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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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56 神の誕生

 前世の僕は自分を無宗教だと自覚していたが、宗教そのものを否定する気持ちは無かった。神を必要とする人々がいる事は理解している。


 僕自身、新年には神社へお詣りをして、賽銭箱へ小銭を投げ込む。家族の法事があれば、僧侶のお経を有難く思う。


 社会生活を潤滑にする為に、それらを大事なものだと考えていたが、魂の問題として必要を感じなかっただけだ。


 現実社会に悪影響を与えるものは別だが、他人の心の在り方に物申す事が出来るほど立派でもない。何より面倒くさい事この上なし。君子危うきに近寄らず。


 だが、この世界は別だ。


 神とされる超越者達が具体的な影響を与えているらしい。となれば、神とは何かという問題を無視する事は出来ないだろう。そして、この思考を深めてゆく場合に気を付ける事は、周囲からどう思われるかである。


 宗教や政治の問題を話題にする時は、細心の注意を払うべきだ。この二つは意見の違いから議論に発展しやすい。


 なぜなら、自分たちが生きる世界観や社会制度というものと、密接に関わっているからである。


 宗教観が話題となる事はめったにないが、政治については、仕事上で話題となる事は多いだろう。国の定める政策により、経済環境が大きく変化するからだ。計画しているプロジェクトを、このまま進めても良いのか、撤退を含め再考しなくてはならないのか、判断するのに必要不可欠な情報である。


 政策論議だけなら良いが、特定の政党や政治家の判断を求められた時は、主観的な好き嫌いを除き、客観的立場から意見すべきだろう。相手の性格や自分との人間関係も考慮に入れなくてはならない。


 宗教や政治問題で、過去にどれだけの人が命を落としたかを思えば、当然の配慮かと思われる。


 ましてや、社会通念が良く分っていない異世界の話だ。しかも神様の奇跡が身近にあるときたもんだ。どこまでが許される発言か分かったもんじゃない。


 自重を込めて真魚さんに確認する。この辺にしといたほうが、ええんやないの?


「うーん。未だ推測に過ぎないので、真実の話として流布するのはどうかと思いますが、二人で話しているだけなら問題ないでしょう。」

「そういうものですか。」

「それを言うのなら、初対面の僧侶に、前世の記憶があると打ち明けるのも考え物ではないでしょうか。悪魔の子と思われたらどうするつもりだったのですか?」

「そんな危険があったのですか?」


 僕の話を聞いた時、始めは半信半疑だったみたいだが、本物であるという気持ちが徐々に強くなってきたらしい。直感でしかないが、この子なら話しても良いだろうと判断したとの事だ。


 僕が自分の事を打ち明けた理由についても、理由を探せば見つけれれるが、結局のところは直感に従っただけだ。結果的に良い方向へ転がったが、とんでもない事になっていた可能性もあったと知ると、今更ながら怖くなってきた。


「これからはお互いに気を付けるとして、話を戻しましょうか。」

「神産みの話ですね。」


 人が魔力という力を手に入れたのは、古代までさかのぼる事が出来るという。契約による力の行使である魔術より先に、魔法という技術がひろまった。


「あなたの言葉を借りれば、異端と言われるかもしれませんが、人々の希望が魔力という力に影響を与えた結果、神格が付与されたものが神ではないかと、仮説を立てたのです。」

「それを証明するには、新たな神を産みだす必要がありますね。」

「ええ。興味はありますが、さすがに私もやるつもりはありませんねえ。」


 証明する方法は有る。新興宗教を立ち上げるのだ。


 架空の神をでっち上げて布教し信者を獲得する。信心が一定以上集まった結果、奇跡が発現する、または、その神と魔術契約を結ぶ事が出来るようになれば、その神が存在する証とする事が出来る。


 壮大な実験だが、罰当たり此処に極まるって感じだ。自分が創作した紛い物の神を信じ、心から信仰してくれる信者を得る必要があるが、それに良心が耐えられる自信は無い。


「ところで、あなたの前世では、どのような神仏がいたのですか?」

「僕の記憶の限りでは様々な宗教がありましたが、その存在を具体的に証明できたものはいなかったと思います。そもそも、魔力なるものが存在しません。今の僕達が生きるこの世界とは、別物になると思います。」


 魔力は存在したかもしれないが、それを扱う技術は無く、観測もされていない。ただ、人間が奇跡といわれる現象を起こす事がまれにある。そして奇跡を起こし、協会から認められた者は聖人と呼ばれる。宗派により違いはあるらしいが、自分とは縁遠いものであり、その真偽を追及してやろうなどと思った事は無かった。


「信仰で得られるのは金銭や具体的な力では無く…、いえ、政治に口を出したり、金儲けに手を染める場合もありますが、本来の目的は心の平穏だったと思います。僕自身は信仰をしていなかったので、間違いがあるかもしれませんが。」

「それらの宗教で、神や人はどのように誕生したのでしょうか。」


 創世神話というのは宗教の根幹部分と言って良いだろう。その宗教がもつ世界観を色濃く反映している。その始まり部分で神の誕生の記載がある宗教も存在する。一神教と多神教を比較してみるのも面白い。


 一神教の神は最初アルファにして最後オメガ、唯一無二の絶対神。永遠なる全能者として語られる。神が誕生する描写があるならば、その誕生前の世界には、神が不在だった事を意味する。神の誕生を描写してしまうと、常に存在し続ける者、絶対神として矛盾が発生する為、神の誕生シーンなど存在しない。


 それと一線を画すのが多神教の神話である。多神教の場合は、活躍の舞台である世界そのものは、始めから存在しているケースがある。


 日本の神道を例にすると、世界そのものは既に存在していたが、原始世界の混沌から、日本列島と新たな神々を誕生させるシーンで幕を開ける。


 これで舞台と登場人物が揃い、物語が動き始める。話を動かすには事件を起こすのが手っ取り早いので、次の展開では極めて重大な出来事が起こる事が多い。


 つまり揉め事が起きるのだが、多神教では神々が争った結果、人間がとばっちりを被るという印象がある。神さまといえど権力が欲しいらしい。


 ギリシャ神話で言えば、クロノスが子のゼウスに主神の座を奪われる。エジプト神話なんて、体を切り刻まれた挙句に去勢されてしまう。ひでえ。


 日本ではイザナギとイザナミが国を産み、アマテラスが統治するようになるが、イザナギから直接に権利を譲渡された為、とても平和裏に世代交代が行われた。


「お姉ちゃん、これからはアンタが国を治めていくんやで。」


 やんちゃ坊主のスサノオが問題を起こしたりもしたが、時間が経つとヤツも落ち着いて立派にやっているようだ。やれやれ、平和が一番ですわ。


 日本神話でホラーなのは、イザナギとイザナミの壮絶な夫婦喧嘩だろうか。同じ男の立場からすると、イザナギに同情する余地がある。


 愛する奥さんが黄泉の国へ旅立ってしまった。妻を忘れられない夫は死後の国へ旅立つ。ロマンチックやね。純愛だ。


 何かの統計で、妻に先立たれた夫は寿命が短くなるが、逆はそうでもないと聞いた事がある。女は強し。思えば、男女で未練を残すのは男が多い気がする。


 他の神話にも、恋人を求めて死後の世界を彷徨さまよう話はあるが、男が探すパターンばかりだ。神曲のダンテ、ギリシャ神話のオルフェウス。そしてイザナギだ。


 イザナギは、黄泉でイザナミと出会う事が出来たが、決して姿を見てはならんと言われてしまう。


 奥さんが失踪、やっとの思いで見つけ出したら、ワタシにもプライベートがあるから尊重してよね、だと? 浮気でもしとるんじゃないのかね。


 恐る恐るのぞいてみると、なんとゾンビと化しておる。


 ギャース!


 すたこらサッサと逃げ出すと、


「み~た~な~。」


 必死の思いで逃げ切り二柱は離婚するが、恨み骨髄に達したイザナミの呪いにより、とばっちりを受けた人間が黄泉の国へと旅立つ定めとなる。なんてこったい。


 日本では、神話の時代より女が強かったようだ。


 だが、女性からすれば違った見方もあるだろう。ロマンだけではメシが食えん。子供が大変で、化粧もせず頑張っとるのに、女を外見で判断した挙句、逃げ出すとは何事やねん。


 神様なだけあって、お互いに自立できる力を持っとるから、簡単に切り捨てる事が出来るんやろうねえ。寂しいなあと思う反面、仮面夫婦ってのもどうかと思う。


 神話の時代より男女の仲は難しい。神さまですら離婚するのである。


 そんなこんなで多神教の神はとても人間臭い。何人もいるんだから、個性を付け差別化する必要があったのだろうと思う。

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