75 天王山の戦い3
残酷な描写があります。
魔石の採掘が進むと魔石クズも比例して増えた。
魔石は採掘後、純度の低い部分がカットされ、市場には品質の高いものが出回るようになっている。このカットされたものを魔石クズと呼ぶ。
魔石と魔石クズの違いだが、どちらも魔力の結晶であり、本質的な違いは無い。違うのは魔力がどの様な作用を引き起こすのかを、使い手が操作できるか否かの違いである。
例を挙げてみよう。風呂を沸かす時、薪の代わりに魔石を使う場合がある。この時は魔石に込められた魔力を火、または熱属性魔法を発動させる燃料として用いられる。この使い道を決めるのは使い手だ。
ところが魔石クズになると、このように使い道を指定できない。魔石クズは状況に応じて反応するだけである。風呂を沸かす時、魔石で熱属性魔法を発動させた後で熱を更に上げるる為、周辺に魔石クズを撒くと、魔石の熱に魔石クズが反応して同じ熱属性魔法を発動する。詰まり、追加燃料を投入した形となる。
魔石クズは安価で使い勝手が良く重宝され、魔石の産地以外ではめったに目にする事が無いが、北関市ではふんだんに手に入った。
今回の戦いに、この魔法クズを利用した新兵器が使われる事となったのである。
それは核に魔石を使い、その周囲を魔石クズで固めた西瓜程の大きさを持つ球体であった。投石機にて投擲された球体が目標の上空で炸裂し、高温度となった魔石クズが辺り一面に降り注ぐ。
前世で似たものを探すなら焼夷弾、若しくはナパーム弾だろうか。
本来は港を防衛する為に開発された。広範囲に熱源をばら撒き船の帆、または船本体を焼くのである。野戦で敵味方が入り乱れた場面では使えないが、砦を攻める等の攻城戦では威力を発揮する。その名を火雨という。
「火雨の準備は良いか。」
「は、整いましてござる。」
「海賊が陸で山賊の真似事か。こやつらには一分の同情も無い。焼き払え。」
投石機に載せられた火雨に起動の魔力が流された。
「放てっ!」
海賊達はこの兵器の存在を知らなかった。投石機そのものには見覚えがあるどころか、彼ら自身も良く使用するものだ。投石機を目にした時、気を付けるよう指示があったが、それ以上の対策は無かった。
火雨の神髄は投擲された物体にこそある。放物線を描いて頭上に達したそれは、炸裂音を合図に無数の欠片となり地上に降り注ぐ。生まれたのは地獄である。
高温の魔石クズが樹木を燃え上がらせる。最近の猛暑日で乾燥していたのに加え、海賊が飲料水の確保で水分を抜き取っていた為、非常に良く燃えた。
魔石クズの雨を直接体に浴びた者もいた。それが衣服に付くと一瞬で着火した。気温が高いなかで砦の建設作業をしていた為に、ほぼ裸で作業をしていた者達も多かったが、彼らはそれ以上に凄惨な事態に陥った。
火雨が身体に付着すると皮膚を破り肉に到達した。欠片が大きいものになると骨まで焼かれるケースもあった。身体にめり込んだ石の欠片は、魔力が無くなるまで高熱を発し続ける。生きながら内側より身体を焼かれ続け、悲鳴が耳を劈く。
高熱を発する欠片に耐え切れず、自ら手足を切り落とす者もあった。更には周り一帯の木々が燃える事により、酸欠状態も引き起こす。
完全に想定外の攻撃により、海賊達は錯乱状態となる。
山に籠ってなどいられない。そう判断した者達が統率も無く、逃げ出すように山から飛び出してくる。
「出てきたぞ、頭ドンジャラホイな奴等めが。殲滅せよ。」
ナパーム弾は非人道的兵器として使用が自主規制されているが、今後、この世界で火雨はどの様に使われるのだろうか。
火雨の効果は絶大であった。その結果、前哨戦は北関市守備隊の圧勝となる。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここに海賊どもが陣を敷いとったんか。」
「僕ん聞いた話では、新兵器で焼き尽くしたちゅう話や。木が全部燃えたせいで、今生えちょるんな若か木ばっかいやなあ。」
「新兵器ってどんなんやろ。」
「魔石を使うたヤツんごたっどん、作り方は極秘みてやぞ。」
まあ、純粋な好奇心はあるが、知らんなら知らんでもええなと思う。関わりたいもんでも無いしね。
昼食を終えると、天王山の北関市側の登山道から、何か落ちとらんかと注意しながら下山する事にした。天王山は山と呼ばれるが標高は高いとは言えず、険しい丘のようなものだ。特別な登山用具などは不要だが、登るより下るほうが体力を使う気がする。気を付けねば。
ズルッ (うおっ)
そう思った途端、何かを踏み足を取られた。転びはしなかったが、大きく体勢を崩した。
「大丈夫かー。気を付けや。」
「ゴメン御免。大丈夫や。」
足元を見ると、何か金属製のものが地中から顔を覗かせている。
「なんやろコレ。ちょっと掘っても良い?」
「じゃあ皆で掘るか。」
三人でかかると直ぐに掘り出す事が出来た。それは一枚板の鉄板であり、盾のように見えた。




