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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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36 意識外の行動

 本堂に案内すると言われ、後を付いて行く。


「おーい、誰か手の空いたものはおるか~。」

「私でよろしければ。」

「一般の方だが、門の講習を希望されている。宜しく頼む。」

かしこまりました。」


 門とは何だろう。想像がつかない。若い雲水が質問をしてきた。


「現状では、どこまで修得されているのですか?」

「属性魔法を二つ、複合魔法を一つ使えますが、未だ門を修得できていないので、講習をお願いしたいのです。今から大丈夫でしょうか?」

「まだ小さいのにご立派です。では、基礎は飛ばしての説明で良いでしょうか?」

「出来れば省略しないで欲しいですっ!」


 僕の魔法知識は所詮しょせん耳学問だ。細切れの情報を推測で繋ぎ合わせたに過ぎない。大きく間違っていないと思うが、重要な情報を逃がしているかもしれない。


 つい大きな声を出してしまい、ちょっと恥ずかしかった。


「すいません、基礎からお願いします。」

「基礎からですと、少しお時間がかかってしまいます。しばらくすると門の修得教室を開きますので、そちらに参加されてはどうでしょうか?」

「そうですね……、どうや? そっちに参加してみるか?」

「それでお願いします。」


 願ってもない事だ。それに教室という事は、他の人がどんな状況なのかも分かるだろう。参加予約をして帰宅する事にした。


「格さん、門って何なの?」

「分かりやすく言うと、おねしょ防止訓練や。」


 なんやと? そんなもんやらかした記憶はありませぬが。


「寝ぼけて魔法を使わんようにする為やぞ。」

「寝ぼけて?」

「ああ、特に火魔法なんぞ使われたら大惨事や。普通は学校で習うもんやが、お前は火属性を覚えるのが早いかもしれん。今のうちに講習を受けといた方がええ。」


 それを聞くと、魔法というものが恐ろしく感じられた。夢の中で魔王と戦い、


「ファイヤーッ!」


 これはいかん。この防止として門と呼ばれる技能の修得が必須らしい。睡眠の夢の中では正常な判断が出来ない。これを制御する技術が門というものらしい。


 無意識の行動がこれほど恐ろしいと感じたのは始めてだ。仮に家が全焼したとして、責任はお前にあると言われると、確かにその通りなのだろうが、モヤモヤしたものが胸に残る。


 このモヤモヤは何だろう? そうだアレ、裁判の心神喪失により無罪ってヤツに似ている。罪を犯してもおとがめ無し。こんな事が許されるのだろうか。話がれるが、少し考えてみたい。


 法に触れ罪を犯すと相応の罰則が科せられる。そもそも罰則とは何なのだろう。何を目的に罰則が定められているのだろうか。


 罰則の目的、それは二度と法を破らないようにさせる為にある。罰則を与える事が目的ではない。綺麗ごとを言えば「罪を憎んで人を憎まず」という事だろう。


 罰金、懲役、死刑とあるが、一番重い死刑になるという意味、もはや更生不可能とみなされたという事だ。現代日本に強制労働や思想改造といった刑罰は無い。


 お前は死すら生温い! という世界があれば、死こそ救いとなるかもしれない。


 以上を前提としたうえで、罪を犯し、その事が完全に証明されたとしても、罪に問われない事例が存在する。未成年というケースを除けば、


 ひとつ、加害者が障害者であった場合。障害の為に、何が犯罪なのか判断が付かず、責任能力の無い者。被害者としては納得しかねるかもしれないが、感情の問題を切り離して考えれば、筋は通っているように思う。障害の有無や度合いが偽装であれば、当然話は違ってくる。


 ふたつ、健常者でありつつも無罪となるケース。加害者は何ら障害を持っておらず心身ともに健康であるが、心神喪失により無罪となる場合がある。何らかの事情により、善悪の判断が付かない状況におちいった事で、犯罪行為に手を染めたと認められると無罪となる場合がある。感情的に前者よりも受け入れ難いだろう。


 無罪となる根拠だが、


1. 罰則とは、二度と過ちを犯さない為に科せられる。

2. 加害者の通常の精神状態は健全で、犯罪を行ってはならないと認識している。

3. 今回の犯罪行為は心神喪失により、正常な判断力が失われていた。

4. 現在の加害者は、正常な精神状態である。


 つまり、加害者は正常であれば、犯罪に手を染める事は無い為、罰則を科す必要が無い。今回の犯罪行為に至ったのはイレギュラーである為、加害者を更生させる必要なしという理屈だ。(加害者は通常の精神状態に回復している。)


 医学、法的にはそうであっても、感情としてどう受け止めてよいか悩んだ末に、辿たどり着いた答えは、例えば、寝ぼけて無意識にやってた行為なら、責任が取れないという理由が分からなくもないかなと思えた。だが、もしも自分がそんな事になったのなら、罪悪感から逃れる事が出来ないだろうと思う。心理的には刑罰を受けたほうが楽かもしれない。


 被害関係者からすると納得できない場合もあるだろう。だが法の定めである限り従わざるを得ない。不服であれば法改正の必要がある。


 法とは、数多あまたの関係者が血の涙を流しながら築き上げてきたものだ。


 人は生まれながらに平等であると法に定めても、それは建前に過ぎない。生れによる不平等は確実に存在する。平等であるべきという理想に近ずく為、生まれたのが法治という概念である。世界が平等で無いならば、社会制度によりその不均衡を是正するという、現実を理想に近づける為の努力だ。


 万人が納得できるような完全に平等な法など、今後もあり得ないだろう。地上は楽園ではなく、不条理に満ち溢れている。法とは人が作ったものであり、法で殺人を禁止すると定めても、殺人が無くなる事はない。その為に罰則が必要となる。


 前世の一般生活に限らず国際情勢において、これまで積み重ねてきた法の常識をくつがえすような状況が、数多くみられた事を記憶している。前世の文明はこの異世界よりも成熟していたと思うが、ただ利便性が向上したのみで、人間の中身に差など無いのかもしれない。


 ここでも異民族襲来とか聞くし、どこの世界も大変ですなぁ。やっとれんぜ。


 まあ、今そんなことを考えても仕方が無い。これらは全て自分の個人的意見だ。難しい事はともかく、早いうちに門とやらを修得せんとあかん。


 魔力のお漏らし等をしてしまったら、どえらい事だ。

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