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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
一章 入学準備
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19 進むか退くか、留まるか

 前回の訓練内容見直しから、さらに日数が経過した。スケジュールが微妙に変化した点もあるので、細部を確認する。


 ケン兄との投石練習は、学校に併設された投石場でやることになった。学校までジョギングし、練習後に独り走って帰宅。ケン兄はそのまま授業を受ける。


 畑起こしで邪魔な石をどけ、一纏ひとまとめにして置いてあるが、その石を持ち込む条件で投石場の使用が許可された。


 次に、夕食後に何か出来ないかと、前世で空手を少し習っていた事を思い出す。相手が必要な組手は出来ないので、突きや蹴り等の反復練習と型稽古を繰り返す。型なんてほとんど忘れているが、初歩の平安初段という型だけ、かろうじて覚えていた。


 この世界で、素手の格闘術がどれ程の役に立つか分からないが、体力鍛錬の一環として汗を流す。覚えている型は最も簡単なものであるが、本気でやるとそれなりに体力を消耗する。魔力の流れ(気と表現したほうが適切かもしれない)に気を配りながら、同じ動作を繰り返し体の使い方を確認する。


 この様な具合だ。体力と勉強は順調に伸びていると思うが、問題は魔力だ。


 今やっている努力は正しいのか、それとも見当違いで頓珍漢とんちんかんな行為をしているのか、全てが分からない。日々不安が増してくる。


 通常は、どれくらいの期間で習得に至るのだろうか。


「憶えてないなぁ。気が付いたら、何となくって感じかな。」


 とはケン兄の言。ハナ姉は、


「うーん。学校に入学前には出来てたね。魔力を感じる事が出来るだけで、他には何も出来なかったけど。訓練? 特に何もしなかったかな~。腕ビリビリだけ。」


 何も参考にならない。うらやましい。


 何故だ。


 何故、僕だけ魔力を感じる事が出来ないのだろう。才能が無いんじゃないのか。誰でも出来ると言っていたような気がするが、自分は例外なのかと感じてしまう。


 何か問題があるのか。僕と他人との大きな違いは、前世の記憶と言えるだろう。記憶とは経験の積み重ね。過去の数多くの失敗や成功が蓄積され、今の自分が出来ている。前世の記憶により始めは混乱の極みだったが、前世も現世も自分は自分。共通した一個人という認識に至った。


 他者との違いはこの一点に尽きる。


 この記憶こそが、魔力という概念を理解する妨げになっているのでは?


 基本的に、記憶を積み重ねた者の教えは有難いもので、様々な場面で有効なものとなる。その経験の伝達があるからこそ、人類は文化を持つ事が出来た。この教えは先人の知恵と呼ばれる。


 しかし時代の変化に対応できず、既に用済みとなった古い感覚を行動基準とし、若者から学ぶ事を拒否する者もいる。老害と呼ばれるケースだ。


 僕はどうだろう。


 前世の価値観に固執し、新たな魔力と言う概念を、理解する事が出来ないのではないだろうか?


 もしも、魔法を習得する為、前世の価値観を捨て去る必要があるのだとしたら、今となっては不可能な気がする。この年齢にして、既に老害となっているのか。


 もしそうなら、僕が魔力を認識する事は、限りなく難しいのでは?


 そんな考えが頭をよぎる。


 この世界で魔力が使えない事は、どれほどのハンディキャップとなるのだろう。本当に魔法が使えないのなら、どこかで現実を受け入れる必要があるが、どうにも諦めきれない。どの様に解決したら良いか、非常に困難な問題だ。


 何かしらの困難に直面した時、どんな行動をとるかによって、その人間の性質が出ると言われる。大きく分けて選択肢は3つ、進むか退くか、留まるかだ。


 あくまで、魔力習得を最優先として考えた場合に限るが、現状より前進する方法は一つ、契約による魔力の使用、つまり魔術だ。魔術を習得するには、儀式に必要な魔石や、誓約書作成の知識が必要であり、今日明日に契約を結ぶ事は出来ない。


 それ故に時間はかかるが、今から神仏との契約に備え、必要な知識と財力を蓄えなければならない。何が何でも魔力を習得する方法。この道を選ぶ場合、現状より踏み込んだ一歩と言えるだろう。


 次に退くケースだ。ただし、退くとは戦略的な撤退を意味する。直接的に魔力を扱うのではなく、違った方法をとる方法である。その鍵となるのは魔石の存在だ。


 魔石とは魔力が結晶化したもので、誰でも扱う事が出来る。普通では、夜の灯りは蝋燭ろうそくが使われているが、蝋燭ろうそくを魔石に替えて使われる場合があると聞く。だが、高価なものである為に、使用頻度は低いとのこと。


 純粋なエネルギーとしての使用が可能なら、僕でも扱える可能性がある。魔力という概念の無い世界での経験が、何かに活かせるかもしれない。異文化交流の利点は、異なる価値観や考え方を取り入れる事により、これまでは気付けなかった事柄の発見にある。異端として排除される可能性もあるが、この道を選んでみようか。魔石を扱える環境が条件となるので、難しいかもしれない。


 最後は留まるとする選択肢で、つまりは現状維持。


 目の前に開かない扉があり、その先に進みたい。今こそ選択の時だ。


・バールのようなもの(魔術)でこじ開ける。

・この扉ではなく、別ルート(魔石)を探す。

・扉を叩き続ける。(現状維持)

・諦めて、魔力以外に力をそそぐ。人生でやる事は多いはずだ。


 さあ、どうしようか。

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