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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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58 便所当番と美的感覚の違い

 真魚さんに教えてもらった事で、魔術契約の大まかな部分は理解できた。


 実際に契約の儀を行うのは夏休み明けになるそうで、先生から、それまでに何か考えとくようにって事と、希望があれば魔術契約の講義をすると言われたが、今のところは大丈夫だ。疑問があればその都度確認するとしよう。


 今はその対価として便所当番をせねばならぬ。納得してやってる事だが、これを1年間やらんとあかんのは気が滅入るなあ。時々だが、なんでこんな場所に飛ばすねんってトコにはみ出しとる。しつけがなっとらんぞ。


「周りが良いトコの子ばっかでタイヘンだよね~。」

「ん? そっちは終わった?」

「うん。」

「じゃあ帰ろっか。」


 女子の担当となったのはユキという子だ。僕の受けた印象通り平民階級出身で、勉強の出来が良かった事により特別学級に入れたという。


 寺子屋に通っていて、そこの先生の推薦があったとの事だが、そもそも寺子屋という学習塾へ通える時点で、既に庶民では上位な気もするが、周りの連中と比較すればランクが落ちるのかもしれん。


 掃除が終わると、ユキちゃんを家まで送っていくのが最近の日課となっている。ここら周辺の治安は悪くないが、女の子を一人は危ないので送っていけと先生からも言われている。


 僕が清掃委員となったのは自分から立候補したからだが、彼女は周りから押し付けられたらしい。


「私ん家は雪隠大工だから適任でしょって言われて……。」


 雪隠大工とは腕が良くない大工の事だ。雪隠とは便所という意味で、便所くらいしか作れない大工を雪隠大工と呼んだりする。ユキちゃん家は便所設置工事を主な仕事としているらしく、収入面は別として、他の大工からは格下と見下される事が多いらしい。


 確かに宮大工と聞けばスゲーと思うが、雪隠大工と言われるとフーンと感じるのは否めないところではある。


「でもさ、便所ってむちゃくちゃ大事やぞ。病気の原因となる場合があるし。」

「ありがとー。」

「ユキちゃんトコって大工の腕はええの?」

「長く修行してたみたいだし、しっかりしてると思うよ。」

「そーか、ねえ、臭くない便所って作れる?」

「えー、むちゃ言わないでよ。便所って臭いもんでしょ?」

「最新のヤツでも?」

「学校のヤツが最新だよー。」


 よし。それならば前世の知識が通用する。僕が導入しようとしている技術は未だ開発されてないらしい。しかもトイレ専門家の娘と知り合いになれたのは大きい。新技術を開発しても、それを量産し流通させる事までは無理だ。少なくとも今の僕には荷が重すぎる。子供なので信用も無いだろう。それを考えると、この人間関係は近い将来に必ず役に立つはずだ。


「ユキちゃんも大変やね。こんな役割を押し付けられて。」

「家は周りの大工さん達から下に見られてるトコがあったから、私が頑張って特別学級に選ばれたのは良かったんだけど、周りが凄すぎてちょっと浮いてるかな。」


 少し悲し気な感じが伝わってくる。


「何かあったら相談して。力になれるかどうか分からんけど。」

「うん。分かったー。」


 良く見てみると、なかなか可愛らしい顔をしているが、他の女子どもからは美人じゃないと言われていた気がする。この世界の美人基準ってどうなっとるんだ?


「ユキちゃんさあ、ちょっと聞きにくい事を聞いて良い?」

「え、なあに?」

「同じ教室の奴等から、美人じゃないって言われとったみたいやけど、僕はそんなことは無いっておもっとるから。負けちゃあかんよ。」

「ありがとー。でも聞かれてたと思うとちょっと恥ずかしいなぁ。」

「それやけど質問があるんよ。」


 問題は僕の感覚がおかしいのか、美人じゃないとぬかしたヤツがオカシイのか。それとも嫉妬で出た言葉なのか、どれが正解なんだろう。


 家族に質問するのも躊躇ためらわれる。そんな事を聞いてしまったら、


「あらあら、もう思春期に入ったの? おませさんねえ。」


 などと思われる可能性があって気まずい。本人に聞くのもどうかと思うが、それ以上に興味が勝った。


「実際さあ、あの子等は嫉妬で言ってんの? それか本気で不細工や思ってんの? 僕はそうは思わんけど。正直なトコロどうなん?」

「えっと……。凄いコト聞いてくるねえ。」


 ド真ん中の豪速球やったなと、直ぐに後悔する事になったが、一度吐いた言葉はやり直しがきかん。


 あ~! しまったしまった島倉千代子や。しかし、このネタが分かるヤツはこの世界に存在しない。それを思うと、なんだか寂しく感じられた。


「ゴメン。忘れてええよ。」

「なんというか、顔の造りはともかく体型かなあ。私は痩せてるから。」

「え? それっていかん事なの?」


 ふくよかなほど美人と見られると言う。特に上流階級にその傾向があるそうで、僕が特別学級の皆から受けた印象がこれを物語っている。デブが裕福の証とされるのだろう。


 これは社会や時代により大きな違いがあろうかと思う。飢饉などで餓死と隣り合わせの世界だったら、肥満体型は富を体現していると言える。


 体型以外では美人基準に違和感を感じる事は無いが、社会階級によっても基準が異なるのかもしれない。これは後日談だが、ワカとゴンに聞いてみた。


「君らさあ、女の子って太っとるほうがええと思うの?」

おいは健康的なのが一番じゃな。ただ、おしとやかなのが良かね。」

「ウチん一族の女は強か、いや、強すぎるでね。」

「いやいや、体型は?」

「ほどほどが一番じゃな。」

「都ん公家連中は太めが好みらしいじゃっどん、そげん働かんでんよか奴等の言う事じゃ。デブが悪かとは言わんが、痩せちょっほうが小回りが利くし、僕もワカと同じかなあ。」


 人の好みなんて千差万別だ。


 容姿が大事というのは嘘ではない。容姿ってのは名刺や履歴書と同じ。履歴書等の書類選考を突破できれば、面接により中身をアピールできるが、第一段階で相手の興味を惹かないと、次の段階へ進む事が出来ない。


 内面の性格や本質が外に漏れ出る場合もあるが、太っている事が、本人の不摂生が原因とは限らない。病気などの理由も考えられる為、見た目で全てを判断するのは危険だ。リンカーン大統領並みの洞察力が自分に備わっとるとは思えんからね。


 目で見える情報を正しく正確に読み取るのは難しい。人間は複雑な情報の塊だ。履歴書や資格というステータスが大事なのは言う迄もないが、それだけに頼りすぎると重要なものを見逃す危険性がある。


 ただ、この世界のセレブ連中の間では、肥満女性がもてるらしい。男はどちらでもないとの事だっだ。


「ふーん。それは僕にとって良い事かもしれんなあ。」

「え、どういう事?」

「競争率が下がるって事でしょ。」


 机上の空論でしかないが、恋のライバルが減るのなら有難い。肥満女性に男どもが群がれば、他は競争率が下がる事になる。


 ただ、この傾向は上流階級のみに当てはまるかもしれない。そうであるなら平民の僕としては関係の無い話だろう。どうなんだろうねえ。

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