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輪廻の果てへ  作者: 葉和戸 加太
四章 モラトリアム ― 実験開始前 ―
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159 競技と規則

 肥満率が下がったと言う事は、体力テストのライバルが手強くなったと言う事。心を引き締めて臨まなあかん。


 剣豪の果し合いならともかく、命のやりとりをする訳じゃない。


 正々堂々、全力を出す。


 負けず嫌いなんか知らんが、時に卑怯な手段を使って勝ちにくるヤツがおるが、それは競技者の品位を落とすだけだ。


「国威発揚、そして金と名誉。何としても勝利をもぎ取る。ドーピングだ。」


 ズルしたのがバレると、評価は全て取り消される。


 個人的な意見だが、ドーピングを使ってまで肉体の限界に挑みたいのなら、薬物使用を許可する別カテゴリーの大会を設けたらどうなんやろか。


 薬物どころかサイボーグ可。


 参加条件となるのは、指令を出す脳ミソが自前であることのみ。


 己の意思で手足を斬り落としたり、4本の手を持つ異形の選手が登場するかもしれんが、健康問題は自己責任。全ては選手の自由意志に任せる。


 人体と科学の融合。サイバーパンク時代の到来だ。


 マリーシアとか、バレんかったらズルにはならんと言い張る連中には、是非とも参加して欲しい。究極のバーリトゥード、ゴム弾なら銃火器も許される。


「スポーツ大会は戦争と同じ。甘さがあっては勝てんのだ。」


 いや、みんなスポーツをやりに来とんねん。戦争がやりたければ別カテゴリーでやってくれ。


 人生で狡賢さが必要となる場面もあるだろう。しかし、他人を出し抜く事が褒められる風潮ってどうなんやろね。パンデミックのような規律が求められる緊急事態に陥った時、命取りになりかねないと思う。考え過ぎだろうか。


 戦争と競技に似た部分はあるのかもしれん。ただ名誉の為のみならず、国や金が絡めば猶更だ。


 似てるからこそ混同しやすいが、異物が混ざっては純粋に楽しめない。


 そんなトコに金なんぞ落としたくねえよ。


 いろんなスポーツ運営者の方々、宜しく頼んます。


 あくまで個人的意見である。


 さて、学校の体力テストに戻ろう。難しい事は考えず真面目にやるとしますか。卑怯な事ばっかやっとると、周りから何と思われるか分かったもんじゃない。


 頑張ってやってるうちに、他の子らと話をするようになった。競技はそれなりの成績を取ることが出来たが、僕としては新たな友人が出来た事のほうが嬉しい。


 彼らの話を聞くと、少し僕の事を警戒していたようだ。その理由として、


 自分と同じ年代の子が、なにやら病院で医者のまね事をしとるのを見かける。


 それどころか、お侍に交じって剣道場に通っとるらしい。


 そのうえ、よう分からん方言を使うと聞く。


 どこぞの間者スパイではなかろうか。


 下手な事すると、お上へ告げ口されるかもしれんぞ。


「おぬし、どこの手の者だっ!」


 想像力が豊かやな。


 子供ってのは、とんでもない発想をする時がある。知識が乏しい為、既成概念を越えた発想をし易いのだろう。無視できないと感じるものもあれば、馬鹿馬鹿しくも微笑ましいものもある。


 前世の小学校で学年が上がり、新たな友人が出来た時の事。学校帰りにその友達の家へ遊びに行き、帰宅する時間になった。


「じゃあまた学校で。」

「バイバイ。」


 家路についたは良いが、始めての道なので迷ってしまった。その時、一緒にいた友人がとんでもない事を言い出した。


「あいつ……。」

「ん?」

「あいつは悪魔やったんや。」

「悪魔ぁ~?」

「俺らを道に迷わせて、家に帰れんくする悪魔やったんや!」


 すげえなその発想。もしかして突っ込み待ち?


「そんな訳ないやん。よう分からんけど、方角はこっちで合っとると思うわ。はよ帰るぞ。」


 本気で言ってそうだったので、真面目に返しておきました。


 その後どうなったかって?


 何事も無く無事に帰宅っすわ。


 オチの無い話で悪かったな。


 ふむ、方言ね。


 最後に、僕がなぜ方言を使うようになったのか説明しておこう。


 僕の口調が格さんから影響を受けているのは言うまでもないが、より正確に言うなら、格さんの師匠達からである。


 僕は両親が死亡した後、格さん兄弟と春絵さんに育てられたのだが、彼ら以外にお世話になった人達がいる。それが格さんを猟師として鍛えた人達だ。


 格さん達は幼子を育てると決意したが、彼らだけでは無理があった。


 夜はともかく、昼間は仕事で手が離せない。病院内で面倒をみることも難しい。流行り病は終息に向かっていたが、未だ気の抜ける状況では無く、体力のない幼子を病院内に放置すれば、感染して死亡する可能性がある。いくら魔術とはいえ限界というものはあるのだ。


 そこで白羽の矢が立ったのが、格さんの師匠筋だ。


 師匠の家族に預けられる事となり、朝から晩までそこで過ごす。格さんの師匠は関西地区出身であり、僕の言葉遣いが今の訛になったのはその影響らしい。


 らしい?


 いやね、僕自身にその記憶は無いのよ。聞いた限りでは、預けているうちに訛がうつったのだという。


 ほら、僕の一番古い記憶ってさ、前世の記憶やら何やらで混乱しとった時やからね。どこまでが現実で、夢で、前世の記憶なんか良く分からへんのよ。


 なので、僕が言えるのは「らしい」という事だけ。


 そういう訳なのである。


 現在の師匠達は北関市に居ない。師匠は病で命を落としたが、その家族と親類は北関市に数年留まった。僕が預けられていたのはその時だ。


 彼らは猟を生業としていたが、戦乱が終結した後は、野生動物を狩るのが困難となった時期があったらしい。


 戦で命を落とした者たちの怨念から、妖魔が発生したのだ。


 人に危害を加える妖を妖魔と呼ぶ。掃討作戦が行われた結果、現在は落ち着いているが、当時は戦の後始末で身動きが取れず野放しであった。


 妖魔が跋扈ばっこする土地での狩りは、非常に危険で実入りが少ない。


 見切りを付けた彼らは故郷へと帰っていった。僕の薄っすらした記憶では、誰かとの別れがあり、ギャン泣きしていた覚えがあるが、もしかすると、この時の出来事だったのかもしれん。


 前世の記憶と思っていたら現実のものだったり、それどころか、自分に都合よく改竄かいざんした可能性すらある。


 人の記憶なんて曖昧なもんだ。

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