23 西瓜の品評会
2本目は順調に成長しているようだ。つるが伸びてきたので、果実の数を調節する為に整枝をする。果実が多いと栄養が分散してしまい、小さくなったり、甘みが足りなくなるのを防ぐ為だ。受粉は上手くいったようで、果実の小さい玉が出来てきた。鳥獣被害が心配になってきたので、苗を分けてもらった農家さんに、対策を教えてもらおう。
「こんにちは~。」
「おぉ、佐助先生んトコの坊主か。苗の調子はどうなっとる?」
「一本は枯らしちゃったけど、他は順調に育ってます~。」
「ほぅか。先生達に美味しいもん食べさせたってな。」
この人は近所の農家さんで、以前、蜂に刺されて大騒ぎをし、佐助さんの治療を受けた事があるのを覚えている。それ以来、ときどき野菜の差し入れをしてくれている。
「豊吉さん、動物とか西瓜を食べにきたりします?」
「ようけくるぞ~。網を被せるとかしたほうがええな。ちょっとまっとれよ。」
そう言うと、小屋から何やら手に取り戻ってきた。
「これはテグスやが、カラス程度やと、これ張っとけば十分や。これ使い。」
「ありがとーございます。」
木の枝を畑の周りに立て、テグスで囲んだ。鳥はこれでよしと。獣は犬のタロウに任せよう。普段のタロウは人懐っこく、知らない人が来ても吠えないので、番犬としては全く不適合な存在だが、これでも猟犬なので、獣が来たら追い払ってくれるだろう。頼んますよと言うと、尻尾を振りながらペロペロとなめてくる。
分かってるのかな? まあ良いや。西瓜が出来たら食わしてやろうと思うが、犬は西瓜を食べるんだろうか。
後は草取り、水やりなどをしながら、魔力を与えつつ様子見だ。魔力の使い方はだんだん慣れてきている感覚がある。ひたすら反復作業を繰り返し、その扱い方を体に叩きこませる。
そしてこの頃から、与える魔力が与える効果を、自分の意思で操作が出来るか、試す実験に取り掛かる。
実験の内容は魔力により細胞分裂を促す事と、分裂は自然のまま、細胞が活性化するようにコントロールできるかだ。
植物栽培の次の段階として、人体に応用しようと思っているが、細胞は分裂できる回数が無限ではないと聞いたことがある。これをヘイフリック限界という。分裂回数に限界が訪れ細胞が死滅してゆく為、生命あるものは、死す定めから逃れる事ができない。
一般的な運動、筋トレをしても細胞分裂だろうが、その程度だったら問題ない。逆に運動をしない事による体力低下、不健康な生活のほうが悪影響だ。
しかし、魔力が関わってくる場合は全くの未知だ。魔力で肉体改造を行ったら、老けるスピードが速くなる、つまり老衰が速まったりするのだろうか。
太く短く生きてみるか? いや、希望は太く長くでしょ。ある程度の実験をしないと、人体に応用するには怖すぎる。植物細胞にヘイフリック限界は無いと言われているが、魔力がどのような変化を与えるのか、参考になるだろう。
ある程度の日数が経過し、生育状況に差が生じ始めた。成長が良いものはすでに食べても良い程だが、結果を比較する為に、通常栽培物の成長を待ったうえで収穫した。
さあ、西瓜パーティーだ。
会場にお越しの皆さんは、佐助さん、格兵衛さんに春絵さん、苗を分けてくれた豊吉さんの4人の大人と、子供は孤児院3人に加え、おままごと仲間である近所のおタマちゃんの4人で、総勢8人だ。
会場と言ってもただの庭先で、春絵さんが包丁で切り分けてくれた西瓜が縁側に並べてある。
「えー、今日はお集りありがとーございます。遠慮なく食べて感想をください。」
「食べ過ぎて、お腹を壊さないようにね~。」
「始めは魔力栽培じゃない、普通の西瓜ですー。」
いきなり満腹になっても困るので、少なめに切り皿に盛る。
「ふん、こんなもんやろな。悪くない。」
「今年最後の西瓜になるのかもしれんな。甘さも十分や。」
豊吉さんが悪くないと言うのなら、それなりの出来栄えだろうか。格さんも満足そうにかぶりつく。
「えー、次は魔力栽培物、その壱でーす。」
ここからが本命だ。魔力栽培物のひとつで、細胞分裂を意識したものを始めに出す事にした。3種類のなかで一番大きく育っている。大きく育ちすぎると味がいまいちという印象があるが、はたしてこれはどうだろう。
「さっぱりした甘さで美味しーいっ! これ好きかもー。」
「そりゃ良かった。」
「魔力栽培ってすごいねー。いつの間にか追い越されちゃったかな。」
そう言うのはタマ姉ちゃんだ。汚名返上という感じで気分が良い。やったぜ。
「水気が多い。甘さが控えめなとこがあるが、魔力おかげか懐が深いな。ひと仕事後の水分補給にちょうどええ感じやのう。」
ふーむ。成長するのに栄養が使われたって事なのかなと思った。豊吉さんが水分補給に良いと評したように、甘さ控えめで水気が多い為に、がつがつ食べやすい。犬のタロウが、もっと欲しそうな顔をしてこちらを見てくるが、さっきと同じような反応なので、どっちが良かったのか分からん。気に入ったのは確かなようだ。
「最後にー、魔力栽培その弐でーす。」
質を重視した魔力栽培物だ。細胞分裂重視に比べ大きさは負けるが、標準並みの大きさはある。果実の色は濃い赤で、いかにも熟して糖度が高そうだ。
「ううむ、濃厚な味だな。これは美味い。」
佐助さんが唸る。おそらく出した順番も良かったと思う。薄味から始まり段々と甘みが強くなる。これが逆だったら物足りなく感じたかもしれない。確か石田三成の逸話で似たような話があったな。あれはお茶の出し方だったか。
僕も口にしてみたが、これは僕の知っている西瓜ではなかった。味は西瓜以外の何物でもないが、同じウリ科の南瓜のような濃厚さだ。先ほどのアッサリしたものとコレとでは、どちらが良いかは好き嫌いの分かれるところだろう。
うん? 何やら春絵さんの挙動がおかしい。どうしたのかな?




