48 異世界相撲 ルール確認
「何で勝負すっにせよ、メシ食ってからじゃけ。」
「そうやな、若様も給食?」
「おう、何も特別なこたぁないのぅ。」
「そんでええんか?」
「どげん意味じゃ?」
若様がどのレベルの若様か知らんが、重要人物なら、暗殺の危険性は無いのか?学校給食で毒殺される恐れは無いのだろうか。
「あー、それなら大丈夫。こん若様は格下ん若様じゃけ。」
「うちん親父は殿様じゃなかでな。」
「殿様じゃ無くても偉い人なんやろ?」
「それなりじゃ。」
話を聞いていたらしく、石神先生が割り込んできた。
「そこら辺は学校を信頼して貰いたい所だな。」
「はぁ。」
「大事な子弟を預かってるんだから、えい加減な事は出来ん。」
「はい。」
「それにだ、どうして1年1組という特別教室があるか分かるか?」
うーむ、英才教育といっても一年間だけだ。それに特別な教育となれば、学校外で個別の専属教師を雇ったほうが融通が利くはずだ。
「僕のような庶民がいるって事に意味があるのですか?」
二人が僕を見る。
「君ら格下や言うけど、ウチからしたら殿上人やぞ。」
「そげんこたぁなか。一度ウチへ来て見っか?」
「ええの?」
「いつでんドウゾ。」
「ウチもよかじゃ。」
おっと、先生を忘れとった。
「仲良くなって良い事だな。まあ、そういった交流の面もあるが、一番大事なのは他にある。」
「それは何ですか?」
「有力者たちの子弟が、これだけ揃ってると見せつける事だら。」
重要人物の所在を明らかにするのは不用心に思えるが、完璧な警護が無理であれば、逆に、あえて見せつける事で抑止の効果を狙う意図があるという。
生徒に手を出せば、この学校に子弟を通わせている有力者の、全てが敵になるぞという脅しである。
「もっとも、本当の重要人物は登下校に家の警護が付き添うでな。今年はいないみたいだけど。」
「じゃろ? 俺が若様なんて冗談みたいなもんよ。」
「そんな事もないぞ。君たちの一族に手を出したら、便所に隠れても見つけられ、息の根止められるて思われとる。余程の命知らずじゃないと手が出ん。そこら辺の自信があるのか、身分が高くても警護が薄い印象があるな。」
どこの大統領かな? 警護の薄さは別にして、前半はどこかで聞いた言葉だ。
ハイリスク・ローリターンと判断させるという事らしい。それもひとつの抑止だろう。だが、それは理性が働いている事が前提となる。自爆テロなどはその例外にあたるだろう。格闘で争いとなった際の考察でも挙げたように、相手の精神状況、心の在り方が理解できない事ほど恐ろしいものは無い。
本当に追い詰められたら、リスクなど度外視した行動をとるだろう。そこまでいったら地獄かもしれんが、そこまで考える必要も無いか。今はメシだ。
給食について文句は無いが、一部の者は味や量に不満を持っているようである。普段贅沢をしとるからだろう。格差を感じるぜ。
体力テストの決着を付ける相撲は、午後の授業が終わってからとなった。基本的に大相撲とルールは同じようだが、ルールを確認しておこう。
取り決め
場所:校庭の砂場
勝敗:場外、または地面に体の一部が付くと負けとなる。
禁止:目潰し、金的、拳での殴打
以上。
待てえぇいっ!
こちらの世界の相撲はかなり過激だ。鍛錬の一環で侍たちの間でも行われる事が多く、負傷してよく病院に来るのを見かける。
いや、もともと相撲は非常に過激な競技だ。こちらの世界では、未だスポーツという枠組みが確立しておらず、戦に備える鍛錬といった側面が強いのだろうか。
話を聞いた限りの印象だが、打撃は拳ではなく掌底で、寝技が無いという2点を除けば、総合格闘技のような印象を受ける。
そもそも、相撲は蹴手繰りという蹴り技も認められているし、禁止事項が少ないように思う。かち上げ、張り手などの打撃技も珍しくない。しかし、そんな過激な競技を国技とし、大人から子供まで楽しんでいるのは、野蛮な文化なのだろうか?
異なる意見はあるだろうが、僕自身は野蛮と思わない。老若男女が楽しめる理由のひとつに、ノックアウト、失神による決着が稀だというのがあると思う。土俵を割ると勝負がつくというルール設定により、勝負が命のやり取りにまで発展する事を防いでいるように思える。
さて、日本の大相撲はともかく、問題はこれから僕がやる事になる相撲のルール設定だ。グローブやプロテクターも無いし非常に危険だと思うので、禁じ手を増やそうと提案する。
禁止事項の追加として、まずは当身技禁止。前世で空手を習っていた事があり、不利にならないかもしれないが、グローブも無いし、殴ったり蹴ったりするのはちょっとどうかと思う。
次に噛みつきと髪の毛の引っ張り禁止。さらに首絞めも駄目。死にかねん。
方向性としては、
・寝技なし柔道のようなもの
・体に土を付ける(地面に倒す)、または場外押し出しで勝ち
こんな感じでやりたい。
「こんなもんでどうよ?」
「そいでよか。」
「それ以外無いでしょ。」
「そうなん? 病院に来る人達、凄い過激にやっとったみたいだけど。」
「一部にそげん極端な人達もおっど。ありゃ、もはや相撲以外ん何かじゃ。」
受け入れて貰えて良かった。うちの病院に来てた奴らが過激だっただけか。一括りに相撲と言っても、いろんな流派があるのかもしれん。
「君たち、相撲やるのか?」
「はい、授業が終わったら砂場でやろうと思ってますが。」
「怪我するような事は許さんからな。」
ルールを確認した限りでは、相撲より柔道に近い競技になった気がする。しかしながら、柔道でも危険な事には変わりない。
「倒れた時の受け身って出来る?」
「ほほう、俺を投げられると?」
「そこらは大丈夫。武家の嗜みでもあるからね。」
「念の為、先生も立ち会うでな。勝手に始めるなよ。」
どうやら経験者であり、それなりに自信はあるようだ。僕の方こそ、受け身練習をしておく必要があるかもしれん。




