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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
五章 北関市総合大会
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199 皇位継承問題8

 確固たる信念があるのなら、己に正直な選択をすれば良い。だが、行動に結果が伴わなかったらどうする?


「結果は二の次、愚直に理想を貫くまでよ。」


 ではその覚悟、見せてもらいましょうか。






 理想と言うなら、あらゆる差別を許さないのは正論と言えるが、目的が正しければ、それに伴う行為【 天皇制廃止 】も正しいと言えるのか。


 この良く言えば純粋、悪く言えば単純な考えからは、どことなく共産主義に近いものを感じる。


 資産を共有化し、貧富の格差撲滅を謳った旧ソ連はどうなった?


 革命を起こし皇帝を銃殺したが、理想を現実に出来ず国家の崩壊を招いた。


 経済大国となった中国は?


 撲滅どころか、えげつない程の格差社会だ。


 来日しブランド品等を買い漁る裕福層がいるかと思えば、地方の中小企業で単純労働をする在日中国人がいるのをどう思う?


 中国が大国なのは間違いのない事実で、決して侮ってはならないが、理想の社会からは程遠い。


 共産主義の理想そのものは悪くないんだよ。問題は、その理想を現実にする手段が無いって事だと思うんやな。



「完璧な政策っスね―――ッ 不可能だという点に目をつぶればよぉ~~~」



 より良い社会を実現するという頂は同じでも、そこへ至るルートに正解は無い。だからこそ迷いもするし遭難もする。日本共産党は彼らと同じ轍を踏まずと主張するが、それを信じるかどうかは貴方次第だ。






 理想を求め天皇制を廃止すると何が起こる?


 全国民の8割が支持する対象が無くなれば、国としての纏まりを欠く。


 数が力となるのは、統制が取れている事が前提。異なる意見があっても、最後は一つの結論で纏まってこそ大きな力となる。


 もしも纏まれなかったら?


 内乱や、外国の侵略を招きかねんと思うのよ。



「内政干渉を許さんのが国際ルールちゃうの?」



 甘いな。


 時と場合で、己に都合よく使い分けるのが大国のエゴイズムだ。


 クリミア併合を覚えているか? チベットやウイグル問題は?


 ロシアがウクライナに属していたクリミア共和国を編入した根拠は、住民投票で共和国の国民が賛成票を投じたからである。だが、日本を含む諸外国はこれを認めていない。



「ロシアの一員となるのが我ら住民の意思だ。民意を無視するのか!」



 認められない理由は、ウクライナ憲法の定めにある。


 ウクライナ憲法によれば、領土変更をするには【国民投票】が必要と定められ、【住民投票】での変更は認められていないからだ。


 つまり、領土割譲を決めるには国民の総意が必要であり、県や市が単独で決められる問題では無いと言う事。さらに開票結果を工作された疑惑もある。


 クリミア併合は、地方の決定が国の意思と乖離した結果に起きた事だ。 


 日本では、地方参政権を外国人に付与すべしと主張する人達がいるが、クリミア併合についての意見を聞いてみたいもんだぜ。






 さて、クリミアの住民投票は出来レースだったかもしれないが、出来レースすら無く侵略されたのがチベットやウイグルだ。


「内政干渉は認められない。」


 チベット、ウイグルが内政問題だって? よく言うわ。


 他国を侵略し自国領へ取り込み終わった後で、守りもしない国際ルールを後出しで持ち出すのはスジが通らんやろ。


 そう思わへん?


 国を奪われた民が団結しないよう、心の拠り所を奪うのが侵略者の常套手段よ。チベット仏教の僧侶であり、指導者でもあるパンチェン・ラマとダライ・ラマが、中国共産党からどの様な扱いを受けたかを知れば良く分かる。ウイグルも民族浄化と呼ばれるほどの状態であると聞く。


 民族が持つ固有の文化と伝統が、この世から消されようとしている。


 チベットにおけるダライ・ラマの存在は、日本における天皇に近いように思う。ダライ・ラマは観音菩薩の化身であり、現世で転生を繰り返し民を導くとされる。今のダライ・ラマ14世法王猊下は、チベット人たちの心の支えだ。






 もし、天皇制を廃止したらどうなるか知りたければ、ダライ・ラマ無きチベットを想像すれば、それに近い気がする。


 民族が団結できる象徴を欠けば、有事の際は致命的。平時の時はボディーブローの様にダメージが蓄積されてゆく。


 今の日本政府が国を治める根拠は、天皇という錦の御旗があるからである。それを失うとなれば、政府の正統性が失われる。


 日本の歴史は天皇と共にあった。


 過去の足跡を否定すれば、日本人のアイデンティティを失う事になりかねない。仮に天皇制が無くなれば、国民の団結心が薄まるのは確かだろう。


 国民の8割が支持する対象が無くなるのだから。


 イデオロギーに天皇の代役が務まるのか?


 民主主義は意思を決定するまでの方法論に過ぎず、格差などの分断を埋めるには未だ不十分だ。


 だったら共産主義や軍国主義、国粋主義で締め付けるか?


 そんな社会は御免被る。心に自由が無ければ人生を楽しめない。


 いろいろ考えると、天皇制は日本にとって現実的なメリットがあったからこそ、今日まで大事にされてきたのだろう。


 具体的なメリットが無ければ、歴史のどこかで皇統が途絶えていてもおかしくないように思うね。史実でも安徳天皇入水など、戦火に命を散らした例もある。


 古の天皇は自ら兵を率いる軍人であり、政治を行う政治家でもあったが、次第に摂政や関白、太政大臣が具体的な施政を担いはじめ、挙句の果てには、征夷大将軍までもが幕府を開き政治を行うようになった。


 歴史に登場した天皇を凌ぐ実力者たちが、天皇を廃し己が王とならなかった理由は、天皇制に具体的な価値を見出していたのだろう。


 そのメリットが発揮された一例が明治維新だ。


 いくら歴史を美化しようと、明治維新は薩長同盟による軍事クーデターに他ならない。しかもだ、倒幕運動のスローガンは尊王攘夷だったはず。尊王はともかく、攘夷はどこへいった?


 クーデターで政権を奪った後で、やっぱり開国しまーすって何やねん。攘夷運動で殺された、罪なき一般人が報われねえぜ。幕末志士なんて世が世ならテロリストそのものやぞ。


 ただ、この政変を単なるクーデターで終わらせず、日本が近代化を進める歴史的転換期に出来たのは、当時の人々の努力と、天皇が持つ権威によるところが大きいと思っている。


 政変後に近代的な中央集権国家を作り上げ、クーデターで発生した内乱が全国に広がるのを食い止められたのは、天皇を擁する大義名分あってこそだろう。


 暮らしやすい社会を実現する為に、天皇制の維持ってのは有効なルート選択だと僕は思うんやな、少なくとも現時点においては。


 維新から150年以上の歳月が経つが、日本人が天皇に代わるものを手に入れられたのだろうか?


 あるとはとても思えんね。自分を筆頭に、そこまで日本人が立派だと思えんわ。無いのであれば、【 天皇制廃止 】は止めといたほうがええんちゃう?

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