25 人の和
ドライフルーツという名のドーピング剤を試してみた。食べて暫くすると徐々に魔力が体全体に行き渡り、身体能力が底上げされる。
問題は副作用だ。実力以上の力が出る為、翌日の筋肉痛が酷い。だが、それ以上に問題なのは、身体がその力を扱えるだけの、耐久力を備えていない事だ。
どれだけ力が出せるのか、岩などを持ち上げながらテストしてみた。徐々に重いものへと変えていったが、ある程度の重さを持ち上げようとした時、このまま続けると体が壊れると直感し、手を離した。出せる力に身体が耐えれないと感じた。
水魔法の身体強化も似たようなものだが、これはそれより強力だ。感覚的な印象だが、水魔法は自分で力をコントロールできるが、このドーピング剤は、溢れる力の加減が出来ない。そして、効果の持続は3時間程だった。ドーピング剤の摂取量を増やした場合に、効果が増すのか、それとも持続時間が長くなるのか、どうなるのかは不明だ。
自分の身体で試すのは怖すぎる。これは軽々しく使ったら駄目なヤツだ。
さて、この干し西瓜をどうしたもんだろうか。捨てるのは勿体ない。悩んだ挙句に、春絵さんに渡す事にした。
「春絵さーん、こんなん出来たからあげる。」
「あら、なにかしらね~。」
「この前の西瓜を天日干しにしたヤツ。上手い使い道が分からなくて……。病院で使い道があったら使って。ちょっと癖があるヤツだけど。」
「ありがと~。癖?」
何かあってはいけないので、ドーピング効果の事を説明して後は任せた。厄介な物を手放せてよかった。やれやれですな。
何だか逃げたようで気が咎める気持ちもあるが、そこは認めざるを得ない。
はい、逃げました。だが、意地を張っても、出来るもんと出来ないもんがある。負けると分かってもやらねばならん時が、何時かあるかもしれないが、今は違うと思う。この胸に去来するやるせない思いは、次の挑戦へ向けた糧にしよう。
さてさて、これからどうしたもんじゃろかいと思っていたら、数日後、佐助さんに話があると言われ、診察の終わった病院へ顔を出した。なんだろうか。
「なあハル、この干し西瓜どうやって作った?」
う… 作ったらアカンやつだったのか?
「あの時の西瓜を干したヤツだけど、干してる時に、早く完成するように魔力操作したんだけど、どんな出来栄えだったかな?」
別に隠すようなもんでもないし、駄目な事をしてしまったのなら反省するのみ。反省はするが後悔せずの精神だぜ。若しもこのドーピング剤が、麻薬的な劇薬である場合に備えて、万が一の為に春絵さんに預けたのだ。この判断に間違いは無い。
でしょ?
「よく出来てる。その魔力操作ってのは、一人で考えてやったのか?」
「うん。なんとかならんもんかと、いろいろ考えながら。」
これは褒められるのか、叱られるのかどっちだ。
「是をくれるのは有難いけど、使い道が難しいねぇ。一時的に元気にはなるけど、魔力操作に慣れた人じゃないと、力が出っぱなしで、逆に疲労しかねないなぁ。」
「だから使い道に困ってしまって。大人の人なら、上手い使い方が分かるかと。」
「患者さんに使うのはちょっと怖いね。」
「そうですか……。」
「でも、格兄さんだったら大丈夫だから、猟の時にでも持って行ってもらうとしよう。有難く使わせてもらうよ。」
無駄にならずに済んで良かった。後で使用状況を確かめて、品質向上に励むとするか。使ってもらえる人がいて有難い。
「で、この干し西瓜は格兄さんに任すとしてだ、」
「はい。」
「ハルよ、医学に興味は無いか?」
「はい?」
話を聞くと、医療魔法は木属性を基礎としている。木属性を使う事が出来るのなら、医療魔法が習得できるかもしれないという話だ。そこで、医院の手伝いをする気があるかという、お誘いが佐助さんからあった。
「うーん、何かあった時に責任は取れないから、不安なんですが……。」
「こちらもちゃんと指導するし、そんな大事になるようなものは任せられないよ。必ず大人が立ち会うようにするから、心配しないで良いよ。」
「でも、怖いなぁ…。」
これまでの実験は、失敗しても、誰も被害を受けないものばかりだったが、今回は相手がいるのでプレッシャーがある。言葉は悪いが、魔法効果を実際に確かめられる人体実験が出来るのは、得難い機会だと思わないでもないが、責任を感じるだけの良心は持ち合わせているつもりだ。
「大丈夫、ちゃんと支援するから。木属性魔法の使い手で、医療魔法を習得した者は貴重なんだ。若いうちから慣れておくと、扱える魔法の種類も増えるから、将来役に立つ事も多いと思うんだが、どうかな?」
「どれくらい、時間がかかるものなの?」
「とりあえずは慣れるだけだから、毎日1時間。」
「それならやってみます。」
「よし、じゃあ明日から頼むよ。」
このような経緯で、昼食後に病院へ出向く事となった。緊張して足を踏み入れたが、初日は見ているだけで終わった。社会見学みたいなもんだ。
翌日からは、やるべき課題を与えられた。それは、怪我や打撲などの外傷の診察が出来るようになる事だ。
その理由は次のような事だった。人の身体には、あるべき姿に戻ろうとする力、言葉を換えれば自然治癒力というものがある。この治癒力を魔力で強化するのが、医学魔法の基礎だそうだ。おそらくは細胞分裂の促進だろうと当たりを付ける。
その細胞分裂を操る時に、患部の状態を把握できていると、より良く治癒する事が出来ると教えられた。その為に診察が第一歩となる。
見た目と問診から判断した事の裏付けをとる為、患部に魔力を流して確認する。レントゲン、MRI、PET、どれ位の検査が出来るんだろう。魔力って凄い。
魔力の反応は人によって差があるらしい。それに対応するには、知識と経験だ。ハナ姉のお陰で、文字はそれなりに読めるようになってきたが、医学書はさすがに読めない。
今やっている事の詳細は、外傷を負った患者さんが来たら、始めに僕が診察して佐助さんに伝える。その後、もう一度佐助さんが診察をし、正誤判定と評価をしてくれる。二度手間で時間が掛かるので、僕の練習台になる事を予め伝えてあるが、皆快く協力してくれる。勿論、重傷者はこの対象外だ。
医院の手伝い…、否、邪魔をするようになって暫く経ち、気付いた事があった。怪我で来院する人が多い。侍のような装いの人たちが目に付く。なんとなくの印象だが、宮仕えの役人というより、職業軍人的なものを感じる。この世界は平和では無いのだろうか。世界情勢はどうなってる? 手が空いている時間で、佐助さんに疑問を聞いてみた。
「佐助さん、患者さんに、お侍さんが多いような気がするんですが、実際に多いんですか?」
「よく気が付いたね。この辺りは多いよ。」
僕たちの暮らすこの北関市は、名前の通り首都の北に位置する守りの要だ。全国が、ひとつの勢力により統一されてからは、平和な時代が続き、軍事拠点としては名ばかりのものだったが、数年前に北に流れる大河を越え、異民族の侵入があってから見直されたらしい。
特にこの辺りは、町の中でも北に位置する場所で、区分けで北区とされている。それ故に守備人員である武人の数が多いとの事だ。その為に訓練などで負傷する件数が多い。
昔においては、この北地方は土蜘蛛とよばれる亜人が、一大勢力を築いていたらしく、北の平定が最も重要な戦略であったという。その平定の為に大将軍が任命され、将軍にさぶらうもの、サムライがこの北関市にも存在していた。
異民族侵入以前は、この制度は形骸化され、形だけのものであったが、この侵入以降、大幅に増員された。
「へ~、物騒な事があったんだねぇ~。」
「今は仲直りしてるみたいなんだが、用心はしておく必要があるからね。」
一見すると平和に思える日常も、いつそれが崩れるか分からない不安定さがあるような感じだ。
世の中は複雑怪奇で、僕に出来る事は少なく、目の前に集中するだけだ。
病院の手伝いは、本当に業務の邪魔をしているだけだったが、チビ先生と呼ばれて、マスコット的な扱いとなっている。医療魔法の上達はまだまだだが、顔だけは広くなった。これも人の和と言えるのではないだろうか。




