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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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77 魔術契約の準備

 夏休みが終わり明日は始業式だ。


 自分に課した宿題だが、何とか間に合わせる事が出来て安心している。


 また、陶器の焼成をしている時に興味深いものを目にした。それは精霊である。


 火の番をしていると、火中にうごめく怪しい影が見えた。始めは火のゆらめきなのかと思ったが、よく目を凝らしてみると蜥蜴とかげのようなものがせわしなく動いている。


(何なん、これ……)


 そのお陰で、退屈せずに火の番をする事が出来たので有難かったが、不思議な事もあるもんだなと強く記憶に残った。


 その正体は格さんが教えてくれた。


「へえ~、珍しいもんに会えたなあ。」

「いったい何やったの?」

「そりゃ火鼠ひねずみや。」


 僕は蜥蜴とかげみたいだと感じたが、火鼠ひねずみと呼ばれる精霊らしい。昔、格さんが狩りで野営した際に、焚火に現れた事があったという。魔石や魔力を用いた火に現れやすいと言われている。


 もしかすると、これが西洋で言うサラマンダーなのかもしれない。火鼠ひねずみといえば皮衣が有名だが、それを作ろうとすると、あの大きさでは何匹も捕まえないと駄目だろうと思えた。捕まえ方が分からんし、可哀想なので作る気はしない。


 さて、明日は式だけで授業は無いが、今後について先生と打ち合わせをしたい。


 ひとつは学校が支援してくれる魔術契約について。契約内容は真魚さんに相談して決めてある。


 ふたつ、休み中に完成させた商品のプレゼンテーションだ。これが上手くいけばアイデアのライセンス契約を結びたい。お披露目に呼ぶのはユキちゃんの親父さんと、この新商品を購入して欲しいお客さんの数名を予定している。客として見込んでいるのは以下の人達である。


・佐助さん、春絵さん

・石神先生

・無二斎師範


 彼等をピックアップしたのは、身近な大人である事はもちろんだが、人が集まる場所を管理している為であり、便所を多くの人が利用するだろうと考えたからだ。宣伝として最適だという目論見もくろみいだいている。


 佐助さんの病院は不特定多数が訪れる場所であり、当然にして便所も使う。更に春絵さんは衛生管理の専門家だ。プロの視点で、的確な意見を述べてくれるに違いない。


 次に石神先生。学校も子供たちが使えば親たちに伝わる可能性がある。もし授業参観なんてのがあれば、なおよろし。


 最後に無二斎師範で学校と同じ理屈である。それに無二斎師範は島一族の系譜である。島一族は北関市で要職についている者が多い。役所の人達に噂が広まれば、公共事業に採用されるかもしれない。益々よろし。


 まあ、これらを実際に行うのはユキちゃんの親父さんになるのだが、僕としても出来るだけのサポートはしたい。これがその手始めだ。例えどんなに良い商品でも皆が知らなければ何もならない。この世界に広告代理店は未だ存在しないだろう。無ければ自らが宣伝し売り込む必要がある。その為、不特定多数の目に触れる施設に設置できればと考えたのだ。


 また興味を持った人が連絡を取れるよう、設置業者の刻印などを考えても良い。


「失礼しまーす。」

「どうした?」


 職員室をのぞくと石神先生がお茶をすすっていた。


「あのー、例の魔術契約なんですが。」

「お、内容が決まったか?」

「はい、それとついでなんですが、役員をしている者は、優秀な企画を出せば援助してもらえると聞いたのですが、そっちも審査してもらいたいです。」

「ほほう。今年は優秀な生徒が多いな。他にも企画を出している者がいるだ。」

「あ、そうなんですね。」

「内容にもよるが、二つとも採用するのは難しい。どちらか一つになるら。」


 これは予想外だ。内容で負ける気はしないが、他の要因がからんでくると難しくなるかもしれん。例えばコネとかね。そんなんに負けたくないなあ。


「魔術契約の儀式の時、同時に審査して欲しいんです。返事は後になっても構いませんが、それなりにお金がかかる事になるので、財布を握っている人が立ち会ってもらえれば有難いです。」

「いったいどんな内容かな? 魔術契約と関連したものなのか?」

「衛生的で臭くない便所です。」

「便所?」


 完全に意表を突かれたようで、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。ま、無理もないが、こちらは大真面目だ。


「これは魔力を必要としません。誰でも使え快適です。便所でご飯を食べる事すら出来るでしょう。」

「便所メシか……。」


 その言葉で先生が渋い顔をする。あれ、何か不味い事を言ったか?


「君は知らんだろうが、いじめられて便所でメシを食ってる者がいると聞いたんだ。それは上級生であって君たちではにゃーがな。」

「胸糞悪いですね。僕も調子に乗って要らんコトを言いました。」

「ああ、それは良いら。しかし、君らの中でいじめなんて聞く事はあるのか?」


 少し迷ったが、ユキちゃんの事について話しておいた。半ば強制的に清掃委員をやらされたかもしれんと伝える。陰で先生に言い付けると聞くと、何て嫌な奴だと思えるが、自分ではどうしたら良いか分からんし、ほかっておくのも良心が痛む。とりあえずは先生に丸投げだ。


「それは気にはなっていたんだよ。この組は親が金持ち等の子弟が多いで、一般の選抜者は馴染むのが難しいところがある。それだけに優秀な者が選ばれてはいるんだが、優秀な者がいじめられんとは限らんでな。」


 その通りだと思う。いじめの対象になるかどうかは、性格によるところが大きい。何でコイツがイジられんねんと思う時があれば、逆に、勉強もスポーツも中途半端なヤツが、何故かやたらとデカい顔をしているケースもある。


 組織運営で求められるもの、それはコミュニケーション能力。個が集まり集団になると、これが如何いかに大事なモノなのか思い知らされる。


 コミュニケーションとは他人との意思疎通だ。言葉や文字という、他の動物より高度なツールを持った人間ですらいじめや争いが起きる。


 そもそもだ、人間がそこまで立派なものなのだろうか。所詮しょせんは頭の良い動物に過ぎない。全てをコントロール出来ると考えるのは愚かな事だろう。


 大人ですらパワハラ等のいじめは存在し、自殺を選択してしまうのは珍しくない。ましてや子供だ。いじめは必ず起きると考えて備える必要がある。


 大事な事は、いじめの兆候を察知し的確に対応する事。乱暴な例えになるが、自然災害における減災の考え方と同じだ。


 自然災害は必ず起きるものだが、起きた時に備え避難訓練や必要な備蓄などを準備しておけば、被害を減らす事が出来る。


 いじめにおいても、出来るだけ傷が浅いうちに解決できるように、相談窓口などの対策が求められる。

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