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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
84/306

84 儀式とプレゼンテーション6

 水栓便器という商品そのものは好評だ。


 問題は価格である。大量生産できれば値段を下げられるが、その為には設備投資が必要となる。そして設備投資に必要なのは、確かな売上見込みである。


 景気動向を判断する指標の一つが設備投資だ。


 論理的に考えれば当然の事だろう。商品が売れると判断するからこそ、生産能力を上げる為に設備投資をする。見込みが無いのに金を使う馬鹿はいない。


 源太さんが水栓トイレが売れると判断し、増産にシフトする迄には時間がかかるだろう。そうなる為には、皆にこの商品を知ってもらう必要がある。


 やはり宣伝か。


 それを思えば、今回の3人には是非とも使ってもらわないかん。


「思ったのですが、僕の取分1割というのが適正なのか分かりません。半分の5分ではどうでしょうか。」

「それはこちらとしては有難い話だが……。」

「それと、この商品を売る為には皆に宣伝する必要があります。この場にいる3人が管理する施設は多くの人が利用する為、設置してもらえれば宣伝にもなります。それも考えて、出来るだけ安く出来ませんか? 今回に限り僕の取分である5分も放棄するつもりです。」


 損して得取れってヤツですな。あえて損を出せるだけの余裕と判断力があるのかが問題だが、それは源太さん次第だ。


「うぅむ…、一度やってみるか。だけど便器の中身を見てみないと、実際に幾らで商品化できるのか分からないから、正確な値段を出すのは無理だぞ。」

「当然だと思います。そして魔術契約ですが、こんな内容はどうでしょうか。契約してもらえれば、より詳しい製造方法を説明できます。」



 提案した契約は以下の通りである。


1. 薬師院ハル(以下甲) と 匠源太(以下乙) は水栓便器の専売契約を以下の条件により締結する。


2. 甲は乙に対して水栓便所の技術を譲渡し、その対価として乙は甲に水栓便所の売上5分の報酬を支払うものとする。


3. 甲と乙はやむを得ない場合を除き、技術を他に開示又は漏洩してはならない。


4. 契約期間は、甲の元服を持って終了する。



 法律や契約書など、様々な公的書類が存在するが、書式の記載方法については、所謂いわゆるテンプレートが存在する。


 一般的には始めに目的条文が入る。何の為にこの契約を交わすのかを明確にするのだ。目的を明確にした後は内容を定め、期限があるのならそれを記載する。必要であれば開始時期や罰則規定を設ける事もある。


 契約書に記載する言葉は慎重にならなくてはならない。例えば、やむを得ない場合とあるが、それはどの様な場合をいうのか。お互いの認識を確認する為、言葉の意味を定義する事も必要となる。


 この内容を叩き台にして、最終案まで詰めの話し合いをする事にしたが……。


「それ、ちょっと待った。」


 なんと助さんが口を出す。


「え、何か不味いトコロがあった?」

「いや、不味くは無いが、僕達にはそれの構造を教えてくれんのか?」

「うーん、そうなりますね。」

「ここまで聞いて秘密なのはキツイな。そうだ、購入者には教えるってのは出来んのかな? やむを得ない場合としてさ。」

「それを認めてしまったら、やむを得ない場合の敷居が無くなりますよ。」

「確かにそうだけど、何とかならんのか?」


 ここは専門家である真魚さんの助けが必要だ。


「家族であり利害を同じくする者とすれば、何とか出来るかもしれませんね。」

「いやいや、そうすると学校側はどうなる?」

此処ここでのけ者は心外じゃぞ。我がチェストを見せる時が来たやもしれぬ。」


 無二斎師範が物騒な事を口にする。どういう意味なんですかね。けんがく々の話し合いが成された結果、次の様に決まった。


・病院と道場で各一つ、学校で二つ購入する。

・上記3つに限り、技術料5分(5%)は免除する。

・免除する条件として、水栓便所の普及に努力する。

・普及活動がやりやすいよう、水栓の構造を理解する事。

・知り得た情報を漏洩してはならない。


 要するに営業を受け持ってもらうって訳だ。しかも無給で。バチが当たりそうな気がしてきだぞ。まあ、それ程強い縛りではなく、あくまで努力でありノルマも無い。出来るだけ宣伝しとってねと、軽いお願い程度だ。負担にはならないだろう。


 彼ら関係者が水栓の情報を得れるように、契約書を次の様に訂正した。


 やむを得ない場合を除き → 両者の合意がある場合を除き


 この一文を入れたのは、万が一にも力ずくで情報を得ようとする者がいた場合、漏洩禁止の契約があるせいで口を割る事が出来ず、命を落とす羽目になってはいけないと考えたからだ。金よりも身の安全が第一だ。この改正により、僕と源太さんの同意があれば技術を教えられる。


 そして最後に忘れてはならない事が、仲介者の真魚さん、お寺に払う手数料だ。これは学校が出してくれるとの事。今回の企画持ち込みが認められ、その採用結果として出費が可能だという。


 そもそも厠の建て替えとなればそれなりの額だ。生徒の企画採用制度の予算では足が出る。そこで、建て替え費用と企画採用に掛かる経費とは別枠にしたとの事。


 それだけ高く評価してくれたのだろう。有難い話だ。

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