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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
序章 自己の確立
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7 説教を爆風消火

 正午を過ぎ日差しが強くなった。今日は良く晴れた一日となりそうだ。昼食が終わり片付けを手伝っていると、春絵さんから声がかかった。


「今日は晩ご飯の後、大事な話があるからね~。」

「は~い。」


 おそらく先日の説教だろう。迷子事件については、何事もなく、寮へと帰る事が出来た。あの時に見た、獣らしき眼光はタロウのものだった。あの後すぐ、格さんと助さんを連れて戻ってきたのである。地獄に仏とはまさにこの事だと感じた。


 タロウは秋田犬のようなイメージで体が大きく、山で出会うと非常に威圧感を感じるが、人懐っこく愛嬌がある。今度、感謝を込めて、毛並みをしっかりと整えてやろうと思う。


 帰ったら、皆が無事を喜んでくれた。夜も遅かったので、直ぐにとこに就くようにうながされ、小言は少々で終わったが、今日はちゃんとした説教だろう。明日は医院が休みなので、就寝が遅くなっても大丈夫だからだと思う。


 良い機会なので、普段から疑問に感じながら、聞く事が出来なかった事を質問するつもりでいる。


 普段、忙しい大人達をみていると、疑問に思った事を質問するのに、遠慮があって中々聞くことが出来なかった。時間がかかると思われる内容であったし、どこまで打ち明けてくれるのか分からないと思っていたからだ。しかし、この事は避けて通れないと感じていたので、この機会に話をしてみるつもりだ。


 質問時間を確保する為には、説教タイムを早々に切り上げねばならない。


 話は変わるが、火災を鎮火する方法の一つに爆風消火というものがある。大規模火災を鎮火させるのに用いられることがあるのだが、爆弾を使うことにより発生する強烈な爆風により、周囲を破壊(可燃物の除去)し消火するのだ。


 火災発生? そんなら燃える物を無くせばええやん、という、力業のゴリ押しである。跡形も無くなるので、建物火災等で、無くなって困るものがある場合や、周囲に影響が及ぶ時などには使えず、当然にして使用ケースは限定される。


 人の感情の動きにも似たようなものはある。ひとつの問題が起きた時、それ以上の難問が重なると、始めに起こった問題が大したことがないと、感じられることがある。怒るのにもエネルギーが必要だ。そのエネルギーを、此方こちらが用意したモノで消費させ、怒る気力を奪うのである。


 要は、話題のすり替えである。


 ここで注意すべき点は、始めの問題に一定の結末をつける事だ。中途半端なところで話題をらすと、逃げていると思われ、逆に火に油を注ぐ結果となる。タイミングが重要だ。そして新たな話題が、真に重大な内容である事である。始めの問題がかすむほどの爆風でなくてはならない。


 ただ、話の流れで無理だと思ったら諦めよう。無理はしないつもりだ。焦るとろくなことが無いのだから。


 そう自分に言い聞かせ、心を冷静に保つよう心掛ける。時は刻々と過ぎ去り夕食が終わった。片付けが終わると、ケンにいとハナねえが席を外すように言われ、僕だけが残された。


 さあ、お説教タイムの始まりだ。席を外した二人は静かなようだ。聞き耳を立てているかもしれないが、聞かれても問題ない。逆に聞いてもらったほうが、隠し事が無くて良いとさえ思う。


「この前の山で迷った事だけど、話しておかなきゃいけない事がある。」

「はい。」

「まず、何か言いたいことはある?」


 こちらの言い分を聞いてからにしてくれるらしい。有難いと思う。説教をただ聞くのではなく、発言出来るということは、此方こちらで会話をコントロールする余地が生まれる。


「えっと…… まずは探しに来てくれてありがとうございます。」

「うん。それが大事だよ~。」


 春絵さんの声が入る。


「次に、迷惑かけてごめんなさい。」

「うむ。それは気にせんでええ。」


 格さん、頼もしい言葉だ。猟師仲間の影響なのか、言葉に少し訛りがある。訛りは影響され易く、僕も良く使うようになった。


「これからは気を付けて、出かける時は声を掛けるようにして、遅くならんようにします。」


 感謝・反省・対策と、模範解答で畳み掛ける。


「わかっとるやないか。大人でも危険な事があるからな~ 気ぃ付けなあかんぞ。」

「そうだぞ、何かあってからでは遅いんだよ。」

「いろいろと考え事をしていたら、時間を忘れてしまって……」


 会話を誘導する為、釣り針を垂らしてみる。


「そうか、何を考え込んでた?」


 期待した問いを助さんが発する。ここからだな。


 三人とも良い人なので、最初から素直に聞けば良かっただけかもしれない。あまり考え過ぎると性格が悪くなるような気がする。狙い通りに事が運ぶと、達成感はあるが、何か悪巧みをしているような、罪悪感を感じてしまう。


「あの、えっと… ボクはどうして孤児になったのかなと。」

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