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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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52 異世界相撲 物言い

 おっしゃ!


 やったったぜ。これまでの努力が報われた瞬間が来た。自分の努力が間違いでは無いと証明できたようで、とても感慨深い。


 勝つには勝ったが紙一重だったのは間違いなく、もう一番取れと言われて勝てる自信はない。ワカに手を差し出して、立ち上がるのを手伝う。


「よか勝負やったな。」

「そうやね。」


 爽やかなヤツやないか。


「ハルの勝ちで決まりだな。」


 石神先生が勝敗を告げるが、この勝負を見学していた者から物言いがついた。


「その判定ちょっと待って下さい。」

「何かあるのか?」

「はい。最後の投げが決まる前に、投げた方の子が、後ろ向きになったのですが、そんときに、膝が地面をこすってましたー。」


 なにぃ~。自分としては、そんな感触は無かった。改めてズボンを見てみると、多少の砂が付いていたが、これくらいのものなら、踏ん張ったり踏み込みの時に、飛ばされた勢いで付くんじゃないの? 


 難癖を付けてきたヤツはワカに顔を向け、意味ありげにニヤリと笑みを浮かべている。あー、そういう事か。分かった。


 おそらく、セレブであるワカに恩を売っているつもりなのだ。僕みたいな庶民の子は敵に回してもかまわんと考えているんだろう。やってくれるぜ。


「そんな感じには見えなかったがね。綺麗な投げが決まったように思うが。」

「失礼ですが、先生は投げの反対にいました。投げられた者の背が、影になり良く見えなかったはずです。僕はその逆にいたので、良く見えていました。」


 これについてはその通りだ。行司である先生の失態だろう。


「なあ、他に見てたヤツはいるだろ? どうなんだ?」


 周りの者達をあおりだした。他に恩を売りたい奴等がいたら、それらを味方にするつもりだろう。子供の頃からこういう考えが出来るヤツは、どんな大人になるのかねえ。あおられた者達も迷惑だろう。自分がどっちに付くのか、意思表示しろと言われているのと同じ事だ。


「ちょっと待った!」


 これに声を出したのはゴン。卑怯もんを嫌うゴン少年。言ったれ言ったれ~。


 ちょいちょいと指を動かし、僕とワカを手招きで呼び寄せる。ん? 何じゃな? 皆に背を向け、声を聞かれないようにしてから話し合いが始まった。


「アイツが何をしたいか分かる?」

「ワカに恩を売りたいんやろ?」

おいに卑怯もんなれと? 卑怯もんが!」


 目論見もくろみは逆効果であったらしい。彼等のチェストを体感して思ったが、並大抵の気合じゃない。こんなのを使いこなす為には、曲がった精神では無理のように感じられる。


 僕ですかな? うーん、無理だろうねえ。そこまで一途に、物事を思い込む事は難しいように感じる。魔力を感じる事についても非常に苦労したのに、更にその上が必要とされるのがチェストだろう。


 教育や環境も大きく影響するのではないだろうか。仮に挑戦するとなれば、再び常識の壁を破る必要がある。


「僕の経験上、こん種類ん人間は敵に回っと面倒くせぇぞ。」

「そうは言っても結果は結果じゃ。」

「だけど、先生が見えとらんかったからなあ。こうなったら、観客の子も言い出し難いぞ。どっちかの敵になると言うようなもんやから。」

「はっきり敵じゃとなれば叩き潰すだけなんじゃが、こん手んヤツは陰湿だぞ。」

「相手にせんかったらええんやないの?」

「自分だけなら良かが、家族にも影響が出る事もありえる。」

「そげんおいん家やったら、腹を切らされるかもしれん。」


 こりゃ、過去に何かあったのかもしれんな。


「キミ、悟っとるな。」

「しばらく首都でまれたんでね。格付け合戦がえぐかったわ。北関市に来られて正解じゃった。」

「苦労しとるんやね。」


 考えすぎかもしれないが、物言いをつけてきたヤツは、1年1組だったはずだ。どれ程の権力者の子弟か分からない為、慎重にいこうと話が進む。


「でもさ、君らも良いトコの子やろ? 蹴散らせんの?」

「ウチん教育方針からすっと、僕が自分自身でぶっ潰すまで、家ん敷居を跨ぐなち言われかねんで、逆に厄介なんじゃ。」

「ウチも同じじゃ。自分んケツは自分で拭かんな、何言わるっか分からん。」


 スパルタ教育やな。さて、どうするか。


 そもそも今回の相撲は、体力テストの延長だったが、自分達だけでやっていた事だ。結果を発表したりするようなもんじゃない。僕たちだけが納得できれば良いのである。


「もうさ、面倒くさいから、無かった事にしとかへん?」

「無かった事?」

「そ、勝者不明で全部お流れ。」

「僕は2敗しちょっで有難か話じゃっどん、二人は良かど?」

「実際に勝者のおはんが良かとなら文句なかね。」

「いや、この場合にはワカの被害が一番でかい。」


 単純に考えると、この勝負が無効になって最も得をするのは、全敗のゴン。次は一敗のワカ、全勝の僕は損をするだけに思えるが、皆の受ける印象を考慮すると、どうなるだろうか。


 全勝しながら認められなかった僕に同情が集まり、ワカが非難される事態になりかねんのではあるまいか。所謂いわゆる、判官びいきってやつだ。


「文句を言ってきたのはおいじゃあなかよ。それこそ考えすぎじゃ。」

「そんならええけどね。」


 これで相撲勝負は無かった事となった。うーん。これが面倒くさい奴らと聞く、1年1組か。先が思いやられるなあ。


「どげんした? ほんのこてこいで良かったんか?」


 考え込んでいると、ワカが声を掛けてくる。


「いやねぇ。君ら、始めは頭ん中まで筋肉で出来とるかと思ったけど、いろいろと考えとるんやなあ。見直したわ。」

おいたちはおいたちで大変なのよ。」

「お疲れ様やな。」

「まったくだ。」


 これで話がまとまり、早々に解散して帰路に就いた。


 ご機嫌取り君がどうしたのかは知らん。同じ組というのなら、今後に接点があるかもしれないが、どうなることやら。正直、気が重い。


 また、行司として失態を演じた石神先生だが、自らの非を認め僕らに詫びの言葉を伝える。みなまで言わんでええ。終わった事やからね。これ以上は疲れるわ。


 何やら、この埋め合わせはするという。期待せずに待ってるとしよう。

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