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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
一章 入学準備
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22 植物の栽培

 玄関先に人の気配がする。


 この時間帯なら間違いなく春絵さんだろう。出迎えて直ぐ、間髪かんぱつ入れずに謝る事が正解だろうが、足が進まない。


「ただいま~。」


 逃げたらいかん。とりあえず一歩を踏み出すんだ。


「お… おかえり~。」


 力無い声で返事をする。春絵さんは何事も無かったかのように笑顔を見せる。


「いい子にしてた~?」

「え~、あ… あのっ あのねー。」


 もう、何と声を出してよいのやら分からない。いや、分かってはいるが、言葉が出てこない。


「すっ す…。」

「す?」


 何を言おうとしてるんだ、僕は。


「スッ! スイカッ!」

西瓜スイカ?」

「春絵さん、ごめーん! スイカ作るから嫌いにならないでー!」


 こういう事か。自分だが自分ではないように思え、少し驚いた。何やら目に熱いものがあふれ、ほおを伝うのが感じられた。


「何を言ってるの。そんな事ある訳ないじゃな~い。疲れてたからなんだよ。休む事も大事なことなんだだからね~。」


 そう言って頭を抱きかかえてよしよしと撫でてくれる。涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。春絵さんの腕の中は、干して取り込んだばかりの布団の匂いがした。


 精神が肉体に影響される、今は子供の肉体だとはいえ自分が情けないぜ。


 もうそろそろ、ガキは卒業しないといかん。


 翌日からは畑仕事に精をだすとしよう。西瓜スイカをつくるには、季節がもうギリギリだった。ご近所の農家さんから苗を3本分けてもらい、ついでに栽培方法を教えてもらえた。有難い。


 僕が畑を起こした面積はまだ小さいが、苗3本だったら十分過ぎる広さだ。それに山から腐葉土を運んで入れてある。準備は万端ばんたんだ。


 さて、西瓜スイカの栽培だが、重要な実験をしてみようと思っている。当然ながら魔法に関する事だ。僕は今回の一件で水と土属性を操れるようになったが、この二つを習得した先に望んでいた能力がある。水(液体)と土(固体)が前提となる能力、それが木属性(細胞)、生命に影響を与えるもの。佐助さんの操る気功法が、この属性にあたる。この能力を使って、子供のうちに試しておきたい事があった。そのタイムリミットが13歳だったので、これを最優先課題にしていたのだが、幸運にも、今回でその前提が満たされた。


 いきなり人体実験は怖すぎるので、まずは植物細胞でテストだ。


 貰った西瓜スイカの苗を畑に植え、上にわらを被せ保温する。ここから木属性魔法の修行が始まる。


 植物は水分と栄養を土から吸い上げて身に取り込み、それをかてに成長する。魔法により、植物本来の成長をうながす為にサポートする。それをイメージして、苗に手をかざし集中する。急激な変化は厳禁だ。本体に与える負担が大きいとのこと。


 魔力無しとの比較もあり、とりあえず魔力を注ぐ苗は一本のみだ。毎日根気よく面倒を見ていたが、どうやらやり過ぎたようで腐ってしまった。失敗だ。


 残りは2本、慎重にいこう。2回目の苗は前より少し成長しているので、一本目より丈夫かもしれない。成長を促進する過程において、苗の色や生命力の変化等を慎重に見極め、無理をさせていないか、ゆっくりと時間を掛ける。この細胞が持つ力、生命のエネルギーとでも言うべきものが、木属性の魔力なのだろう。


 正直に言うと非常に退屈な作業だ。聞くところによると、魔法による植物の栽培についてだが、一般的では無いらしい。その理由は非効率だからだ。効果があるのは確実だが、木属性魔法の使い手が必要であり、量産には向かない。


 それに木属性の魔法を使う為には、それなりに魔法を習得している必要があり、農業に従事しているものが少ないという理由もある。木属性が使えるものは、佐助さんのように医師になる事が通常だ。


 農作物を栽培するにあたり、魔法以外で努力した方が、効率が良いとのことだ。そのうえ高価なものを作っても、それを購入できるものは限られる。領主への献上や祭祀に使用するのに使われる場合のみ、魔力栽培品が使われるらしい。


 すぐに結果が出る作業ではないので、根気が要るが、毎日の日課として魔力を与え続ける。春絵さんたち家族に食べてもらう為に、そして自分自身の為に。


 頑張る気力の源は、自分の為と他人ひとの為。その人の性質にもよると思うが、自分の為だけに頑張る事に限界がきたら、誰かの為にと思うと頑張れる時がある。


 皆に西瓜スイカを食べてもらいたい。これまで協力してくれた事への感謝を込め、西瓜スイカの世話を続けるのだった。


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