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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
二章 魔術契約
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35 実践と座学

 格兵衛さんの後を付いて行くと、水の流れる音が聞こえてきた。


(これは滝の音?)


 進んでいくと開けた場所に辿たどり着いた。先客が3人いるのを確認すると軽く会釈をして挨拶する。飛沫が感じられるほど近くに滝がある。滝は大小の二つに分かれて滝壺へと注がれている。小さな滝には、先客の一人がもろ肌脱ぎになり、滝行を始めると、残りの二人は、何やらお経のようなものを唱えだした。


「ここは精神鍛錬の場として使う人たちがいてな、彼らも修行中やな。」

「滝に打たれて効果があるの?」

「俺の個人的意見やが、これまでと違う事が出来るようになるには、経験と気付きやと思っとる。始めは経験を積み力を蓄える。次に、自分が出来るようになっとる事を知るって事や。この滝行がどこまで有効的かは分からんが、何かの切っ掛けになる可能性はあるな。その可能性を求めて、みんな試行錯誤しとるんや。」


 分からんでもない。スポーツの経験で、これまで出来なかった技が、一度できると、次からは何故これまで出来なかったか分からないと思える程、簡単に出来る事がある。その技が出来る能力はあっても、出来るという事を知っていないと技が出せない。それにしても格兵衛さん、口下手と言うが謙遜しとるだけでしょと思う。


 マイク・タイソンもそうだったのだろう。己が既に強い事を知らなかった為に、いじめを受けていたのだから。自身の強さに気付いたおかげで、彼は次のステージへ歩を進める事が出来た。


 能力があっても、それを使いこなすにはまた違ったものが必要となる。以前言及したF1の、マシンとドライバーの関係のように、どんなスペックがあっても、指令を出すプログラムが組まれていないと作動しない。


 この滝行も経験を積む手段、または気付きの一歩を目指しているのだろうか。


「精神修業はともかく、属性魔法の修得に役に立つぞ。風属性は未だやったな?」

「うん。」

「風属性っちゅうのは大気、空気の魔力や。滝壺のそばやと空気中の水分、湿度が高くなる。水属性が出来るのなら、それを足掛かりに空気の魔力を感じやすい。」

「ほほ~。」

「似てるけど違うもんやけどな。初歩のコツを掴む助けにはなるやろ。この場所なら日帰りで十分やから、気に入ったら来ればええ。帰り時間は忘れんように。」

「はい。」

「じゃあ弁当食べてから帰ろう。最後にお寺さんに寄ってしまいや。」


 風呂敷を広げ握り飯を取り出す。具は大根の漬物だ。うん、美味い。


「こういう事って、学校で習うの?」

「基本はそうやな。後は仕事をしながらかな。」

「仕事?」

「ほれ、お前がやってる病院の手伝いみたいなもんや。俺の場合は猟の手伝いで、始めは罠猟の荷物持ちや雑用程度からやったけど、弓の使い方を教わったりしたんや。」


 現代でいうOJT(On the Job Training)ってヤツだ。仕事をしながら技術を身につけていく教育方法で、実践的な経験が積める。


 OJTと別の訓練方法で、Off-JT(Off The Job Training)と呼ばれるものもある。これは仕事を離れ、外部専門家による座学講習となるのが一般的だ。短期集中で、技術を体系的に学ぶ事が出来る。


 ところで、スキルアップの為に、自主的に参加するビジネススクールをOff-JTと呼ぶことは無い。会社(使用者)が社員教育の為に、強制的に参加させるものをOff-JTと言うのである。つまりは社外研修であり強制力がある為に、研修中も賃金が発生する。


 問題となりやすいケースは、この勉強会はあくまで社員の自発的な勉強会であり、強制ではないとされる場合において、それに参加しないと査定に影響する等、実態としては強制と認められるケースだ。この場合においては、この勉強会にかかった時間に賃金が支払われるべきであり、残業にも加算される。


 社員の自発的行動であれば、賃金が発生する事が無い為、ブラック企業と呼ばれる職場では、実態は強制以外の何ものでも無いが、建前上は、社員の自発的行動としている事がまかり通っているケースがある。賃金の支払いを逃れる為である。


 OJTとOff-JTはどちらも大事なものだ。自分の経験では、会社でそれなりに仕事をこなし、ある程度の事が出来るようになったが、そこから先に限界を感じた時があった。そして、始めから学び直そうと思った事がある。


 そこで感じたのは、自分のスキルはそれなりのレベルに到達していたが、内容にかたよりがあると思い知らされた。


「あの答えが出せれて、何でその初歩の問題が分からない?」


 基礎を知らないと応用が出来ない。猟師として一定の技量があった格兵衛さんが、契約魔法で狩猟採集知識を得たのも、基礎を補完する為だと教えてくれた。


「手伝いをしてた猟師さんは教えてくれなかったの?」

「そこが何ともつらいとこでなぁ…。」


 格さんが手伝っていた猟師は弓の腕が達人級だったらしい。都の西、関西地区の出身であったらしく、格さんの言葉の訛りは、その師匠譲りらしい。僕も少し影響を受けてはいるが、僕のなまりは自己流に変化しているところもある。ちなみに言うまでもないが、この北関市は関北地区に属している。


 それで格兵衛さんの師匠の話だが、猟の技術を教わる前に、流行り病に感染して亡くなってしまったとの事だ。


「湿っぽくなっていかんな、まだ予定はあるし、日の高いうちに下山しよか。」


  下山した後、最終目的地であるお寺、大晦日に詣でた薬師寺を訪れた。数人の雲水が庭掃除をしている。雲のように水の様に、修行場を流れて修行に明け暮れる者達だ。格兵衛さんが彼等の一人に声を掛ける。


「すいませーん、門の手解てほどきをやってもらう事は出来る?」

「ええ、大丈夫ですよ。本堂の中に手の空いた者がいるはずです。」


 モン?


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