42 入学式
入学式当日を迎え、格さんと連れ立って家を出る。
「しっかりね~。」
「ウンコとか漏らすなよ~。」
上の二人は休みという事でくつろいでいる。
「ケン兄のウンコ好きには困ったもんやね。」
「やかましい。」
「ほらほら、遅れるよ~。」
春絵さんが服の乱れを直してくれ、出発を急がせる。
「今日は式と教室の組決めだけだから、落ち着いてやれよ。」
「では、行ってきます。」
特別に仕立てた着物というものでもなく、普段通りの着物だ。普段通りとはいえ病院であるため、清潔感あるおべべである。診察時は白衣であるが、さすがにそれでは目立つので、今は藍染めのものを着用している。
因みに藍染めには、消臭、細菌の増殖抑制、さらには虫除け効果がある。ならば診察もこれでええやんけと思わなくもないが、春絵さんはともかくとして、一目で汚れが分かる白衣のほうが、普通の人間には都合が良い。
徒歩で学校へ向かっていると、同じく入学式へ向かうと思われる人達がいた。僕と同じく徒歩がほとんどだが、武士の親子だろうか、馬に乗った者もいる。馬糞とかどうしてんのかね。踏まんように気を付けなあかんな。ケン兄に何を言われるか分かったもんじゃない。
それに、今の履物って草鞋だからさ、水で洗っても簡単にとれんぞ。ダメージは絶大だ。変なあだ名が付いてしまうかもしれん。恐ろしい。
何とか無事に学校へ辿り着き、受付を済ませた。受付の名簿には、薬師院ハルと記入する。もう名前くらいは余裕で書けるようになった。
ハルは幼名だが、二文字だけだと同じ名が複数いる時が多く、苗字の使用が必要となる。実は、僕と春絵さんの幼名は同じ名だ。
元服の時に改名するのだが、幼名を基本とした名前にするのが一般的である。
例えばこんな感じだ。
カク → 格兵衛(強さを求め兵の文字を。)
スケ → 佐助 (補佐、助ける。)
ハル → 春絵 (絵が好きだった為。)
このような意味を持ち、自分で付けるとの事だ。名家においては名付け親がいたり、先祖から引き継ぐ名前があるらしい。
15歳か…、頓珍漢な名前を付けるヤツも出てきそうだ。しかし他人の心配より自分はどうなんだとも思う。前世の知識が入る事によって、こちらの社会通念では素っ頓狂な印象になる可能性も否定できん。必ず人の意見を聞こうと心に誓う。
名前を記入すると札を渡され、見ると1組と記載されていた。
うむ、これも読める。
「ほぉ~、1組ときたか。大変かもしれんが頑張れよ。」
「1組が大変?」
どういう事だ?
「入学初年度、1年1組ってのは少し特殊でな。担任の先生もガミラや。」
「えー、それって良い事なの?」
「1組に入れるって事は、何かが認められたって事やから、良い事に違いはないんやが、癖のある奴等が集まるからなぁ。俺は違う組やったから詳しくは知らんが、外から見てて、面倒くさいのが揃っとった記憶がある。だから大変そうやなあと。まあ、頑張れ。」
「うわぁー。やる気が無くなるなぁー。」
「そうでもないぞ、所詮は1年間だけや。後で詳しく教えるが、将来に良い人脈が出来るかもしれん。面倒くさいとか言ったらあかんぞ。」
「格さんが言ったのにー。」
「学校へ行くのは俺や無いしな。ただ、無理やと思えば俺に言ってくれればええ。学校に頼み込めば、なんとかしてくれるかもしれん。」
頼むって、そんなん出来るもんなんかな。僕の為に動いてくれるのは有難いが、モンスターペアレントに思われんだろうか。まあ、程度問題だと思うし、格さんにそんくらいの分別はあると思う。
格さんをモンペにさせん為にも、上手くやらんとあかん。先ずは敵情視察だぜ。人の事より自分がしっかりせんといかん。
教室を見渡してみると、既に多くの親子が集まっていた。親の装いを観察してみると、おおよそ3パターンに分類出来るようだ。
1. 侍、武士階級
帯刀してやがる。危ねえ。斬り捨て御免なんて無いだろうな? さすがに子供は丸腰のようだ。情緒不安定な子供が、刃物を持ってるなんて考えたく無いからね。魔力覚醒時の自分も含めてだが、キレたら怖すぎるやろ。
2. 肉体労働関係
農家や建築関係だろうか。日に焼けて逞しい肉体を誇っている。職人さんかもしれない。
3. 商人等、その他
商人とおぼしきもの達など。
その割合と男女比はそれぞれ同数のようである。予め調整していたのだろう。暫く待機して、全員集まったのが確認できると、担当となる教師が挨拶を始めた。
「皆さん、おはようございます。」
「おはよーございます!」
「私はこの組を担当する、石神と言います。よろしくお願いします。」
「おねがいしまーす!」
成程、ガミラとはイシガミのガミにもかかってたのか。
その後、外の運動場へ移動して式典が行われた。何事もなく…と、言いたいところだったが、格さんがガミラに捉まっていた。うへっ、と言いたげな顔だったが、最後には満更でもないような表情を浮かべていた。




