54 魔術契約を学ぼう
衛生管理を考えると、便所は非常に大事な施設だ。便所が清潔であるとないのとでは、快適さが段違いでもある。
前世の日本は下水等の水回りが整備されていて、非常に快適であった。その事を思い知らされたのは、東南アジアで、山岳民族の村に宿泊した時だ。
学生時代の貧乏旅行で、ある国を訪れた際、現地のトレッキングツアーに参加した事があり、山村で宿泊させてもらった事があった。
そこで感じた一番の不便さは、トイレが所謂ボットン便所であった事である。
ボットンとは言え、跳ね返りに気を付けるようなものでは無く、用を足した後は水で洗い流す水洗便所であった。
しかし、重要な問題がそこにあった。
それは臭いである。
強烈な悪臭があった。その時に感じたのは、これまで僕は、近代文明の御利益に浸ってたんやなと思った。そしてこれを機に、トイレについて勉強したのだった。
そこで得た知識を使って、この世界で便所革命を起こしたいと思う。
これを企画にして、学校へ売り込めば、資金を出してくれるのではあるまいか。企画が出せるのは特別クラスの役員のみだ。となれば今年度、または最終年度に、再び特別学級に選ばれて役員をやるかだ。今年度中に企画を出すのなら、一年間という時間はそれ程長く無いだろう。
そう考えると急に忙しくなってきた。やるべき事はとても多い。
さて、学級の役員は全て決まったようである。
副級長は、相撲の勝敗にいちゃもんを付けてきたヤツのようだ。ワカ達も苦労をするかもしれんな。庶民以外の者に対しては、どうという事も無いかもしれんが。
「これで全部決まったな。では最後に発表がある。」
先生が最後を締める。
「特別学級で毎年の事なんだが、将来有望な者に対して報奨がある。」
「今年は体力テストで優秀な成績を修め、皆が嫌がる役を率先して引き受けたものに贈ろうと決めた。清掃委員の薬師院ハルとする。」
悪いようにはせんって言っていたのはコレの事かな。中身は何やろね。
「贈り物は、魔術契約をひとつ援助する事だ。」
おおぅ、こりゃとんでもない。あ……、 嫉妬とかされへんやろね。それは勘弁してほしいと思ったが、後で聞いたところによると、金持ち連中は、自分たちで金を積めば儀式を執り行う事が出来る為に、妬みの対象とはならないらしい。
同じ組での差を出来るだけ無くす為に、この報奨は庶民の子を優先して選ぶらしい。相撲の埋め合わせとなれば、僕以外にワカとゴンもいたが、僕が選ばれたのはそのような理屈によるものだった。
但し、軽々しく契約を結ぶ事は非常に危険な為、契約内容が学校の了承を得る事に加え、保護者の許可を得るのが前提となる。
非常に有難い話で、頑張っといて本当に良かったと思う。
どんな内容とするか慎重に考えたい。家の大人たちは、皆が経験者なので参考になると思う。また、門の講習でお世話になった、真魚さんに話を聞くのも良いだろう。
帰宅して病院の手伝いが終わると、真魚さんのお寺に向かって歩き出した。前世であれば、電話やメールで確認が出来るのだが、ここでは実際に自分で出向くしか方法は無い。
運が悪いと実際に面会できるまでに、何度も訪問する羽目になるかもしれない。こんな時には、前世の情報社会が懐かしく思えてしまう。
寺に到着して面会を申し込むと、幸いな事に真魚さんが姿を現した。
「お久しぶりです。」
「元気にしてましたか?」
「はい。学校が始まりバタバタしてましたが、落ち着いてきました。」
挨拶を済ませ本題に入る。
「実は学校の支援で、魔術契約が出来る事になりました。」
「毎年一人だけ選ばれるのですが、今年は君でしたか。それはおめでとう。」
「ありがとう御座います。とても嬉しいのですが、同時に怖くもあります。」
契約を破るとどんなペナルティーがあるのだろうか。破るつもりは毛頭ないが、つもりは無くても守り切れるとは限らない。そこまで自分に自信は無い。
「それで契約をする前に、真魚さんに教えてもらいたいと思いまして。お時間などいただくことは可能でしょうか?」
真魚さんには、前世の記憶があると打ち明けているせいか、なんとなく、丁寧な大人口調になってしまう。悪い事ではないと思いますがね。
「大丈夫ですよ。今すぐは難しいですが、近い日に時間が作れると思います。」
「忙しいところ、すいません。」
「いえいえ。実はこちらも良い気晴らしなのです。常に修行で気を張っていては、疲れてしまいますからね。あっと、これはナイショです。」
「ふふふ。」
この人、僕を凄い好意的にあつかってくれるなと思う。話をしたのは一回だけ、しかも少しの時間なのに、有難い事である。しかし、僕の真魚さんに接する姿勢も同じ事が言えるので、魚心あれば水心というヤツかもしれん。
数日後の予約を取り、相談したい内容を伝える。
・神仏との魔術契約について、一般的な説明。
・人間同士の契約について。
主なものはこの二つだ。
神仏との魔術契約は、今回の学校支援に対する予習だ。じっくり考えないと必ず後悔する。現時点での最適解を出してやるぜ。
後になって別の選択肢を思いつくかもしれないが、最善を尽くせば諦めも付く。
もうひとつは将来の為。必ずこの知識が必要となるはずだ。
聞いたところによれば、僕の両親は商人であり、魔石を使った契約に通じていたとの事だ。商人が契約する相手は人間相手だろう。それとも、神を相手に商売をするなんて可能なのだろうか?




