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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
一章 入学準備
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26 目標まで半ばを過ぎて

 学校入学まで半年を切った。


 入学に備えて、知力、体力、時の運を鍛えて、実力の底上げをするというのが、今回の目標だった。残された時間が約半分となった今、進捗状況を確かめ、見直すところがあるか判断しよう。


 まずは知力。この世界の文字を覚える事を目指し、ハナ姉に勉強をみてもらっていた。覚える文字は表意文字が1に、表音文字2つ。表音文字はひと通り覚えて、表意文字も簡単なものであれば、分かるものもある。


 だが、まだ完璧では無い。何度も繰り返して練習しないと、頭から抜けていきそうだ。しかしながら、この段階までくると自分だけで学習できるので、もう先生は必要ない。


「ハナ先生、お世話になりました。」

「ハルちゃん、よくがんばりました。」

「ありがたきしあわせであります。」

「卒業しても、アナタはワタシのお弟子さんですよ。」


(んん?)


 何かをたくらんでそうな笑みを浮かべている。何を言い出す気だ。


「これから、何か甘味が出来たらワタシに報告するように。」


 ほほう、この前の西瓜スイカがお気に召したとみえますなぁ。


「この前、春絵さんに何か渡してたでしょー。」

「あ、知ってたの?」

「先生の目は誤魔化せませぬ。」

「毒見役でも良いの?」

「え?」


 干し西瓜スイカは失敗で、とても使えるものでは無かったと説明すると、完成したものだけを献上せいとおっしゃる。意地悪するつもりもないし、甘味が欲しい気持ちも分かるので、何かあったら教えるよと伝えると、満足そうにうなずいた。


 よし、文字の学習は順調で、次は体力、肉体鍛錬の状態だ。


 毎朝のジョギングを続けていると、ケン兄に遅れず付いていけるようになった。とはいっても、おそらくケン兄は本気で走ってはいない。そして僕は精一杯だ。


 年齢による体力差は大きい。実力が違うのは仕方が無い事だと思う。同年代と競った事が無いので分からないが、それなりの力は付いているのではと思う。


 ジョギングの合間に短距離の練習もするようにした。走り方は、現代陸上の最新フォームだ。最新とはいっても、現代日本での一般レベルという話だが、中世と比べれば最先端だろう。戦場などで、武器や荷物を抱えての走法となると、また違うと思うが、純粋な速さを追及した走法では、僕に一日の長があると思いたい。


 懸垂けんすいについては余裕ですな。水魔法による肉体強化がある。入学時テストでは10回で最高記録となり打ち止めとの事だ。上位者は、これくらい出来るらしい。上限を付けないと頑張りすぎてしまい、子供の身体に負担が大きくなるのを、防止する為らしい。よって、他の科目の出来が順位を左右するとの事だ。


 最後に投石。石投げという物騒な競技があるのは、軍事拠点であるのも理由の一つだ。この世界に弓は存在するが、弓は誰でも使えるというものではなく、鍛錬を必要とする道具だ。投石も個人によって差はあるが、石は簡単に補充がきくうえ、誰もが手頃に利用できる武器となる。


 戦乱が去ったとはいえ、所々にその名残なごりが感じられるような気がする。この投石については、距離は十分に届くようになったが、命中させるのが難しい。


「お前は力み過ぎなんだよ。」


 ケン兄がアドバイスをくれる。


「もう距離は十分だから、そんなに力を入れなくても大丈夫。ゆっくり狙ってからやってみな。」


 水魔法の身体強化を習得した為、飛距離をかせぐ事は出来ていたが、これまでの癖で、力いっぱいに投擲するのが癖になっていた。ケン兄から指摘され、命中精度に集中力を使うようにすると、的中率が上がった。


 筋トレについては、豊吉さんから大八車と木桶を借り、山から腐葉土を持ち帰るという作業を始めた。これが大変な重労働となったが、休み休み続けている。


 次に何を作るのか、未だ決めていないが、何時でも作付けが出来るよう、鍛錬を兼ねて、手入れだけはやっている。


 体力づくりも順調といえるだろう。


 最後に医院での手伝いで、ここでの課題は魔法鍛錬、及び人脈作りだ。


 医院での手伝いは診察に加えて、簡単な治療を任せてもらえるようになった。


 診察をした後に、治療するにあたって、十分な体力があるかどうかを判断する。これは西瓜スイカの品評会にて、春絵さんが新たに取得した力だ。そして佐助さんの力で殺菌をしたうえで、僕が治療を行う。


 傷や打撲を治療する際に、魔力操作で細胞活動を促進させる訳だが、人体構造やその働きに理解があると、より効果的に治療が行える。その理解を深める為、始めは診察のみに集中させたとの事だ。


 前世は医学など縁遠いものだったが、一般教養としての知識が大いに役立った。現代では一般常識でも、この常識は過去の英知が積み重なったものだ。魔力という存在を除けば、前世の知識はこの世界でも通用すると知った。


「ほーう、チビ先生も来年は学校か~。しかし、入学前なのに立派なもんやの。」

「いや、周りに助けられてるだけで、立派でも何でもないですー。」

「そういや、うちの部隊の偉いさんトコの子も、学校やと言うとったな。」

「へ~。」

「チビ先生と同学年じゃな。」


 うーむ。面倒くさい事にならんければ良いが……。頭には入れておこう。


 この情報をくれたのは、この町に駐屯する武士集団の事務担当者だ。訓練や荷役などで負った傷病は主君が面倒をみるらしく、月に一度程、その支払い状況の確認で医院を訪れている。労災のようなものだ。


 労災といえば、この世界、しくは国の社会制度だが、保険というものが存在するのか不明だ。前世の世界では大航海時代において、海上貿易とともに発展したと言われるが、小規模なものなら、似たような取り決めが、それ以前にもあったらしい。


 保険は危険をともなう行為、冒険をサポートする為に発生した。


 虎穴に入らずんば虎子を得ずとは有名な言葉だ。ハイリスクハイリターンというのが冒険の常だが、このリスクを減らす為に保険というものが考案された。


 そして冒険の規模が大きくなるほど、保険を運営する保険者にも、一定の規模が求められる。現代で言えば政府や保険会社だ。民間で最も有名なものは、イギリスで生まれた保険組織「ロイズ」である。


 この世界でも、組合ギルドが存在して、損害保険のようなものを扱っていたりするのだろうか。契約魔法(魔術)の話を聞いた限りでは、契約という考えに理解が深いと感じられるので、保険が存在してもおかしくは無いと思う。


 保険組合、市場を開拓して元締めを目指してみるか?


 何だかでかい口を叩いているが、多少の知識があるだけで出来るものだろうか。一人では無理なので、組織を運営する能力も必要となるだろう。


 しかし、無責任に風呂敷を広げる事が出来るのも、子供の特権の一つだと思う。今はその恩恵にあずかっておこう。でっかくいこうぜ。


 取り返しがつく範囲で。

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