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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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68 戦場の倫理

 道場の無二斎師範は関ヶ原帰りだという。


 関ヶ原とは北関市の北部に広がる平原であり、異民族を撃退した戦で最も激戦となった戦場だ。その戦いにおいて、島軍団は軍団単位での捨てがまりのチェストを行ったとされる。


 島軍団は多数の戦死者を出しながらも敵大将を打ち取り勝利した。この作戦名はチェスト関ヶ原と呼ばれ伝説となった。


 そんな死地から生還できたのは実力は勿論もちろんの事、運もあった事だろう。


 師範から感じ取れる凄味は、戦争とはいえ確実に殺人を経験した人だと、僕自身が色眼鏡で見ているせいかもしれない。


(戦争における殺人ね……。)


 記憶を辿たどってみると、前世においても殺人を犯したであろう人と会話をした事がある事を思い出した。


 僕がその人と出会ったのは海外留学中であった。彼は民族浄化と言われる内戦があった国の出身であり、その彼が次の言葉を口にした。


「俺、国では兵士ソルジャーだったんだ。」

「あ、そうなんや……。」


 何と返事をして良いか分からなかった。どんな言葉が適切だったのだろうか。彼とはクラスが違い、実際に会話したのは数回程度だったと思うが、変に意識をしてしまったせいか、妙な威圧感を感じたのを覚えている。


 実際に戦争を経験した同年代に会い、平和が紙一重で守られている事を実感し、いろいろと考えさせられた。


 逃れられない戦争が勃発した時、自分は戦争に行くことができるのか。そして、この手で引金を引くことが出来るのだろうかと。


 日本では祖父母の年代が太平洋戦争を経験した世代だった。祖父は徴兵されていたが、幸いにも前線に配置され無かったと聞いたような気がする。実際にどのような経験をしたか尋ねる機会が無かったので、正確なところは不明だ。


 現代の戦争は、素人が徴兵され歩兵として戦場に立つことはまれだろう。装備機器が複雑になり高い専門性が求められるなかで、素人が参戦したとしても邪魔になるだけだ。しかし戦争では何が起こるか分からない。同じ国の良き隣人であった者達が、実際に殺し合う現実が起こったのである。


 これはフィクションでは無い。自分にそれが起こらないと誰が言えるだろう。


 平時の殺人は悪であるが、戦時の殺人、特に自衛の為の殺人も悪となるのか?


 以前に言及したように、平時の殺人も罪に問われないケースがある。戦時における殺人も、適切なものならば罪に問われないというのが国際ルールだろう。当然ながら、それが非人道的行為である場合には当てはまらない。


 とは言うものの、これらの考えは近代になって出来上がった概念だ。毒ガスなどの大量破壊兵器が登場し、更に情報化社会により、その実態が広く知れ渡るようになってからの事だと思う。それ以前については正に勝者こそが正義。歴史は勝者によって作られてきた。


 僕自身の考えでは、自衛の為の殺人は必要悪としても良いのではないかと思う。但し、必要悪も悪に違いない事を忘れてはならない。悪を悪で征するのは最終手段であり、それ以外に取る方法が無い場合のみ許される行為だろう。


 それを良しとしない人がいるのも承知している。かつて、あるテレビ番組の中で次の問いが投げかけられた。


「外国が日本に攻めてきたらどうしますか?」


 出演していた学者だかコメンテーターだかはこのように答えていた。


「殺されて滅びます。かつて日本という美しい国があったんだと、語り継がれれば満足です。」


 さようですか。僕は貴方がそのような選択をして、死にゆくのに反対はしない。だが、その考えに僕を巻き込まないで欲しいと切に願った。


 相手に真面まともな理性と共通の価値観が無いと、無抵抗主義がその力を発揮する事は無い。言わずもがな、それは歴史が証明している。


 それに無視できない重大なものを忘れている。犠牲になるのは無抵抗を決め込む貴方だけでは無いのである。ここに例を挙げてみよう。



(問1)

貴方は愛する妻と娘の家族一緒に暮らしていました。

ある時、悪党が家へ押し入り、財産をよこせとナイフを突きつけます。


どうしますか?

命が惜しいので抵抗しません。全て持って行ってください。


(問2)

悪党は妻と娘に目を付けます。美人じゃないか。可愛がってやろう。


どうしますか?

どうぞご自由に。ベッドは彼方あちらです。


(問3)

娘は性奴隷として売る為に連れて行くぞ。お前達は金にならんので殺してやろう。


どうしますか?

一切の抵抗を致しません。



 こんなん人間としてと言うより、生物として終わっとるやろ。自分で考えながら嫌になるぜ。だが、テレビの知識人とやらが言っている事はこういう事だ。


 国家の在り方としてイメージし難い時は、個人として考えてみると分かりやすい。


 現代日本は民主主義であり、民主とは多数決による運命共同体だ。自分の意思はどうあれ、多数がその意見を支持すれば多数派の意思が国を動かす。


 民主主義は支持しているが、こんな状況にならない事を願うばかりである。


 勿論もちろん、お前の考えなんて間違っとるという意見はあるだろう。その様に思われる方はそれを堂々と主張すれば良いと思う。いくら意見が違えど、テレビの評論家が己の見解を世間に公表するのは自由だ。それについて僕が意見を述べ、どちらかが非難を浴びるのもまた自由なのである。


 それこそ言論の自由ってもんやろ。常に自分が正しいと思うほど傲慢ではない。批判してくれる人がいるからこそ、間違いに気付く事も出来る。


 今の世界に、言論の自由という概念があるか知らんがね。


 あなたはどう思われるだろうか。

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