72 いざ関ヶ原
「点呼っ!」
鋭い掛声が飛ぶ。
「イチッ!」
「ニッ!」
「総員確認ッ! 異常なしっ! 休めっ!」
こんな少人数は目視で十分だが、気分の問題である。因みに僕は二番だ。
「これより第一次関ヶ原探検隊、出発の議を執り行う。質問がある者はおるか。」
「ゴン隊長殿、隊員として犬のタロウを連れて行っても宜しいでしょうか。」
「うむ、願っても無い。貴重な戦力である。」
ノリノリである。
「ワカ隊員は何ぞあるか。」
「はっ! 出発前に装備を確認したく存じます。」
「じゃあ、忘れもんが無いか確認しとこうか。」
直ぐに普段の調子に戻る。変に気負うと疲れるよね。のんびり行こうか。
僕の持ち物はお弁当の握り飯と水筒。水筒は竹の節に栓をした物で、縄に括りつけて肩から斜めに掛けて持っている。左右で総数十本。飲み水としてだけでなく、万が一に負傷した時に、傷口を洗う為に使おうと思い持ってきた。傷の処置は僕の木属性魔法で対応できるが、雑菌の消毒が出来ないからだ。
それに加えて丈夫な縄だ。何に使えるか分からんが邪魔になるものでも無い。
最後に背負子。木で造られた丈夫なもので、竹籠もあったが、刀を運ぶなら竹では強度が足りんかもしれんと思いコチラを選んだ。何年も雨ざらしで錆びついている刀なら、そこまで考えんでも良いかもしれないが、妖刀魔剣が発見できた場合には心許ない。
そんなん見つからんって? ええやん、夢くらい見ても良いでしょ。男の子だもんね。怖さもあるが憧れもあるのよ。
そこに山があるから登山をし、ロマンを求めて冒険をする。それは女の子も同じでしょ? カワイイに理屈は要らんのと同じ事よ。
冷静に分析すれば、冒険をする根拠を挙げる事が出来るかもしれんが、この場でそれを追究するのは野暮ってもんですよ。そんなん後で幾らでも出来る。今は純粋に楽しもうぜ。
「うん、ハルの役割は衛生兵じゃな。」
「了解。傷はともかく毒には注意してくれ。けばけばしい花の蜜を吸ったり、変な実を食べるのも禁止やぞ。」
「分かった。」
次にワカの持ち物チェックに移る。
「俺は武器の調達じゃな。勿論握り飯もあるど。」
そう言って取り出したのは木刀が二振りと、槍の長さ程度の棍棒が一つ。おそらくは子供用で、小さい子に使い易いように本来より短めになっている。
「無二斎師範んトコから借ってきた。本物ん刀や槍は駄目じゃった。」
「僕が鉈を持ってきたで、これらを上手う使えば十分じゃ。後は腰に付けっ竹籠もあっど。」
担当を決め装備を分配する事にした。先頭はリーチの長い棍棒を持ったゴンだ。一番槍は僕じゃと意気込んでいる。
次に続くのは木刀を構えた僕で、ゴンの槍をかわして接近した敵を、二列目から飛び出して撃退する役割を受け持つ。
最後に控えしワカは腰に竹籠のウエストポーチを付け、その中には投石用の小石が入っている。体力テストの投石で、一番良い成績を修めたのが彼である。適任だろう。木刀を腰に差し、場合によっては接近戦にも対応できる。
また、それぞれの背中には背負子があり、その中には鉈が放り込んである。
「こんだけあれば良いんやないのかな。」
「後は地図じゃな。俺が調べてきたど。」
合戦のあった場所が地図に書き込まれている。しかし、僕達の目的は主戦場からは少し外れた場所に目標を定めた。既に妖討伐隊が派遣された時に、遺品の回収も併せて行われた為、今更何かが出てくる可能性は低いと判断した訳である。
主戦場ではないが戦があった場所で、討伐隊が派遣されていない地点。その場所が今回の目的地だ。そこに辿り着くための道程だが、途中からは整備された道から外れる必要がある。
「地図は助かっなあ。迷わんごつ気を付けんないかんな。平野じゃから、よっぽど大丈夫じゃとは思うが。」
「僕も昔、山で迷子になった時は死ぬかと思ったわ。」
「よう無事やったな。」
「タロウのお陰やね。命の恩人ならぬ恩犬やな。」
「うん、じゃあ忘れもんも無かってコトでそろそろ行こうか。」
歩調を合わせて歩き出す。道も整備されているので順調だ。天気も晴れており、風も心地よく気分が良い。腰に差した木刀が邪魔に感じた為、背中の背負子に放り込んだ。長時間の行軍となると装備の重さってのも大事になるなと感じた。
古代中国で天下人となった劉邦が、最も手柄のあった者として、輜重、軍需品の補給を担当した簫何を選んだという逸話が頭に浮かぶ。
戦をする際は、将軍の統率力や軍師の神算鬼謀も大事だが、そもそもの大原則は数的優位等の、より大きな力を手にした者が強い。軍を維持する為の食料と装備の調達は、戦線を維持する前提条件となる。分かり易く言い換えれば、腹が減っては戦は出来ぬという事だ。
「おーい、ちょっとここらで道から外るっど。」
ワカが地図を手に合図して指を指す。
「始めの目的地はあそこに見える山ん頂上じゃ。」
指の先には、小高い山の頂が見える。背の低い木がまばらに生えているのみで、子供の足でも十分に登れそうだ。
「あれが有名な天王山やど。」




