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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
四章 モラトリアム ― 実験開始前 ―
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160 社会通念

 体力テストが終わり、自在流道場へ行く日程を決める運びとなった。


「何時がいい?」

「時間ってどんくらいの予定なん?」

「分からん。師範が挨拶したいって言っているからな。それだけなら大して時間は取られないと思うんだが、そこから先は知らん。」

「挨拶とか言ってぶちのめそうとしとるんやないやろな。」

「いや、さすがにそれは無いと思うぞ。」

「思う? あるかもしれんって事か?」

「うーん……。」

「悪い、意地悪な返しやったな。まあ、活人剣を掲げる自在流がそれをやったら、流派の存在価値っちゅうもんが無いからね。」

「活人剣を知ってるのか?」

「ある程度はね。細かい解釈が違っとるかもしれんが、何となく理解したつもりではいるかな。」

「自在流は護国剣って名乗ってるから正義にはうるさいんだ。だからさ、この前の喧嘩がバレて凄い怒られたよ。お前には剣を持つ資格が無いとか言われて。」


 謝るべき相手を呼び出すってどうなん? 敵の本丸に乗り込むようなもんやろ。普通ならビビっちゃうぜ。


 事実、僕も少しビビッとる。


 そらそうやろ、相手は僕より遥かに目上の人間だ。いくら理不尽だと感じても、それに逆らうのは度胸と覚悟が必要だ。


 今回の件は、僕が生活する社会の在り様について見識を深める良い機会だろう。自在流の招きに応じた最大の理由は、他流派の様子を知りたいというだけでなく、自分の社会に対する理解を広げる事にある。いわば社会見学。


 正義を自認する自在流の価値観を知れば、異世界の倫理観がどのレベルに達しているか参考にはなる。身内ではない世界に触れる事が出来るのは貴重な経験だ。


 最悪、大人数で襲われようとも切り抜ける方法はある。本気で覚悟さえすれば、やってやれない事もないのだ。


 手段を選ばず、失うものを考えなければの話だが。


 例えば放火。


 油を入れた壺を懐に忍ばせれば火炎瓶として使える。こっちは火属性魔法を習得済みなんや。木造の家屋なんぞ火の海に沈めてくれるわ。


 お次に刃物。


 いくら何でも所持品チェックはされんやろ。短刀を持ち込み人質を確保すれば、脱出くらいは出来るはずだ。


 詰まり、手段を選ばなければ、その場を切り抜ける事だけならどうとでもなる。ただし、それは社会的デメリットを背負う覚悟ありきの話である。


 こんな危ないヤツを野放しにする程、治安が悪いとは思えない。社会から隔離すべき犯罪者以外の何者でもないわ。


 今の僕は未だ子供で、異世界の社会通念ってのが良く分からん。抵抗なく馴染む習慣があれば、どうしても受け入れられない事も出てくるだろう。それにどう対処すべきか、自分なりの基準を確立する必要を感じている。


 現代日本の倫理観をそのまま持ち込むのは不可能だと思う。同じ時代、同じ社会ですら理解し合うのは難しいというのに、歴史の系譜が全く異なる異世界だ。


 2つの世界を創りたもうた神様が同一の存在だとすれば、善悪の基準も同じなのだろうが、それを確かめるすべはない。


 現在やるべき事は現状把握だ。異世界の常識を理解する必要がある。その上で、どんな生き方を選ぶかだ。



 問題は、現実が自分の理想とかけ離れてた場合。さあどうする?


1. 細けぇこたぁいいんだよ。


「世界的ですもんね。乗るしかない、このビッグウェーブに。」


 郷に入っては郷に従え、異世界に入っては異世界に従え。


 気に食わぬモノは力で全てをねじ伏せるのみ。奴隷制度あれば奴隷を買い上げ、美女を侍らせ人生を謳歌する。力こそ正義、異界の勇者にひれ伏すがよいぞ。


 ライトノベルでは定番の如く登場する奴隷制度だが、元いじめられっ子や社畜が異世界で力を持った途端、さも当然のように奴隷を購入するのをみると、ようやるわと思う。


 奴隷を描写するだけならまだ分かる。


 過去、若しくは現在。奴隷なる恥ずべき制度の存在は紛れもない事実。しかし、自分自身が社会で虐げられた経験を持つ主人公が、それを利用する立場に回るのは如何なものか。底知れぬ心の闇を感じるぜ。


「奴隷とはいっても、それなりの待遇はしてるぞ。給料は払うし無茶な命令もしていない。恵まれた生活が保障されているんだ。」


 ふーん。


 ほんならな、その奴隷と一般的な小間使い、お手伝いさんとでは何が違う?


 それは自由意志による契約が存在するかどうかだ。


 対等な契約であれば、内容に不服を感じた時、申し出により何時でも解除できる。仕事の引継ぎなどの問題があれば、一箇月前に申し出るなどの条件が付く事はあるが、申し出そのものは自由である。


 奴隷契約にそれがあるとでも?


 自由が無いからこその奴隷だ。


 人の尊厳を奪っておきながら、俺は優しい御主人様だと悦に入る。


 こんなストーリー展開が人気となっている事実は、社会から差別を無くす難しさを如実に示している。


「俺の小説は社会派じゃないんだ。そこまで考えて書いてねえよ。」


 無意識に出る言動こそ、その人の本質が反映されるケースが多いんやで。虐めや社畜問題を取り上げておきながら、それは無いやろ。


 だが、自分と合わないというだけで、他人の作品を否定するのは心が狭い。奴隷描写が一定の人気を得ている事実は、人間の本質を現している。


 私小説のように、己の深層を腸まで曝け出し、敢えて醜さを見せつける事が芸術に昇華するケースもある。


 ネット小説サイトを何かに例えるなら蟲毒だ。タン壺の中にも、恐るべき何かが潜んでいるやもしれぬ。


 でつすれどもくろまず、泥中の蓮。


 肝心のお前は何だだって?


 壺の中にも入り切れず、外側にへばりつくだけの半端モノよ。


 因みにですな、現代日本で強制労働をさせると、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金となります。(労働基準法)


 ご留意召され。

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