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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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71 夏休みの始まり

 よっしゃー! 明日から夏休みだっ!


 学校は嫌いではないが休みってのは解放感を感じる。


 誰かの管理下に置かれた状態と自由意思の元での状態では、例え全く同じ作業をするにしても感じるストレスが違ってくる。それだけ自分が負う責任も大きくなるが、子供時代はそこまで考える事も無いだろう。子供であることに胡坐あぐらをかき過ぎてはいかんとは思いますがね。計算高い子供なんて可愛げが無いぜ。


 年末年始等のような公的行事が無い夏休みは、その気候と相まって、特に解放感あふれる休暇のように思う。


 夏の休暇と言えば海を連想する。北関市は港町だが、未だ海で泳いだ事は無い。僕達の住む区画は北区と呼ばれ、港に面した土地は南区とされている。港は貨物船が荷の積み下ろしをしており、また生活用水が流れ込んでいる事もあって、海水浴には適していないそうだ。


 それ故に、北関市から少し離れた海岸まで足を運ぶか、川遊びをするというのが夏の風物詩となっている。


 学校が休みになるとはいえ、完全に自由になれる子供は少ない。家の仕事を手伝わされるからである。それに配慮してか休み中の宿題は有って無いようなもので、何でも良いから、一つの事柄について調べて提出する事だけだ。


 既に僕の研究課題は決まっている。そりゃ便器ですがな。馬鹿にしたらあかん。成功したら衛生環境が格段に向上するはずだ。


 それと、後は遊びにもいかにゃならん。いくら自分が望んだとはいえストレスは溜まる。研究で疲弊ひへいしたものを、何かで発散する必要があるだろう。


 夏休みの行き先で挙げられるのは海か山が多いが、今回はその何方どちらでもない野原である。こんな会話が夏休み前にあったからだ。


「もう少ししたら休みやね。君らはどうすんの?」

「それだけど、僕らと宝探しに行かん?」

「お宝? 面白そうやけど、何処どこへ?」

「関ヶ原じゃ。」


 関ヶ原は古戦場であり、戦で使われた刀剣類が落ちているかもしれんので、探しに行こうぜとのお誘いだ。


「面白そうやけど戦死者のモンやったヤツやろ? 呪われたりせーへんのかね。」

「持ち帰ったもんはお寺で清めてもろうた後、持ち主が分かれば遺品として返すんじゃ。謝礼がもらえるど。分からんかったヤツは自由にしてええんじゃと。」

「ええな、それ。」

「そうじゃろ。ワカと3人で行っど。あやかしが出っかもしれんで気を付けてな。」

あやかし?」


 この世ならざる者。現世のことわりから外れたモノ達をあやかしと呼ぶイメージがあるが、魔力が存在するこの世界で、妖しの定義はどんな事になっているのだろう。


あやかしってナニモンなん?」

「魔力か何かがりついたもんやって言われとるな。」

「どうやって妖やと分かんの?」

「魔力の強さじゃな。魔力ってもんは何処にでもあるもんやが、特に妖は魔力の塊だそうじゃ。まあ、僕も未だ見た事は無いんじゃけどね。」

「ほーん、んじゃ夏休みは関ヶ原で、武具と妖探しやな。」


 妖刀とか見つかったらどうしたもんやろかね。こんなんはまず見つからんと思うが、呪われるのもかなわんなあと、捕らぬ狸の皮算用。人外のものに精通しているのは真魚さんだろう。教えてもらいにいこう。


 何事も準備が大事だ。例え今回では無駄な努力になったとしても、それが違った場面や異なる何かに繋がっていく事もある。


 一度目の訪問では留守だったが、予定を聞いた二度目は面会する事が出来た。


「例の計画は順調ですか?」

「最低限の必要な物は手に入りました。後はどこまで形に出来るかの問題です。」

「応援していますよ。で、今日は?」

「はい。今度、友達と関ヶ原探検へ行く予定なのですが、妖に気を付けろと聞きまして、妖とは何でしょうかと。」

「ふむ、前回の話を覚えていますか?」

「はい、神の誕生についてでしたね。」


 神仏は人々の願いが魔力に付与され具現化したものではないか、というのが前回の内容であった。では精霊や妖怪変化の類はどうなのか。


 真魚さん曰く、これら知性や超常的な力を持ったもののうち、特に力が強いものが神仏とみなされ信仰の対象となり、力が劣るものは精霊や妖とされる。


「一般的とされている分類では、神仏は肉体を持つ必要が無く、故に物理的に現世からは自由な存在です。これは精霊も同じです。しかし妖は肉体を持つ、まり、精霊と似たものでありながらも、より現世に囚われている為に格が落ちるとされています。」

「肉体を持つのですか。肉体が存在するのは怖い気もしますが、それは物理で対抗できるという事でしょうか。」

「そうですね。しかし精霊とされながらも肉体を持つものもいますし、妖でも肉体を持たないモノがいます。そこら辺はいい加減なところですが、人間に悪さをするものを妖、それ以外を精霊と呼ぶと覚えておけばいいでしょう。」


 関ヶ原のような、死者の念が残されている土地は、妖が発生しやすいと言われている。但し、かつての戦場とはいえ年月が経っている事があるうえに、定期的に妖の討伐を行った結果、今は問題なかろうとの話だ。


 死者の怨念が残るのは、深い恨みを抱えて亡くなった場合に良くみられ、不思議な事に大規模な戦闘跡、戦地でそれを聞くことは少ないという。関ヶ原の妖発生は例外の一つとして挙げられている。


 戦場だと極限の興奮状態ではあるが、相手の敵兵は顔を見るのも始めての相手であり、個人的な恨みは薄いのも理由になるのだろうか。それとも、既に己の死を受け入れる覚悟を持っていた為、現世に負の感情を残す事が少ないのかもしれない。


 関ヶ原の戦いにおいては、職業軍人による覇権争いではなく、異民族侵攻という危機であり、民間人をも巻き込んだ死闘であった。それが妖の発生した要因と推測されている。


 いずれにせよ亡くなれば皆仏である。未だ現世に心を残しているものがあれば、遺品を弔う事で成仏してもらいたいものだ。

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