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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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64 傾向と対策

 この前の剣道は何があかんかったのか。敗因を分析してみよう。


 決定的なのは経験値だ。武士階級の奴等は全員が剣道経験者で、まともに勝負をしたのでは勝てるはずもない。全ては自分の実力不足だ。


 そこは認めるが負けっぱなしも悔しいので、何とか一矢報いたい。


 相撲勝負の時と比較してみたが、相撲で勝利できた最大の理由は、相手の土俵で勝負しなかった、自分の得意分野で戦えたからだと思う。純粋な相撲ではなく柔道スタイルに持ち込めたからだ。事実、単純な力ならワカとゴンのほうが上だった。


 今回の剣道で最大の失敗は、相手にペースを握られたからだと分析した。剣道においても自分の得意分野に引きずり込んでやろう。この形になれば勝てるという、必殺の形を見つける必要がある。



 彼を知り己を知れば百戦殆ふからず。


 孫子 謀攻篇



 これは軍事のバイブルとでも言うべき古典に記された内容で、如何いかに情報が大事かを述べたものだ。敵と自分の力を見極めれば、なんぼでも勝てまっせと述べているが、逆に戦力を分析せずに戦えば、むちゃんこ危ないよと警告している。


 それは今回で身に染みた。相撲では情報を分析し、まさに自分の土俵で戦えたのが大きい。純粋な力比べでは負けていたが、相手のペースに付きあわなかったのが勝因だろう。


 さあ、気持ちを切り替えて仕切り直しだ。先ずは自分の持っている戦力を整理してみる。使い物になると思うものは次の2点だ。


1. 柔道

2. 空手


 これらは剣術ではないが組手甲冑術として応用できるだろう。流石に素手で勝てるとは思えんので、通常は剣を防御のみに使う。超接近戦に持ち込み体を崩してから止めを刺すという作戦だ。


 最初は防御と相手の体崩しに集中し、隙を見つけたら必殺の一撃を叩き込む。


 今の僕に勝機があるならこんな形だろうか。体力は付いて行けるが技術で劣る。出来る事が少ないなら、あえて選択肢を削ってやろう。全てを中途半端にこなすのではなく、一点突破に賭けてみたい。


 元々こちらに無くすものなど無い。持たざる者の意地を見せたるぜ。


「どう? 道場に来る気になった?」

「未だ決めてないわ。今は君ら経験者から一本取れるのを目標にしとるんやけど、剣が自分に合ってるか分からんし、どうしようか迷っとる。」

「でも、やってみんと合ってるかどうかも分からんぞ。」

「そこなんだよね。でもさ、一度やって無理やと分かっても、途中でやめにくい事ない? 逃げるような気がしてさ。意地になっちゃいそうな気がするわ。」

「それはあるかもしれんな。」


 才能の有無なんて、やってみんと分からんのは真実だろう。始めは下手だったが突然覚醒し、他を追い抜く事は珍しくない。大事な事は下手でも良いから続けられるかどうかだ。


 面白いからやってるだけと言える気持ちになれれば一番だが、今の自分は何らかの手応えが欲しい。


「誰でもよかで一本取れれば道場に来っとじゃったら、協力してやっど。」

「ホントか! そんならよろしく頼むわ。」


 こんな流れでワカから剣道を教わる事になり、ゴンも付きあってくれるという。有難く厚意に甘えることにしよう。


 自分の考えている戦法を打ち明けると、


「悪くは無いが懐へ入るのも大変だぞ。おいたちの流派の特徴を教えてやろうか。」


 彼らが習っている流派の名前は自顕じげん一刀流と言われるものだ。どんなスタイルかを教えてもらった。


自顕じげん一刀流は戦場の剣じゃ。」


 そこには一撃必殺の考えが根底にあるという。戦場で剣を振るうのは白兵戦で、わずかな油断が命取りとなる乱戦だ。一対一だけでなく、複数同士の戦いも想定されて出来上がったものらしい。


 戦場では目の前の敵のみでなく、多数を相手にしなければならない死地である。キンキンキンと格好良く切り結んでいる横から槍が飛んでくる危険がある。また、剣が破損したら目も当てられない。それ故に一振りで切り捨てる事を理想とする。


 あくまで理想は理想であり現実はそんなに上手くいかない。しかし渾身の一撃を敵が受けてくれるか、体勢を崩せばそれで良しとする。その間に味方兵が敵の隙を付くことができるからだ。


 剣を防御された際に味方の援護があれば計画通りなのだが、逆に他の敵から攻撃される危険性もあり、味方と連携が取れていないと無駄死になるかもしれない。


 その為に最も危険とされる一番太刀を入れて生き残るには、初太刀に全てを賭けるべきだと考えられた。


 また防御面では、剣を受けるにしても真面まともに受けてはならない。剣の軌道を逸らし体捌きで避ける事が主とされる。全てを捨てた渾身の一撃を受けきるのは至難の業だ。特に同じ流派が敵となった場合には、初太刀は必ず避けよと徹底される。


 この様な考えが基礎となり、初太刀の打ち込みと体捌きによる防御が特徴として挙げられるとの事だ。


「必殺ん一撃を入れらるっかは間合いが大事じゃ。自顕じげん一刀流の初太刀が出っ前に距離を詰めんないかん。」

「僕達が相手すっで、懐へ潜り込ん練習から始めようか。」


 やっぱり情報が大事やね。傾向と対策がこれで整った。後はやるだけである。

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