ならばと考え、誓いを立てた。」


 ほほう。そういうことか。自分の行動を縛ることで、神仏の力を借りるか。大変興味深いが、予備知識なしで手を出すと、取り返しがつかない気がする。


「どうやって誓うの?」

「通常は儀式を行うが、儀式とは誓いを天に届ける為の補助であって、形にはこだわりはないね。」

「一般的には、派手にやったほうが願いが届きやすいと言われとるな。」


 念が通じれば良いという事だろうか。


「ただ、誓いを立てればどんなものでも契約できるってものでも無いのよ。ある程度の基礎が出来てないと叶わないの。」

「僕の場合、気功法が出来ていたから下地はあった。後は誓った内容を実行するだけだね。契約を結ぶ前提… 準備がここまでだ。」


 誓いが聞き届けられたかどうかだが、誓いが受け入れられれば、天よりの啓示が下るらしい。これで本契約に移行するかの確認がある。契約が成されれば、誓いを行う為の力が、契約によって与えられる。ここで気になるのは、誓った内容が履行されなかった場合だ。天罰かなにか、恐ろしい事が起こりそうな気がして、正直怖い。


 神話や寓話のなかで、重大な契約が出てきたら、悲劇への序章と思っても良いくらいだ。イブは禁断の果実を手にした為に楽園を追われ、イザナギが振り返った為に生者は死すべきものとなった。そして人魚姫は泡と消えたのである。


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