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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
一章 入学準備
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17 体力鍛錬と魔力感知

 文字学習と並行して、基礎体力を鍛えていこうと思う。学校で人気が出るのは、運動が出来るヤツ、勉強が出来るヤツ、それと面白いヤツだ。面白いとは人間関係が上手いと言い換えても良い。玩具おもちゃを持っているという変化球もあるが、さすがにおねだりする事はできない。


 玩具おもちゃを自分で作るか? いずれは考えても良いかもしれないが今はパスだ。直ぐには思いつかない。


 基礎体力向上をどうしようか。瞬発力と持久力かなと思う。持久力は、早朝にジョギングをする事にした。運動をした後は眠くなるが、午前中の仕事は洗濯なので頭を使う作業ではない。うつらうつらしながら、午後のお昼寝まで耐える。


 瞬発力、筋トレはどうしようかと思っていたら、ケン兄に声を掛けられた。


「最近、頑張ってるみたいだね。」

「来年の入学に備えてるからね。」

「どう? 一緒にやらない?」

「いいけど、たぶん足を引っ張るよ。」

「いいさ。物足りなくなったら、こっちはこっちで適当にやるから。」


 二人の方が張り合いが出る。勝てないまでも、なんとか食らいついていこうと思う。どうやら一年に一度、体力と学力テストがあり、ケン兄もそれに向けて鍛錬したいらしい。


「体力テストってさ、どんなのがあるの?」

「学年によって違いがあるけど、初年度は駆けっこ競争の短距離と長距離、それと鉄棒の懸垂、最後に石投げだな。」

「石投げ?」

「そ、石投げ。30メートル先の的に当てんの。」


 物騒な競技だなと思う。ちなみに、メートルという前世での単位を使っているが、正確に言えばメートルでは無い。そもそも今使っている言語が日本語ですらない。現地の言葉や単位を、前世基準の日本語に翻訳すると、これ位の目安ですよという意味だ。


  そういう事である。


 生誕からこの世界の住人として生を受けたのは、幸運だったのだろう。あり得るのかは分からないが、成人となった後、何も下地が無い状態での異世界言語の習得は、何か特別なものが無い限りは、非常に困難となったに違いない。


 要するに、都合よく解釈してもらいたいのである。


 頭の中の、存在しない第三者に簡単な説明を済ませると、ケン兄に質問する。


「30メートルって、そこそこ遠いよね? みんな届くの?」

勿論もちろん、届かないヤツはいる。というか入学時は届かない方が多いよ。」

「この場所からあそこの木までが、ちょうど30メートルくらいだね。俺の学年は距離が伸びて55メートルだな、奥の背の高いあの木くらいか。」


 そう言うと足元から手頃な小石を拾い、助走を付けて空に投げる。放物線を描いて飛んでいく。惜しくも命中には至らなかっが、距離は十分のようだ。


「すげー、兄ちゃん飛ばすなー。」

「いや~、当たらんかったからな~。」


 謙遜しながらも得意げな表情を浮かべる。これで分かった。今の僕には決定的にパワーが足りない。試しに投げた石は、30メートルに遥かに及ばず地に落ちた。


「よし、力を付けよう。」

「そうだな。純粋に筋肉を付けるのと、魔法で身体強化が大事だよ。」

「魔法? なにそれずっこい。」

「ずっこくない。これも実力のうちなんよ。」


 身体強化魔法。魔法とは、魔力という不可思議な力を操る方法であり、その前提として魔力の存在を知覚できなければならない。通常は学校入学後に学ぶが、入学前に習得している子もいるらしい。


「兄ちゃん、ほんなら教えて。」

「先生と言うんなら教えたるよ。」


 チッ、こっちもか。年上風吹かせやがってと思わんでもないが、わざわざ声を掛けてきたのは、始めから教えてくれるつもりだったのだろう。有難いことだ。先生呼びは、本気か冗談か分からんが、ここは下手に出ておこう。


 ここら辺の加減が難しいんだよなと思う。へりくだり過ぎると相手は調子に乗り、僕の心がモヤモヤする。かといって強気に出過ぎて反感を買い、魔法を教えてくれなくなるのも勘弁だ。


 困ったもんである。


「ケン先生、よろしゅうに。」

「うむ、良かろう。」


 困ったもんではあったが、有益な情報が得られた。


 魔力を感じ、使用する方法は4種類あり、四大元素と言われているが、根本的には同じ力であり、物質にどのように影響を与えるかの違いだけである。


 四大元素のなかで、習得しやすいと言われるものが水、液体に作用するもの。次に大気の風と、燃焼の火、最後に個体の土とされる。一般的にそうだという話で、稀ではあるが土から習得する者もいるらしい。


「でも、どうやって感じられるようになるの?」

「ちょっと腕を出してみて。」

「うひょっ! ビリっときたぁ。」


 変な声が出てしまったが、ケン兄が両手で僕の手首を持ち、何かしとるなと思っていたら、電流のようなものを感じた。


「これが魔力だ。ただ魔力を流しただけで、何の効果も無いけどね。というか未だそれしか出来ん。」

「へ~。」

「体は、血液っていう液体が流れてるから、その魔力を活性化しただけ。自分の体だけなら、少しだけだけど力を強くしたり出来るんだ。佐助さんの気功法の基礎だね。気功法は他人の力も強く出来るみたいだけど。」

「は~、これがそうなんか~。」


 水は、実際に体で触れて感じられ、力の流れを理解し易い為に、魔力についても感知しやすいとの事だ。固形物であり変化の乏しい土が、感知するのが最も困難な理由でもある。


「俺の訓練にもなるし、水の魔力の感知が出来るまで、今みたいに魔力を流したるよ。それとジョギングは一緒に走るか?」

「うん、ありがとう。」


 そんな訳で、ケン兄とのトレーニングが始まった。ジョギングの前に魔力を流してもらい、その感覚を覚えて走り出す。ケン兄に付いていこうと頑張るが、徐々に距離が離れていく。ケン兄とは年の差が5歳あるので致し方ない。


 投石練習の場所まで走ると、息が荒くなり、血流も早くなっているのが感じられた。この血流が魔力の流れと同じなんだと思い、魔力の流れをイメージし、座禅をして精神を集中する。その後は投石練習だ。


 このトレーニングを日課とし、日常が突然忙しくなった。


 ああ、筋トレがまだだった。


 これまでは、のほほんと毎日を過ごしてきたが、やることが出来ると時間が幾らあっても足りなく感じる。来年とはいうものの、あっと言う間に迫ってきそうだ。

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