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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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40 輪廻転生

「生まれ変わりか…、君はどう思うのかな?」


 質問を質問で返されたが、これはしゃーない。こんな事を突然聞かれたら戸惑うだろう。情報が少なすぎる。


 どう答えるべきか迷ったが、考えた事をそのままぶつける事にした。


「興味はあるのですが何も分かりません。あるような気もするし、それを否定する気持ちもあります。人を超えた神仏に仕える方なら何か知っておられるかと思い、お聞きしました。」


 5歳児とは思えぬ回答だが、もう隠すつもりもねえ。なるようになればいいさ。


「君は講習で質問した子だね。未熟なところもあるが論理的な良い質問だったよ。これは誤魔化さず、真面目に答えんといかんかなあ。」

「お願いします。」

「生まれ変わるとは、全く別の生き物が、実は共通する同じ生き物だったという事になるね。何をもって二つの生物が同一であると思うかね?」


 生物であるとの認識は、肉体という物質が生命活動をしているという事が前提となる。肉体というハードが滅べば個体として存続は出来ない。ではソフト面、所謂いわゆるプログラムが継続している時、同一個体が存在していると言えるのか?


 例えば死に直面した個体①の脳に刻まれた情報をダウンロードし、別の個体②にインストールした場合、個体①は生きながらえたと言えるのだろうか。


 自分の感覚でしかないが、個体①は死んだと思う。新たに誕生した個体は、別の存在でしかない。アイデンティティーをどう設定するかによるが、完璧なクローン技術が確立され、脳情報が複製できたとしても、オリジナルは死を免れない。このケースでは個体①と②が共に死に、新たな個体①’が誕生したと感じる。個体②は、肉体が残っている為、元情報が残っているのなら復活の可能性がある。


 個というものを突き詰めて考えれば、転生などあり得ない。全ての情報が引き継がれたとしても、個体①と個体①’は似て非なるものだ。オリジナル情報を持った脳移植が行われた場合というのが、最低限の譲れないラインと考えられる。これは、肉体と精神は同一だとする考え方だ。


 ひとつの生命が存在し続けている、という事を判断するには、オリジナルの存在が問題となる。何をもってオリジナルと言えるのだろうか。


 魂の存在を抜きにすれば、オリジナルはその肉体と言えるだろう。情報を完全に複製したクローンが誕生したとしても、オリジナルは始めから存在していた肉体だと言える。例えオリジナルを殺害したとしてもコピーはコピーでしかなく、社会的な存在IDを手に入れる事は出来ても、真の意味で存在を書き換える事は出来ない。


 つまり、コピーとして誕生した時点で、すでにオリジナルとは別個体であるとの認識だ。オリジナルな肉体があってこそオリジナル・ワンといえる。


 ではこの理屈に、魂という条件が加わったらどうなるのだろうか?


 哲学の分野ではこれと違ったとらえ方があり、二元論というものが言われてきた。二元とは、精神と物質(身体)はそれぞれ独立した存在である、という考え方だ。


 脳が無くとも心はあるという考え。心とは魂と置き換えても良いだろう。人間、若しくは生物としての核は肉体ではなく、魂にこそ宿るという概念だ。


 この実体二元論は自然科学が発展するにつれて、支持を失っていった。未知なる領域が解き明かされ、オカルト的なものが入り込む余地が少なくなったからだ。


 とはいえ、臨死体験をしたオカルト否定派が考えを改める話は珍しくない。


 結局のところ、魂の有無は証明されておらず、どちらも可能性が残されている。


「同じというのは、何か共通のものが引き継がれている事が条件です。しかも転生となれば、個体としての核の部分が同じということだと思います。それが魂と呼ばれるものなのか、それとも記憶なのか…。個体認識の核とは何かという問題です。何が引き継がれていれば、転生とみなすのでしょうか。」


 少し考え込んだ後、更に質問が続いた。


「君は何かを引き継いでいるのでしょうか?」

「はい、僕は記憶に一部の引継ぎがあります。妄想でなければですが。」


 どんな返答となるのかな?


「興味深い話でこのまま話していたいのですが、少し時間が無いのです。良ければまた話をしに来てもらえれば有難いのですが、どうでしょうか。」

「是非お願いします。」

「私は真魚と申します。」


 このお坊さん、始めは子供相手の態度だったが、次第に口調が変化した。認めてくれたという事なのだろうか。


 今回のような哲学的討論は、実社会において、役に立たないように感じるかもしれないが、社会制度を設計する上で非常に重要で、無視できない。



◇◇日本の法律(平成30年)◇◇


(問1)

 一組の夫婦がおり、妻が妊娠しました。医療保険制度において、

お腹の子供はいつから人間とみなされるのでしょうか。


(解1)

 妊娠85日以後。(12週と1日)


(解説1)

 医療保険において、出産時に支給される出産育児一時金の基準。

妊娠85日以後の出産、中絶、死産の場合に支給される。


 酷かもしれないが、85日前は出産とは認められない。


 この場合、ある程度の肉体が出来上がっていないと、人間とはみなさないという考えがベースにある。日本の法律での考え方のひとつだ。この考えには、宗教的な魂の問題は含まれていない。


 日本ではあまり耳に馴染みがないかもしれないが、中絶に反対する宗教グループが存在している。無計画な性交渉は別として、不幸にも乱暴等により望まない結果となった場合には、勘弁して欲しいと思うのが人情だが、かたくなに反対する理由が、今回とりあげた問題と深くリンクしている。



◇◇宗教問題◇◇


(問2)

 魂こそが人としての本質だと解釈した場合、魂はどの段階で子に宿るのか?


(解2)

 受精卵か着床時か、宗教、宗派により異なる。


(解説2)

 魂が宿った時に人間とみなされるなら、それ以後の中絶は殺人に等しい。解釈によっては、中絶を施術する医師は殺人者となる。受精卵を壊さずに幹細胞を利用できる、IPS細胞が望まれた理由がここにある。


 理論上、全ての組織に変化する事の出来る幹細胞(ES細胞)は非常に有益だが、受精卵を材料とする為に倫理的な問題があった。受精卵を生命の始まりとみなして良いかというものだ。


 IPS細胞は受精卵を使わない為に倫理は問題とならない。


 人間は宗教から離れる事はできるのだろうか。


 また、離れてしまっても良いものだろうか。


 いろいろと考えさせられる。



*蛇足

 法律関係の勉強をしている人は、前(後)と以前(後)の違いに注意です。


(例)

11月20日前(後)  → 20日を含まない。

11月20日以前(後) → 20日を含む。


 何らかの権利が消滅するとして、具体的に、何月何日に消滅するのかを把握する場合、この表現を理解している必要があります。


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