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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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47 終・体力テスト

 1,500メートルは長い距離ではない。体力が不十分な子供の頃は、長距離に分類される時があるが、通常は中距離とされる長さだ。感覚としてはこの中距離走が一番きつい。持久力と速さの両方が求められるからである。


 順位を気にしなければ1,500メートルは楽に走り切れる距離だが、スピードを求められると難易度が上がる。これまで一緒に走った事があるのはケン兄だが、同年代のものと走った経験がないので、どれ程の速さが求められるのか、全く分からないのが不安だ。


 作戦として、他人は無視し自分のベストタイムだけ考えて走る方法と、他の走者との駆け引きを考えて、ペース配分を組み立てる方法の二つある。


 どうしたもんやろか。状況を見ながら判断しよう。


 先生の号令があり皆で一斉に走り出す。 ……ちょっと速くないか?


 このコースは練習で何度も走っていたが、自分一人で走る時より、かなり早い。先頭集団にはワカも混ざっていた。


 後半で追い上げるか? だがこれは中距離走だ。判断を間違えば、体力が残っていても追い抜く距離が足りず、逆転できない可能性がある。


 うわー、しんどいの嫌やなぁ…。でもしゃーないか。


 覚悟を決めて先頭に付いて行く事にした。少し後に付けてラストスパートで勝負を賭けてやる。こりゃ終わったら倒れるかしれん。


 半分程度を過ぎた段階で、まだトップ集団は僕を含めた4名が粘っていた。呼吸に少し余裕があった為、ちょっと早いが勝負にでようと決める。ライバルの心を折りにいこうか。


 ペースを上げて先頭に立つ。ラストスパート前に数を減らしておきたい。ふるいにかける為、速度を維持したまま先頭を保つ事にした。すると、1人は脱落したがワカを含めた2名が後に続く。


 こんくらいは付いてくるか。しかし、もう最後までスピードは落とさん。


 最後のスパートが出来る、ギリギリの体力だけ残すつもりで、速度を落とさずに走る。もはや他人にかまっちゃおれん。自分との闘いだ。


 己に勝つ。


 ライバルとの競い合いを糧に己を超えろ。死して屍拾う者なし。


 自分でも良く分からん言葉が浮かぶほど、もはや余裕など無い。だが、このままいけば勝てそうだ。そう感じ始めた時、後ろから声が聞こえてきた。


「今こそチェストじゃ。」

「チェストすっど。」


 その声の後、魔力が膨れ上がる気配が感じられた。魔法を使う気か? 身体強化魔法は力を底上げしてくれるが、その分だけ体力消耗が激しくなる。持久力勝負で使うのは適さない。スタミナが残ってない終盤で使うなんて、下手すると死ぬぞ。


 懸垂の時に魔法を使わず、温存した理由がこれだ。残り200メートルも残っていないだろう。追い上げられるというプレッシャーと、得体のしれぬ恐怖を背中に感じた。


 やばい、殺される程の勢いを感じる。


 ここまで来たらもう理屈じゃない、全力疾走だ。


 魔法は使わないが力を出し切る。横に並ばれた気配を感じたが、気にする余裕はすでに無い。何も考えずゴールへ飛び込んだ。


 き… きっつぅ~ あかん、止まったら死ぬ。


 歩きながら息を整える。結果? そんなん後回しだ。最後に抜かれたような気がするが良く分からん。何やのコレ。最終場面で、これだけの全力ダッシュするのは頭おかしいやろ。


 他の二人を見ると地面にへたり込んでいる。


「走り終わった後、座り込まんほうがええよ。気持ちは分かるけど歩いて慣らしたほうが楽やし体に負担がかからんから。ほら、手ぇ貸すわ。」

「おぉ… 悪いな……。」


 歩きながら話しかける。


「君らすごいな。何やの、最後のアレ。殺されるか思った。殺気を感じたわ。」

「アレか、アレはチェストじゃ。」

「チェスト?」

「ぶちかませっちゅう意味たい。」

「ほ、ほー。しかし殺気立っとったぞ?」


 ワカではなく、もう一人が横から返事を返す。さっきまで、死にそうな程の荒い息遣いをしていたが、回復したらしい。


「まあ、色んな意味で使うからね。殺すという意味での、っちまえとしても使う事があるし。」

「あ、君はなまり無しでいけるの?」

「僕はゴン。よろしく。」

「こちらこそ、ワカとは知り合い?」

「いろいろあってね。あ… ちなみにワカってのは尊称だから。」


 話を聞けば、ワカとは若様の事だという。そうか、コイツが噂で聞いた例の子供だったのか。名前はトヨと言うらしい。トヨという名も女子の名として使われる事があり、呼び名がかぶるのを避ける為に、若と呼んでいたらしい。トヨとゴンか。


「あのー、無礼討とか無いよね?」

おいんトコは侍じゃっどん、元々田舎侍じゃ。気にせんでよかよ。」


 若は地方出身者だが、ゴンの親は、この国の首都での勤務だったが、移動により北関市へ移り住む事になったらしい。周りに同郷の者がいた為に、なまりも分かるが標準語も操れるという。


 分かりやすく例えるなら、薩摩藩の若様がトヨであり、藩主に使える侍で、江戸の薩摩藩邸に勤めていたのがゴンの親という訳だ。若様とは言うものの、藩主の子弟ではないらしい。


 言う迄も無いが、こちらの世界に薩摩なる地名は無い。無いのだが、イメージが非常に似ている事は事実だ。前世と何かリンクしている所があるのだろうか。


「体力テストの結果は、おいたちは三竦さんすくみ状態じゃのう。」


 どうやら一着はゴンがもぎ取ったらしい。


「若様に勝ってええんか?」

「手加減したら、チェストたい。」

「コレはぶち殺すって意味のチェストじゃ。ウチの故郷は皆こんなじゃけ。」


 忖度は要らんっちゅう事やな。


「ゴンの投石はどうやったの?」

「的中5。」

「僕と同じか。」

「決着を付けようか。」

「何で?」

「相撲でどうじゃ。」

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