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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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74 天王山の戦い2

 海の民とは何者なのか。


 一言で表すなら海賊である。どこぞの国が送り込んだ工作船だという噂、または邪教の信徒だとの話も聞くが、その真相は不明である。民というが同じ民族という訳でもないらしく、構成員のなかには様々な民族を見る事ができた。


 金銀財宝や食料のみでなく子供をさらい、戦闘員へと育てあげる事もあり、港町からは悪魔の如く恐れられている。


 そんな彼等が何故船を降り、慣れぬ陸路にて北関市を襲ったのかは謎であるが、北関市の著しい発展に引き寄せられたと推測される。近隣の山中から魔石の鉱脈が発見されて以降、一攫千金を狙う者たちが集まり、町の人口が膨れ上がっていた。


 魔石の存在も大きいが、人が集まれば経済も動く。治安の悪化など弊害もあったが、大きな混乱もなく管理できていたのは、統治者が優秀である事の証であった。北関市のトップは将軍だが、戦乱が無く平和な時代が続いていた為に、軍の司令官としての意味は薄れていた。


 事実、現在の将軍は文官の出身であった。それを組み易しと判断され今回の侵攻に繋がる。しかし、侵略者達の想定外が生じ始めていた。


 ひとつ、漁村襲撃の情報が北関市に伝わるのが早かった。荷役として働かせる為の捕虜が逃亡したのに気づき、北関市への襲撃計画を前倒しする事となった。逃亡した捕虜は役人で、奴隷のまとめ役と考えていた者であった。計画を聞かれていた可能性があり、これが北関市へ伝わって、防衛の準備でもされれば厄介だ。


 手持ちの物資で直ぐに動ける者達を選び出し、相手が準備を整える前に叩く作戦を取る事になった。


 ふたつ、北関市の情報に間違いがあった事。事前の情報より北関市守備隊の人数が多かったのである。先発部隊の人数が少なかったのは事実だが、守備隊よりは多いと見込んでいた。幾ら相手が弱兵であったとしても、守りが有利なのは言う迄も無い。互角以上に戦えると考えられた人数であったが、遠目から見た感じでは同数どころか、逆にこちらが少ないように感じられた。


 山に陣を敷き、後続を待った理由がこれである。本体は先発隊の倍であり、合流できれば相手の戦力を大きく上回る。敵は予想に反し野戦を選択したようで、城壁から外に出て陣を構えている。防壁に問題があるのかもしれない。山を下りて攻めるかとの思いが頭をよぎったが、相手には騎馬兵がいる。万全を期すなら本隊を待つのが良いだろうと判断したのである。


 膠着こうちゃく状態が続いていた。


「お頭ァ 食料はかく、水がもうありませんぜ。」

「そりゃ分かっとった事だろ。地下水はどうだ?」

「水脈は感じ取れますが、かなり深いですぜ。掘っとる余裕も道具もねえよ。」

「ふん。大気に湿度はあるか?」

「これも駄目だ。カラッカラで水分なんて取り出せねえ。」


 海の民はその名の通り、一年のほとんどを船上で生活する。船は帆船であり、必然的に風属性魔法に長けた者が多い。この事で彼等の機動力は大幅に向上している。


 また、船上で暮らす為には必ず補給が必要となる物資がある。水と食料だ。


 真水を確保する為、水属性魔法が重要視された。入手方法は幾つかあり、大気中に含まれる湿度から得るものと、海水を蒸留して真水を得るものが主に使われる。


 そして、植物から水分を抽出する手段もあった。彼らは船大工の集団でもあり、木造船を建造する際、生木を乾燥させるのが主な使われ方であるが、それを飲料水として使う事ができた。


 しかし、樹木等から得た水には雑味が残る為、通常では飲料として使われる事は無かったが、今回に限っては、これが水を得る唯一の手段となった。


「うへぇ、木材臭え。」

「我慢しろや。大気は乾燥してカラッカラで水なんて取れねえんじゃ。町を落としてから酒でも飲もうぜ。酒場で格闘ドンジャラホイや。」

「守備隊の奴等は想像できんかったやろ。わし等の力をなめ腐った結果を体で教えたろうやないか。」


 確かに、この事は守備隊にとって想定外の事実であったが、これが何方どちらにとって有利となったのかは別問題であった。


 侵略者の想定を上回ったもの其の三。文官将軍が有能な人物であった事である。 


 自ら前線に立ち兵士を鼓舞する事は無かったが、決断力に優れていた。将が先頭に姿を見せれば士気を高める効果があるが、それは危険と隣り合わせであり、余程の場面でなければ避けた方が良いだろう。今回は民を守る正義と使命感で兵の士気は高く、そこまでの危険を冒す必要はない。


 また職業軍人でなかった為、組織改革がやりやすかった事が上手く機能していた。


 落ち目となった組織を立て直す時、外部からの人材に頼る場合がある。


 何故なのだろう。


 組織に優秀な者がいない。または、外部に優秀な者がいる。それとも両方か。


 それらも真実かもしれないが、外部から人材を招く利点として挙げられるのは、しがらみに囚われる事なく、改革を断行できる点にあると思う。


 例えば100人の集団がいるとする。組織として生き残るには、50人に死んでもらう必要がある。同じ釜の飯を食った同志であり、家族の顔も良く知った仲だ。


「お前が死ねば皆が助かる。頼む、死んでくれ。」


 リストラの肩叩きだ。恨まれ役は誰しも嫌なものだろう。内部から叩き上げで育った人間より、外から入った者のほうが非情になれる場合が多い。


 今回はリストラの人員削減をしたケースでは無いが、文官将軍の指示の下で組織の再編成を行い、新たな風が吹き込まれていた。技術部が重視されるようになり、新兵器開発に成功していたのである。

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