66 三連戦
始めて一本を取れた事で少しばかりの自信を持てるようになり、動きも軽く感じるようになった。なんとなく自己流の型が出来つつあるように思う。
まだ未熟ではあるが、ワカやゴン相手に3回に一本程度は取れるようになった。否、それは言い過ぎたか。4、5回に一本くらいだろう。
僕の技量を全て知られているなかで、僅かでも一本を取れるようになったのは、努力の方向性が間違っていなかったという事だと思う。
二人には感謝しんといかんな。
「さて、そろそろ良かじゃろ。」
「ん? そろそろとは?」
「剣道経験者に挑むんじゃろ?」
「そうやった。」
そうそう、一本取れたら道場へ通うって事やった。剣道の授業が終わる前に決着を付けねばなるまい。何の理由もなく剣道の勝負をしてくれとは頼み難い。
先生の許可を得たうえで、剣道授業の最終日に、正式な試合形式にて勝負する事になった。こちらの参謀役としてワカとゴンが後ろに付く。
「僕らが育てたから甘く見んほうがよかぞ。」
ゴンさんや、そんなコト言わずに油断してくれとったほうが良くないですかな? ハードルを上げてプレッシャーを掛けるのは止めてくれ。
最近のゴンは口調がすっかりお国言葉に戻っている。都よりこっちの水が合っていたのだろう。
経験者相手に三連戦となるので、体力を考えると短期決戦で決めたいところだ。それに長引けば付け焼き刃のボロがでるかもしれん。
さあ、一人目だ。ゴンの助言によると、
「初戦ん相手は技巧派じゃな。真面に勝負しては勝てん。」
「いきなり強敵やな。でかい口叩かんかったほうが良かったんやないの?」
「だが、体格は小せ。力で一気に勝負を決めぇ。立ち上がりで仕留められんかったや負けて思え。」
「ゴリ押しやな。」
技を出させず力業で抑え込むしかない。全力チェストだな。蹲踞の姿勢から立ち上がると、猿叫の雄叫びを響かせ威嚇する。
「ホキョア―――ッ!」
実力者だけあって冷静沈着な佇まいだ。
「始めっ!」
開始の号令に合わせて突進する。低い体勢からぶちかまし、下からかち上げる。体格で勝っている為か、相手の体が耐えきれずに後ろへ飛ぶ。その隙をつき、狙いすました面を打ち込んだ。
「メエエェェェェェ――――ンッ!」
「一本っ!」
一礼して戻ると、お褒めの言葉がいただけた。
「ようやった。」
「やったったよ!」
ワカが何か言いたげにこちらを見ている。
「ホキョアーってのは、ちょっとすべっちょった気もするな。狙いすぎじゃ。」
「そうかもしれんが、相手も意表を突かれて驚いたやろ。何考えとるか分からん奴は恐ろしいからね。計画通りやぞ。」
「まあ、そげん事にしとこうか。」
「確かに少し調子に乗っとったかもしれん。反省するわ。」
「おう。」
休憩中に次の作戦を練る。またもやゴンが助言をくれる。
「次ん相手は右に回り込ん癖がある。その隙を付け。」
「右? それは僕からみて右の方向って事?」
「相手からは左ん方向じゃ。移動すっ為に左足に重心が掛かっはずだ。そこをお前の柔でなんとかせえ。」
「分かった。」
剣を構えて向き合い心を冷静に保つ。さっきとやる事は大して変わらん。出来る事をやるだけだ。
「始めっ!」
「オオォォォ!」
気合とともに飛び込み鍔を合わせる。押し比べをしていると、ワカの言った通り右に回り込もうとする動作を感じ取れる。待ってましたとばかりに、彼の左足目掛けて大内刈りだ。
予想外の仕掛けだったらしく、重心の乱れに耐え切れず体が流れる。
「テエエェェェェッ!」
面が遠かったので小手を狙う。小気味良い音が響いた。
「おっしゃ! 上出来やな!」
「でかした!」
拳を突き合わせて勝利を祝う。
「ええ調子やな。次の作戦は? 体力的には未だ余裕やぞ。」
「最後はこれ迄と少し違うぞ。」
三人目を見ると一目で分かった。でけぇ。
両手が自由に使えるならともかく、竹刀を手にしながらでは投げを打つ事ができないだろう。接近戦になっても勝ち目は無いな。こっちの武器が使えんやん。
「うわぁ。どうしたらええんやろか。」
「最初はとことん逃げん一手じゃ。」
「ゴン先輩よ、そうは言っても逃げ切れる自信無いわ。」
「それしか生き残っ道は無かぞ。隙が出来たや相打ち狙いでチェストせえ。」
「……分かった。死んでくるわ。」
「骨は拾うてやる。」
負けて元々や。いざ勝負……と、ワカから呼び止められた。
「あー、ちょっと待て。」
「なに?」
「奴ん得意技はガバ面や。狙うならガバッと振りかぶった時ん胴狙いじゃ。」
「助かる。」
さあ、これで最後だ。厳しい戦いになりそうだが全力を尽くすのみ。
「始めっ!」
体格のせいもあるのか感じる圧力が半端ない。回り込み距離を保とうとするが、いつの間にやらコーナーに追い詰められている。プレッシャーの掛け方が上手い。こりゃあかんわ。どうしたもんやろか、大ピンチだ。
場外へ出て仕切り直しを狙ったが、審判の先生から注意を受けた。二度目は反則負けにするぞと言われ後が無い。
改めて試合再開だ。開始線から再び相対したが、先ほどと同じく、再び角に追い詰められてしまった。明らかに格上の相手からどうやって逃げよう。もはや場外という手段は取れない。
横と後ろに道は無く、正面にはヤツがおる。くそっ こうなったら下じゃい!
腕を上げ面を防御、そして体勢を低くして頭から突っ込む。敵の脇をすり抜けようとしたら、低すぎた体勢が災いし足を躓いた。
ズサーッ
うへっ カッコ悪りぃ。
慌てて四つん這いで距離をとり、攻撃が来る前に立ち上がり体勢を立て直した。こちらの混乱状態とは対照的に、相手はどっしり落ち着いた構えを崩さない。無様なやり方ではあったが、窮地を逃れる事が出来た。
こっから逆転なんて出来るんか、圧倒されっぱなしだぜ。




