83 儀式とプレゼンテーション5
今回のプレゼンテーションの目的は契約を結ぶ事にある。
出来るだけ有利な条件で契約を締結するのが最善策。最悪の場合でも利益が発生すれば良しとする。利益が出ない契約は論外だ。
僕が作製した水栓トイレは発想が全てと言って良い。質を求めるなら、紙が管に詰まり難い構造であったり、排水の水圧が高いものなどの違いがあるが、僕のものは所詮素人が作ったもので、構造を理解すれば真似するのは簡単だ。
この世界に特許制度なるものは無いかもしれない。前世では、中世ヨーロッパのベニス共和国で近代特許制度が始まったとされる。日本で特許制度が始まるのは、明治時代まで待たねばならなかった。
無いのなら 作ってしまえ ホトトギス
魔術契約にて、特許に似たものを個人的に作ったろうやないか、というのが今回の趣旨である。
「この水栓の意味は理解してもらえたでしょうか。」
「ああ、これは画期的なものだと思う。良くこんなの思いついたなあ。それで契約とはどういう事なのかな?」
源太さんは専門家だけあり、水栓システムの有効性を理解してくれたようだ。
「直接的に言えばお金です。」
「うーん、そう来たか。」
ストレートに金をくれと言うのは、自分のエゴを曝け出しているようで心苦しい面もある。しかし、これは源太さんにとっても利益になる話だ。社会の衛生も向上し、損をする者などいない。余程あこぎな真似をしなければだがね。
「それなりの金額になるだろうが、直ぐにそんな金額は出せないな。」
「商品が売れたらで良いです。売れなければ、もらうつもりは無いです。」
「ん?」
「総売り上げ額に僕の取り分として、1割上乗せして販売してもらえればと。」
「ああ、そーいう事か。」
要は消費税と同じ考え。ここら辺はしっかりとした取り決めをする必要がある。利益と売り上げでは大きく違ってくる。
例えば、うまい棒という10円で売られている御菓子は、原価が7円だと聞いた事がある。これを例とするなら、10本売れた場合の売上1割で10円の特許料。利益1割なら3円の特許料となり、2倍以上の差が生じる。
実務を行う場合、商品の原価計算に加えて他の要素も絡んでくる。今回の特許もそうだし、税金や保険料も重要な問題だ。税金ねえ。北関市の税金はどうなっとんのやろか。こりゃ調べる必要があるな。契約が上手くいったらだけどね。
人件費も重要な項目だ。中小の事業主の場合、人件費を抑える為に、社長が身を粉にして働く場合も多いという。己の実力がそれまでと言われれば返す言葉も無いが、大変な思いをしているのは従業員だけではない。
特許という考え方がこの契約で初の試みになるのなら、この率が今後の基準となる。慎重に交渉しなくてはいけない。正直に言うと1割は少々高いと思っている。要するに吹っ掛けた訳だが、これが交渉の入り口だ。
「うーむ、1割か……。理屈を知れば、その便器は簡単に作れるのかな?」
「配管が少し複雑になりますので、費用は上がると思います。」
「君の取分が売り上げの1割となれば、販売価格は更に上乗せをしないといかん。末端価格が大きく違ってくるが、客がどこまで納得してくれるかだな。」
「その意見を聞こうと思って、見込み客をこの場に同席してもらったのです。」
「なるほど、それが……。」
「わし等か。」
石神先生が納得したように言葉を発した。
「専門職の源太さんには新商品の効果が分かってもらえたと思いますが、一般の人が、これ迄の説明を聞いて理解できたのか、また、どれ程の価格であれば購入しようと思えるのかを知りたいんです。どんなに良いものでも手に入らなければ、所詮は絵に描いた餅です。」
商品即売会が市場調査に早変わりだ。調査と言うにはサンプル数が少な過ぎると思うが、今はこれが限界だろう。
「これが面白いと言うのは認めるよ。わしの好奇心だけだったら導入したいところだが、予算の問題もある。校長先生はどう思いますか。」
「もう少し性能を確かめてからだな。これを入れるにせよ、全ての厠を入れ替える予算は無い。出来て二つ迄じゃ。後は様子を見ながら、徐々に新品に交換していくのが現実的なところか。」
ほほう、見込み有だな。
「ウチは値段次第じゃな。ちょうど、道場の厠の建付けが悪くなってきた所じゃから。」
「病院に来る人は病気の人達だから是非購入したいね。清潔にしておかないと他の患者さんの病気をもらって帰る可能性もあるし、そうなったら信用が下がるから。ただ、問題はお金だなあ。」
「お金は何とか出せるんじゃない? 食事のおかずが減るかもしれないけどね。」
「今の季節なら、俺が山菜でも採ってきたるぞ。毎日は無理やけどな。」
商品の性能と効果は認めるが、先立つものが問題という事か。




